第十九話
魔王の物というに相応しい荘厳かつ禍々しい城。
そんな城に招かれた俺が、最初に連れてこられたのは城全体の大きさから比較すると、わりかしこじんまりした部屋だった。
室内は黒と赤を基調とした調度品で統一されており、元の世界でいう所の中二病丸出しのような部屋だ。特にシャンデリアと鏡の前に置かれているドクロが痛々しい――と、思いそうになるのだが、マオはこの世界で特別な力を持った正真正銘の魔王であるため、別に中二病でもなければ、痛々しいわけでもないのだと思いなおす。
要するに彼女にとってはこれが普通なのだろう。
「さて、おぬしの仕事の内容は単純じゃ――そこに居る我の妹の世話をすることじゃ! ……っと、もうこんな時間なのじゃ。それでは我は用事あるので出かけてくるが、おぬしが帰る頃には帰ってくるのじゃ」
「じゃあの」と、そんな事を言いながらマオは部屋から出てしまう。
「……は?」
説明それで終わり?
っていうか、『そこに居る我の妹』ってどれ?
ざっと見た限り、この部屋の中に生物が存在している様子は感じられない。
だがマオの性格から考えるとこんな意味のない嘘を吐くとは思えない。
ゆえに俺は彼女が最後に指を差した方向を食い入るように見つめる――するとそこにあるのは、これまた黒と赤を基調としたベッド。そして、その上には盛り上がった布団が――って、
盛り上がった布団?
「…………」
俺は無言でゆっくりと、その盛り上がった布団へと近づいて行く。
するとその布団は明らかに生物が呼吸しているかのように、規則的に上下している――やはり中に何か居る。
マオの言が確かならば、この布団の中に居る者こそ彼女の妹ということになるが……ここはやはり調べた方がいいだろうか。
「……よし」
調べた方がいいに決まっている。
俺は誰にともなく頷いて、盛り上がっている布団の端を掴み、一気にめくり上げる。
するとそこには、
「こ、これは!」
白い。
自分の身長よりも長いのではないかと思うほど長い真っ白な髪を持ったロリ狐っ娘が、これまた真っ白いワイシャツのようなパジャマを着て丸くなって寝ている。
この城には狐っ娘しかいないのか!?
というか、この世界の魔の血族はみんあ狐っ娘だったりするのだろうか。
もしそうだとするのなら、この世界はなんともほっこりする世界だな。
などと、俺が顔をニヤニヤさせていたら、布団を剥ぎ取られて寒くなったのか、白狐っ娘が瞳を開ける。
彼女はその氷のように美しい青い瞳で俺を見つめると、ベッドの上にペタリと座り直し、
「おはようございます」
「お、おう……おはよう」
眠たげな半眼でこちらをボーっと見つめてくる少女。
顔はマオの妹だけあって彼女とそっくりなのだが、基本的に強気な彼女とは眠そうな眼もとが大違いだ。
そんな彼女はさらに眠そうに目をこすりながら言う。
「お兄さんは誰ですか? ……状況から見て、自分を襲いにきたんですか? だとしたらこの後、自分はお兄さんにどんな事をされてしまうのでしょう……」
などとひたすら平坦な口調で言った後、自分の体を抱きしめる白狐っ娘。
「……うん」
マオの奴が俺に、とてつもなく面倒くさい仕事を押し付けたことだけは理解できた。




