第百五十二話
「鬼畜だ」
何が鬼畜って、状況が鬼畜だ。
思わずヒーヒー言って、この場からの逃走を試みたい。
いや、本当にそうしたい。
目を閉じて、耳を塞いで目の前の事実をなかったことにして、おうちに帰って布団に入って寝て居たい。
なんか今寝れば、ものすごくいい夢が見られる気がする――確証はないのだが、なんとなくそんな気がするのだ。
ニュアンス的には二度寝をする前の感覚に似て居るだろう。
起きなければならない。
でも寝たい。
むしろ起きなければならないからこそ、寝たいのだ。
「…………」
ただ一つ。
先ほどの例と現在の状況で、決定的に異なる事がある。
現在俺が直面している状況は「しなければならない事」ではない――まぁそう言ってしまうと、そもそも二度寝と全く近くないじゃないかと言われるかもしれないが、あくまでそれはニュアンス的な事だ。
さて、では現在何が起きているかというと。
「お兄さん……鬼畜です」
ミーニャが作ったご飯を食べるために家に入ろうとしたら、最近すっかりダメ狐として際立ってきたリンに拉致られた。
それはもう壮大に拉致られた。
具体的に言うならば、なんかすごい魔法陣が足元で発動して急に世界が一変。気が付いたらここ――マオの城?のどこかに居た。
しかも。
「鬼畜です」
リンはさっきから俺の事を見て同じ事を繰り返すばかり、どう考えても行っている事はこいつの方が鬼畜なのに、俺に鬼畜鬼畜と言ってくる。
故に俺は言う。
「鬼畜だ」
と、この状況が鬼畜すぎると俺は言う。
これから起こるであろう面倒くささが、とんでもなく鬼畜であると。
いっそのこと、「ふぇぇ……面倒くさいよぉ」とでも言えば、状況が変わったりしないだろうか。
「はぁ……」
何でもいいけど、お腹が空いた。