第二十五話
「着いたぞ」
「ここは……どこですか?」
俺がリンを連れてきたのは城前にある転移魔法陣の先、すなわちミーニャの魔法用具店こと俺の家――より正確に言うならば、マオが正式に裏庭に作ってくれた魔法陣の上だ。
マオの城の周囲を散策するのもありだったのだが、雷の音がうるさいのに付け加え、天候もあまりよくない場所を歩くより、どうせならば青空の下に出た方がいいという判断だ。
実際、リンも辺りを心なしか楽しそうにきょろきょろして――
「まさかお兄さん、自分の事を誘拐するつもりですか?」
こいつ、耳をピクピク、尻尾をフリフリさせながら何を言っているのだろう。
彼女の妄言はなおも続く。
「自分を誘拐して欲望のままに自分を辱めた後は、自分を人質にマオ姉さんを――」
「お兄ちゃん、帰ってきたの……って、リンちゃん!?」
などと裏口の扉を開けてひょこりと顔を出したのは、俺の妹こと魔法使いのミーニャ。
彼女は簡易なサンダルを履いてこちらにやってきて言う。
「やっぱりリンちゃんだ、久しぶりだね!」
「久しぶりです、ミーニャさん」
面倒くさそう……というか、眠そうな顔で言うリンを全く気にせずにミーニャはさらに続ける――余談だが、話を続けるごとにどんどんリンの瞳が閉じてきているのは気のせいだろうか。
「リンちゃんが外に出るなんて珍しいね、大事件だよ!」
「はい、自分も出たくはなかったんですけど……お兄さんに美味しい物を上げるからと無理やり連れ出されました……拉致みたいなものです。きっとこのあと自分は欲望――むっ!?」
「はい、少し黙ろうか」
俺は咄嗟にリンの口を手で塞いで、もうすぐ口から吐き出されるところだった妄言を完封する。
まだ俺に対して言うだけならいいが、それをミーニャに聞かれでもしたら、こいつの性格上それを種にバカにされかねない。
ただでさえ疲れる奴なのに、これ以上疲れるのだけは全力でお断りしたい。
だがしかし、
「どうしたの、お兄ちゃん? リンちゃんが何か言いたそうだよ」
「んーーーーー……」
なんか少し棒読みなリンの声。
確かに俺の手の中で口がもごもご動いているので、何か居たそうではあるが言わせるわけには行かないのだ。
そして俺の精神衛生上、ミーニャにこれ以上突っ込んで欲しくもない。
「と、とにかく入ろう……な?」
「んーーーーー……んーーーーーー……」
第三者から見たら本当に誘拐でもしているような構図で、リンを人形の様にひょいと持ち上げて俺は裏口へと入って行くのだった、
「変なお兄ちゃん」
背中でそんな声を聞きながら。