第百二十話
「つ、強い……強すぎ……る」
ガクっと、そんな音でもしそうなポージングで俺の足元に倒れる狼男――正確に言うなら鎧を着て剣を持った二足歩行の狼だ。
「いや……あんたもそこそこ強かったよ」
とにかく俺は悔しそうに倒れている狼男さんに慰めの言葉をかけつつ、闘技場中央にある四角い舞台から降り、脇にある控室へと歩いて行く。
「今のが準決勝、次勝てば無事にゲアラブアゲットか」
さて控室についたところで現在の状況を軽く説明。
例のゲアラブア争奪戦なるものに参加せざるを得なくなった俺は、店主?らしき人物についてこのローマとかにありそうな闘技場へとやってきたのだ。
争奪戦っていったい何をするのか――そう思っていた俺に告げられた内容は、まさかのガチバトル。
ゲアラブアという謎の食べ物を巡って、ドラゴンなボールに出てきそうな天下一っぽい格闘大会が開かれることになったのだ。
「バカらしさと怠さで思わず帰りたくなったが」
次でいよいよ最後だ。
「…………」
なんだかやたらと長く感じたが、次の相手を無事倒せればミッションコンプリート。俺はゲアラブアを手にマオから与えられた仕事を完遂できる。
『これより決勝戦をはじめます。指定の両選手は舞台に上がってください』
どうやら俺の後に行われたもう片方の準決勝が終わったらしい――やけに早かったことから考えるに、相手はそうとう強いと見るべきだろう。
まぁ何にせよする事は一つだ。
「さて、行ってくるか」
時間的に控室と舞台をノータイムで往復するような形になってしまったが、時間がかからないにこしたことはない。
一歩一歩、また一歩。
もう少しで怠い戦いが終わる。と、俺が感慨深げに舞台まで歩いていき、多くの歓声とともに決勝で戦う人物に相対したその時……。
「こんにちは……お兄さん」
「…………」
「どうしたんですか?」
「…………」
魔王が立っていた。
いや、正確には魔王の妹が立っていた。
これはどういう事だろうか。
どうしてこいつがここに居るのだろう?
『それではこれよりゲアラブア争奪戦の決勝戦を始めます』
「……は?」
え、つまり何?
「お前が相手かよ!?」
俺は怠そうにこちらを見ているリンに思わずツッコムのだった。