第百四十六話
「やはりこのままじゃダメだな」
俺がどうして店主らしい扱いを受けないのか。
よく考えてみれば……というか、考えなくても答えはわかりきっていた。
「目玉商品がない」
言いかえれば、俺の店特有の商品がないのだ。
現状、俺は店を手に入れはしたが、それはあくまで妹の店をそのまま使っているという、実にしょうもないもの。
むしろこんなもの、俺の店とは呼べないだろう。
「おそらくミーニャもその事をわかっていて、体よく俺に手伝わせるために店を明け渡したんだろうな」
そして俺はまんまとその作戦にハマった。
やはりただで手に入る物ほど怖い物はない……その言葉に間違いはなかったという訳だ。
俺は楽をして店を手に入れたばかりに、努力を怠ってしまった。店を手に入れた瞬間、そこで思考停止して働くだけの人間に成り下がってしまった。
これでは違う。
俺がなりたかったポジション……以前の世界で持ちえた物には遠く及ばない。
「どうにかしないとマズい」
もうミーニャに店を譲ってもらったという事実がある以上、このままでは俺の評価がどんどん下がって行く恐れがある――なんせ他所から見たら、コネをフル活用して職をゲットし、大した努力もせず現状のポジションに留まっている人間……そう見られかねない。
「コネで職に就くのはいいとは思うが、そこから思考停止は流石にマズいよな」
先ほどから無意識に何度も口に出てしまっているが、本当にマズい。
「どうするべきか」
俺でなければ思いつけない商品。
そんなものを作らなければ、俺は一生妹の下で働き続けることになるだろう――たとえ名目的には俺が上でも、事実がそうでなければ何の意味もない。
「どうすればそんな商品を思いつける」
うーむ。
俺が頭を抑えていると。
「逃げるなよな!」
「引っ張らないでください……鬼畜です」
店の中を走り回った末、そのまま外へと駆けていく狐とオーク。
「ふむ」
困った時はとりあえず、あいつの所に相談に行こう。