第三十六話
傷心旅行。
とでも言えばいいのだろうか。
リゼットのふとした思いつきによって、皆で旅行に行くことが決まってから今日で二日が経った。
二日間かけてみんなで話し合った結果、決まった行き先はとある温泉地。
ここから東へとかなり離れた位置にあるその町は、町の至る所に温泉が湧いている大人気な観光場所らしい。
なお旅行先が温泉地に決まった理由は、俺がクビになったことによりかなりへこんで傷心していたことが原因らしい――自分ではそこまで傷心していた自覚はないのだが、周りからそう見えるのならば、やはり俺は傷心しているのだろう、
「まぁ傷心は置いておいても、温泉はかなり好きだしな」
温泉。
人を癒す桃源郷。
おまけにその温泉がたくさん湧いている観光地という事は、いわゆる温泉街と言ったところだろう。
「…………」
俺がそこに行きたいと思うこの気持ちは、ただ温泉地に行きたいという願望から来るものではない――この世界における温泉とはどのようなものなのか知りたい。
元の世界と同じなのか違うのか知りたい。
要するに知的好奇心だ。
あとはアレだな。
他の街の様子も知りたい。
何だかんだこの町の様子しか知らないからな、出来る事ならそろそろ他の町の様子を見てもいい頃だろう。
「お兄ちゃん、何ぶつぶつ言ってるの! 早く行かないと遅くなっちゃうよ!」
「いや……遅くなるって、転移魔法使うんだろ?」
「そうだけど、気分の問題なんだよ! ね、リゼットさん!」
「え……あ、はい。私もそう思います」
言って荷物を持ちなおして、ハッとミーニャに合わせるリゼット。
うん、完全に聞いてなかったな――こういう所がまたリゼットらしいところだが。
「それにしても、リンの奴は本当に来ない気か?」
と、俺は昨日のリンの発言を思いだす。
彼女は相変わらず炬燵で丸まってこういったのだ。
『自分は移動するのが面倒くさいので』
ダメ狐ここに極まりだった。
こいつは一体どれほどの覚悟で動かない気なのだろうか。
「まさか火事が起きても動かなかったりしてな……」
「お兄ちゃん、早くしてよ!」
「ん、あぁ。今いくよ……って、誰の荷物だこれ?」
俺はミーニャに返事をした後、玄関に置き忘れられていた大き目のバッグを持って彼女たちの下へと向かうのだった。




