第百十三話
「あんたいつまで乗ってるのよ!」
「乗っていません……くっついているだけです」
「屁理屈言ってないで降りなさいよね!」
背後で聞こえる声――およそ二人分。
せっかく一人で出てきたのに、結局は二人と合流してしまった。
しかも、よりにもよってかなりうるさい二人こと、エリスとリンにだ。
「まぁこうなった以上文句は言うまい」
気分的に静かで面倒のないパシられ旅行がしたかっただけであり、どうしても一人になりたかったわけではない。
それに人数が増えたら増えたで、それなりに楽しいはずだ。
「……ふぅ」
リンもエリスも居たら居たでいいとか思いつつ、心のどこかで「少し楽しい」とも思ってしまっていることに軽く溜息をつ――。
「ぐはっ!?」
な、なんだ!?
いったい何が起きたんだ!?
気が付けば、俺はヘッドスライディングでもしたかのような態勢で、地面に倒れ伏していた。
「くっ」
あまりにも咄嗟過ぎたため、ろくに受け身も取れず地味に痛い。
あごとか露骨にうったぞ……というか、本当に何が起きた?
感覚的には、そう――歩いていたら、超スピードの何かが背中に直撃した感じだったが。
「……背中?」
よく考えてみよう。
俺の背後には何が居た?
「…………」
だいたい何が起こったのか予想という名の確信をもちつつ、先ほど何かが当たった箇所――すなわち背中の中方付近に手を回すと。
ふに。
ふにふにっ。
何だか柔かい感触が伝わってくる。
そう、これは間違いなく。
「胸を触るのをやめてください……鬼畜です」
そう、これは……って。
「胸じゃないだろ! 頬っぺただろこれ!」
「ばれましたか」
「ばれるも何もだな……というか、お前ら静かにしろ! いや、静かにしなくてもいいから、せめて大人しくしろ! 暴れるな!」
俺はクレームを垂れ流しつつ、リンを投げつけたであろうエリスへと視線を移す。
すると彼女はさっと俺から視線を外し。
「べ、別にあんたにぶつけようとしたわけじゃないんだから……か、勘違いしないでよね!」
などと、意味不明な供述を繰り返しており。
「……はぁ」
やっぱりこいつらと旅するのは面倒くさいだけかもしれない。
と、俺は考えを改め始めるのだった。