第五十一話
「女湯に行けよ! それとも何か、自分は狐なので性別関係ないです……とか言っちゃう気か!?」
言いかねない。
眼の前にプカプカ浮かんでいるこいつなら言いかねない。
というか今更なのだが、なんかすごい気持ちよさそうに浮かんでいるな――まるでラッコの様だ。まぁさすがに背中を天上に向けてはくれているが、小さいお尻が丸見えで困る。
「お兄さん、何か鬼畜な事を考えて居ますね?」
「っ!」
い、いや考えてない。
少し尻というワードを頭の中に浮かべてしまったが、それくらいセーフのはずだ。
「それとさっきの質問……狐だから自分を襲うという意味ですか?」
「どういう解釈したらそうなるんだよ!」
もう駄目だ。
毎度のことながら話が全くかみ合わない。
だがここでテンションを上げまくればいつも通りとなってしまうので、ここはクールなテンションで行こう。
「…………」
「お兄さん、また鬼畜な事を考えて居ますね?」
「…………」
よし、落ち着いた。
プカプカ浮かびながら露天風呂を漂っている謎の生物が発する言葉に惑わされず、俺がなんとか自分の心を落ち着けると、改めて言う。
「なんでお前がここに居るんだ?」
「……その様子だと本当に気が付いてないみたいですね。お兄さん、ここは混浴ですよ」
「は?」
「ここに来る時、男湯から露天風呂にきたと思いますが……ふぅ」
「…………」
「…………」
「途中で喋るのやめるなよ!」
「!」
俺がツッコミを入れると、天上目指してピンと立つ尻尾。
うん、何もかもがいつも通りだ。
結局どう頑張ったところで、こうなる運命だったらしい。
「絶好調ですね、お兄さん」
「おかげさまでな!」
あぁ、なんかこのやり取り……もはや安心感すら覚えてくるな。
「それで? 説明の続きはどうしたんだよ?」
「いえ……自分は説明キャラではないので――ふぅ、簡潔に言うと面倒くさいです」
「ほ、ほーう」
自分は説明キャラではないのでどうたらこうたら言い訳をするかと思いきや、それすら面倒くさくなったのか、いきなり結論を言いやがった。
さすがはリン、そんじょそこらのダメ狐は到底太刀打ちできないな。
「要するに繋がっているのじゃよ」
ん、この声は?
「女湯と男湯は別れている様じゃが、それぞれから続く露天風呂は同一のもの――つまりここだけが混浴になっているのじゃ」
独特の喋り方。
どうも聞き覚えのある声の方へと俺が視線を向けると、そこに居たのは――




