第百十二話
「よ、弱い……」
まさか蹴り一発ですっ飛んでダウンすると思わなかった。
戦闘能力に関してはそこそこ自信あるが、ここまで歯ごたえがないと、本当は俺が強いのではなく、ただ単にこの世界の住人が弱いだけではないかと疑ってしまう。
「ちょっとやりすぎたかな」
手加減したので死んでは居ないと思うが、あそこまで勢いよく飛んでいくとは思わなかった――目算だが50メートルくらいは飛んでいった気がする。
いくら野生のオークとはいえ、一応はクーの同類なのだ。
そんなオークを殺してしまえば寝ざめが悪すぎる。
「手加減はしたし、仮にも人外なんだから大丈夫だろう」
うん……あの程度は大丈夫だと信じたい。
「人外だったら容赦なく蹴るんですか……鬼畜です」
「いや、そういう意味じゃない」
俺が言ったのは人外なら蹴っていいという意味ではなく、あれくらいのダメージは大丈夫だろうという意味だ。
決して蹴ってもいいなどと考えて居るわけではない。
「ん?」
というか今、なんだか誰かと会話していなかったか俺――おかしい。今は一人で行動しており、当然先ほどのも独り言のつもりだったのだが、どう考えても会話になっていた。
「…………」
それにあの喋り方は聞き覚えがある。
ゴクリ。
やけに大きく感じる唾を飲みこむ音を聞きながら、俺が後ろを振り返るとそこに居たのは。
「欲望に駆られた視線を感じます……蹴る気ですか、お兄さん」
「ちょっとあんた! いい加減おりなさいよね!」
エリスと、そのエリスの頭に引っ付いてこちらをジトッとした目で見ているリンが居た。
「…………」
もう何も言わない。
ただ、これだけは言わせてくれ。
あぁ。
これで絶対に面倒くさい事になる。