第百五十三話
「えーっと、なんかこういうやり取り前もした気がするけど、今回も一応言わせてもらおう」
俺は頭をポリポリとかきながら、眼の前に立って尻尾をフリフリしているダメ狐ことリンに言う。
「いったい何の用だよ……毎回毎回、おかしなタイミングでおかしな事しやがって」
毎回毎回、本当にこいつは懲りない。
暇なんじゃないかと疑いたくなるほど、確実に俺に絡んでくる――なんだろうか、俺に対してちょっかい出さないと死んでしまう呪いにでもかかっているのだろうか。
「……まぁ、そんなところです」
「勝手に人の心をよむな!」
「耳を引っ張らないでください……鬼畜です」
ったく……こいつに絡まれた事によって、昼飯は食えないと考えた方がいいだろう。
絶対長引くから。
こいつに絡まれると、絶対に話がややこしくなるから。
「もう一回聞くけど、いったい何の用だよ」
「そろそろ他の人に……主に自分の姉にNTRされそうなので、言うべきことを言おうと思います」
「はぁ?」
何でもいいから用事があるなら、なるべく早めにすましてほしい。
昼飯を食べられる希望が少しでもあるのならば。
「お兄さん……好きです、結婚しましょう」
「あぁ、うん。わかったわかった……ん?」
なんか適当に聞き流していたら、とんでもない台詞が耳に飛び込んできた気がするのだが。
「お兄さんの自分への日頃の態度……勝ちは確信していましたが、やはり照れるというか、妙な気分ですね……鬼畜です」
「え、ちょっと待った……」
「なんですか……お兄さん?」
「っ!」
な、なんだこの耳をフルフルと震わせて不安気に下から見つめてくる小動物は。
先ほど妙な台詞を聞いたせいか、いつもと違って可愛く見える気がする気がしなくもない気がする。
「お兄さん、失礼ですね……鬼畜です」
「だから心を勝手によむな!」
というか何だ。
すっごい軽い感じで告白?みたいな事をされたが、これは割とマジなアレなのか?
「マジですよ」
「いやだから心をだな……」
あぁやばい、なんか頭が痛くなってきた。
前もサラッと言ったが、別にリンの事は嫌いではない。
というかす、すすす――。
「ヘタレですね、お兄さんヘタレです……鬼畜です」
「うるさい、あと何度も言わせるな」
何だろう、この唐突な展開からの超軽い告白。
何の感動もない日常会話の延長線上のような事態。
だが、なんだがそれがどうしようもなくリンらしい。
あぁ……こいつってこういう奴だもんなと安心さえ覚える。
「つまりOKという事ですね?」
言って腰の辺りに抱き付いてくるリン。
尻尾をビチビチ、千切れんばかりに振っているが……。
「いや、まだ何にも言ってないだろ!」
言ってないけどまぁ、こいつは俺が何と答えるかはわかっているのだろう。