第百四十四話
「簡単に言うと、お兄ちゃんは土地が必要って事だよね?」
「いや、簡単に言うも何も……最初からそう言っているんだけど」
「ん~」
言って、露骨に「考え中」みたいな顔で悩みだすミーニャ。
なるほど、どうやらこれはアレだ。
俺の反論はスルーされたらしい。
「お兄ちゃんはお店を開く気で、でも土地とか色々なくて困っていて……なおかつ誰かに土地を借りてもいいって考えてる」
一人で俺が言っている事をまとめていくミーニャ。
その必要性はよくわからないが、俺にとって事態が好転するのならば、ここは彼女がまとめ終わるまで黙ってまとう。
「あ、お兄ちゃん!」
「ん?」
突如、パッと笑顔を咲かせて立ちあがるミーニャ。
そして彼女は言う。
「じゃあ、土地を貸してあげるんだよ! しかもかなりいい土地なんだよ! ここから近いし、お兄ちゃんも親しみがある……そんな場所なんだよ!」
「ここから近くて、親しみがある場所?」
そんな場所がこの近辺にあっただろうか。
ここから近い場所という条件でのみ考えるのならば、候補はいくらでも挙げられる――なにせ近いだけでいいのだから。
しかし、そこに親しみのある場所という条件を追加してみると、候補をあげるのは途端に難しくなる。
何せ俺は一応、異世界からやってきた人間であり、この世界で親しみの在る場所なんてこの家と……ん?
思いかけて気が付く。
「ここから近くて、親しみがある場所……?」
なぁ、ミーニャ。と、声をかけることによって一呼吸置き。
「それってさ、まさかとは思うんだけど」
俺は真下を指さして言う。
「ここ?」
するとミーニャは『すごい、何で分かったの』みたいな顔をしながら。
「そうなんだよ! ここの土地を……というか、このお店をまるまる貸してあげるんだよ!」
「…………」
なるほど。
ここから近くて、親しみがある場所な――うん、確かにこの店ならどっちの条件にも当てはまるよな。
というかこいつ、そんな簡単に店を明け渡す宣言していいのだろうか。
この日、俺は器が大きいのだか何だかよくわからない妹を見ながら、むーっと唸る事になるのだった。