第二十三話
「ふふふ……」
「どうしたんですか、お兄さん?」
場所は変わってマオの城、その寝室に俺は立っていた。
完全中二病といった感じのこの部屋の持ち主は、当初はこの城の主であるマオのものであると思われたが、それは間違っていたようだ――なんせこの部屋に住み着いているのは完全無欠の引きこもり。
「また来たんですね、おはようございますお兄さん」
「うん、もう昼だけどね……」
「ではおやすみなさい」
「って、寝るなよ!」
はぁ。
このマオの妹こと白ロリ狐っ娘――リンと話していると、本当に自分のペースというものを見失ってしまう。
そして、それに付け加え非常につかれる。
どれくらいつかれるか具体的に言うのなら、ノリノリの時のミーニャと話している時の三倍くらいつかれる。
このまま行くとこいつの引きこもりを直す前に、俺の精神力が尽きてミイラになってしまうかもしれない。
割と本気で。
「お兄さん、自分はつかれたので寝たいです」
「お前寝てるだけで何にもしてなよね?」
「寝てるだけでも人は――」
「あーいい、もう何も言わなくていい」
どうせこいつは寝てるだけでも人は疲れると言いたいのであろうが、それは寝疲れであって全く健康的なものではない。
「とにかく今日こそはこの部屋から出てもらう……おい、そんなに嫌そうな顔をするな!」
「嫌なわけではありません、面倒くさいだけです」
「…………」
こいつ、本当にダメ人間――いや、ダメ狐だ。
リンを見ているとマオが俺にこいつの世話を頼んだ理由もわかってくる――おそらく魔王という立場上忙しいマオはリンの世話を見れないのであろう。
そうすると、彼女は部屋から出てこないでひたすらに眠り続ける。
そりゃ心配するよな、自分の妹がそんな引きこもりなったら。
と、俺はミーニャが引きこもりになった時の事を想像して鬱になる。
「……くぅ」
と、俺がミーニャの事を考えている間に完全眠ってしまっているリン。
どうやら本格的にこの部屋の外に出る気はないようだ。
「……いいだろう」
そっちがその気ならこっちだって考えがある。
これはあくまで最後の手段に取っておきたかったのだが、相手が相手なので仕方がない。
俺は事前にミーニャに頼んで用意してもらっていた正方形の容器を取り出し、その蓋を開ける。
すると、
「っ――この匂い!」
さっきまで炬燵で丸々猫よろしく爆睡していたリンが、布団を吹きとばして超反応よろしく飛び起きたのだ――彼女の眠そうな視線が向けられている先は俺の持つ長方形の容器。
「気が付いたか、この中にはゲアラブアの天日干しが入っている。寝てばっかりなのにこれを食べたら太るという理由で、マオに止められているんだろ? もしもお前が私服に着替え、俺と一緒にこの部屋から出るというのならば、こいつを特別に渡してもいい」
「取引……ということですか?」
ぐぐっと悔しそうな顔するリン。
女の子がそういう顔をしているのを見ていると、何だか悪い事をしているような気分になってくるのは何故だろう。
「さぁ、どうする?」
「……っ、お兄さんは、鬼畜です」
リンは唇を噛みしめながらゆっくりと頷くのだった。




