第百十九話
翌日。
「眠い……」
きっと鏡を見たら酷い顔をしているだろうな――俺はそう考えつつ、朝特有の活気に満ち溢れた市場を一人歩く。
「…………」
静かだ。
本当に静かだ、まるで昨日の一連の出来事が嘘だったかのように。
これほどまでに静かな理由はただ一つ。
『おい、起きないと置いてくぞ』
『寝込みを襲うなんて……鬼畜です』
『勝手にしないさよね……むにゃむにゃ』
というやり取りが、朝あったからである。
ようするに、うるさい奴らは未だ爆睡中――布団の中でいい夢を見ているという訳である。
一応言っておくが、俺がしつこく奴らを起こそうとしなかったのは、断じて静かにショッピングしたかったからではない……うん、本当に違う、違うと思う……多分。
まぁ深層心理でどう思っていたかはさておいてだ。
「さーて、さっさとゲアラブアを購入しないといけないんだけど……」
俺は再び、問題に直面していた。
「なんだこれ」
俺はようやく静かにショッピングできる。と、まぁ多少の寂しさと物足りなさを感じつつ通りを歩いてハズだ。
なのに何だこれ。
「えー、では限定ゲアラブアが残り一袋となりましたので、これより恒例の争奪戦をはじめます。参加希望の方はこちらの列にお並びください」
聞こえてくるアナウンス。
アリのように多い人から出来た長い列。
そして……そこに並ぶ俺。
あれ、おかしいな。
俺って確かゲアラブアを買いに来ただけだよな。
普通にお金を渡して商品を受け取って終わり。
それだけのはずだ。
「これから会場に移動するので、参加者のみなさんはついて来てください」
はずだったのに。
いや……深くは考えるまい。
もうここまで来たら運命なのだろう。
俺は平穏に時を過ごすことは出来ない――そういう運命なのだろう。