第百四十話
まずい。
直感的に……いや、草食動物が肉食動物を見て瞬時に悟るように――そう、俺は半ば本能的に理解した。
このままではまずい。と。
何がまずいのか。
そんなものは簡単だ、悩むまでもない。
このままでは話が意味の分からない方向に逸れだし、最終的に三百六十度ほど回ってから再スタートする可能性がある。
簡単に言うのならば、話の要点を聞きづらくなる。
魔王の妹こと駄目狐リン、彼女にはそんな能力があるのだ。
「……ニヤリ」
「っ!」
ほら見ろ――まるで獲物を見つけたかのように、口元を隠してニヤニヤしている。
ここに入ってくるさいに俺を探していたようだし、どうせまた何やかんやと言ってくる気だろう……だがしかし。
「お兄さ――」
「マオ!」
だがしかし!
今日の俺は一味違う。
俺はリンの言葉を自らの言葉で封殺するとともに、マオへの手を握って続ける。
「教えてくれ! 一刻も早くさっきの答えを教えてくれ! 俺はお前の口から……お前の言葉で答えを聞きたいんだ!」
「な、なんじゃいきなり!?」
いささかオーバーすぎる行動と言動のため、マオがビックリするのも無理はない。けれども、リンを黙らせて、早急に答えを聞くにはこれしかないのだ。
こうすればリンの発言をなかったことにしつつ、マオに答えを促せる。
我ながら完璧な作戦だ。
「なんだか知らんが、そんなに答えを聞ききたいのか?」
「あぁ、聞きたい!」
「まぁ渋る事でもない……そこまで言うのなら、答えを聞かせてやるのじゃ」
マオは俺に手を握られたまま、やや恥ずかしそうにしながら。
「えっとじゃな、店をだ――」
「ダメです!」
言えなかった。
恥ずかしそうにしながら何かを言おうとしたが、リンが突如として大声をだしてそれを妨げてきたのだ。
く、バカな。
俺の作戦が失敗したとでも言うのか?
経験上リンは一旦黙ると、しばらく静かなはずだが。
「マオ姉さん……寝取りはダメです」
「は?」
「なんじゃと?」
なんだか、また訳の分からない事を言いだしたリンなのであった。