第三十一話
「なるほど、それで帰りがおそいわけじゃな」
「あぁ、連れ出しておいてなんだが、もう手の施しようがない」
「お師匠さま、何とかしてよ!」
「魔王であるマオ様の力、見させていただきます」
俺から話しをきき、ミーニャとリゼットからそれぞれ応援の声をかけられたマオは、うむうむと頷いた後、またも眠っているリンの下へと歩み寄り、その眼の前にゆっくり腰を降ろす。
「リン、起きるのじゃ!」
「んぅ……マオ姉様? おはようございます」
「おはようではないのじゃ! もう時刻は夜、おぬしはいったいいつまでここに居る気じゃ!」
「炬燵が……くぅ……」
「話している時に寝るななのじゃ!」
ほぼ俺と同じ会話のノリでバッシーンっとリンの頭をひっぱたくマオ。
俺では出来ない姉妹だからこそのノリだろう。
するとリンもようやくしっかり話をする気になったのか、「痛いです」と呟いて続ける。
「そもそも自分が帰る理由に思い至りません」
「おぬしの家はここではないのじゃ! 引きこもりすぎてそんな事も忘れたか! というかおぬし、どうせ炬燵に入ったら出るのが面倒くさくなり、終いには帰る事すら面倒になっただけじゃろ!」
「そうですよ、マオ姉さん……それがどうかしたんですか?」
「なっ!? 開き直ったじゃと!」
なんだろう。
マオが来ればリンも大人しく帰ると思っていたのだが、雲行きが非常に危なくなってきがする。
「それにマオ姉さん。自分はそこに居るお兄さんに色々されて汚されてしまったんです……もうあんなことやそんな事をされたり、恥ずかしいところをたくさん見られて」
よよよっと泣きまねをしながらリンは平坦な口調で言う。
「もう自分にはマオ姉さんの所に帰る資格はありません」
「なるほど……」
なるほどってなんだよ。
あと、ギロって俺の方を睨み付けるのは止めて欲しい。
まさかマオの奴、リンの妄言を信じているわけじゃないだろ――。
「つまりこやつの事が気に入ったから、当分はここで暮らしたいと?」
「簡潔に言うのなら、そういうことです」
!?
「何がつまり!? 何が簡潔!? どこをどう訳したらそうなるんだよ!」
ついついツッコミを入れたくなる姉妹間の会話。
二人はそんな俺のツッコミを軽やかにスルーして話を続ける。
「どうしてもか?」
「どうしてもです」
「……うーむ」
「……くぅ……くぅ」
「寝るなといっているのに……まぁ仕方ないのじゃ」
何が仕方ないのかはわからないが、何だか凄く嫌な予感がする。
だってこの流れは間違いなく――と、俺がこの先の流れを予測しているとマオは案の定ミーニャに振り返って言う。
「しばらく住まわせてやって欲しいのじゃ、これで引きこもりが治るなら御の字じゃしの」
やはりそう来たか。
そしてそれに対するミーニャの答えは。
「いいよ!」
やっぱり軽い!
どこまでも軽い、リンが居座る事によって俺の精神がどれほど摩耗するかわかっていない。
というかこいつ、食費とかは大丈夫なのか。
すると俺の脳内を読んだかのようにマオは言う。
「生活費などは我が送るのじゃ……それとおぬし」
「俺か?」
「そうじゃ。リンの面倒を見る仕事、最後までよくやってくれたのじゃ。おかげで部屋に引きこもっているリンが、まさかの外泊まで可能な状態まで回復したのじゃ!」
「いや……回復してないだろ、これ」
ん、っていうか待て。
「最後?」
「うむ、今日でおぬしの仕事は終りじゃ。まさかこんなに早くリンを更生させるとは思わなかったのじゃ! あとはリン自身がここの住人として過ごす問題じゃからな、もう面倒はみなくていいのじゃ」
「いや、ちょ……」
あれ、これってクビ?
そう気が付いたのは、マオが帰ってしばらく経ってからだった。




