第百十四話
「三人分ね……えーと、ちょっと待ってね」
三人分三人分とボソボソ繰り返しながら、宿屋の店主である壮年の女性は宿帳をパラパラめくりながら何かを確認している――十中八九部屋が空いているのか確認してくれているのだろう。
さて、現在俺が居るのは――。
「自分たちも居ます、忘れないでください」
「忘れないでよね!」
「…………」
サラッと心を読んでくるダメ狐は無視して設営を続けよう。
さて、現在俺が居るのは言うまでもないかもしれないが、街にある宿屋である。
日が完全に落ち、辺りが闇に包まれる時間になってようやく目的地に到着した俺たちは、とりあえず寝る場所を確保するために歩き回った。
運が悪かったのか、どこの宿屋も部屋が埋まっていたため、この宿屋は最後の頼みだったりする――他にも宿屋はあるのかもしれないが、少なくとも容易に発見できる場所にはなかった。
よって、ここの宿屋がアウトだとかなりやばい。
「うん……」
わりと本気でやばいよな。
俺だけなら野宿でも全然いいのだが。と、背後で戯れている二人を見て思う――こいつらがいる以上、野宿という選択は出来ない。
忘れがちだが、こいつらも一応女の子なのだから。
「……ほんと、忘れがちだけどな」
俺がそんな独り言を呟いたのと、宿屋の店主が「ん~」と声を上げたのはほぼ同時だった。
それにしても今の声の感じ……かなり渋かったな。
嫌な予感しかしないが、俺はそれなりに期待の籠った眼差しを店主へと向ける。
しかし。
「悪いんだけどね、三人部屋は空いてないね……明日はお祭りがあるから、ここら一帯こんでるんだよ」
悪い予感があたった。
「あ~でも」
だが、俺が「悪い予感が当たった」と考えるのは、まだ少し早かったのかもしれない。
「一人部屋なら空いてるよ。どうする?」
どうするも何もない。
俺はやや頭痛のする頭を抑えつつ、店主へと返事を返すのだった。
すごい関係のない話ですが
三日後に親知らず抜きます、怖いです。