第百九話
「まぁ言いたいことは山ほどあるのじゃが……」
マオからの連絡を受け、俺が彼女の城の一室へやってきてしばらく――ゾンビのメイドさんが出してくれたお茶などを飲んで待機していると、ようやくマオがやってくる。
彼女は俺の向かいの席に腰掛けると、言葉を続ける。
「あれはミーニャが勝手にやったこどじゃ、おぬしに言っても意味はないんじゃろうな」
「ん、あぁ」
マオがため息交じりに言っているのは十中八九、クーの事だろう。
あとからミーニャに聞いた話によると、彼女が使用した魔法は禁呪と呼ばれる類のもので、魔王ですら使用をためらうほどの難易度らしい。
それをいとも簡単に使用したミーニャは凄いといえばすごいのだが……。
「まさか『ちょっと試してみたかったんだよ!』なんて理由で、我に隠れてあんな魔法を使うとは思わなかったのじゃ」
「それに関しては俺も悪かったよ、予めそれを知ってれば止められたんだけどな」
「だがクーも気にしていないようじゃし、大した問題は起きなくてよかったのじゃ……っと、話が違う方向に行かないうちに、さっそく本題を話すのじゃ」
待ってました。とばかりに頷いて、俺は言う。
「前回は微妙な結果に終わったが、今回こそは任せてくれ!」
「うむ、オークの件は我も少し無茶振りがすぎたからの。今回の仕事は――」
「リンの世話とかはよせよ」
「まだ何も言ってないのじゃ! それにリンの世話じゃないのじゃ!」
む、どうやら違ったらしい。
マオの事だから、どうせまたリンの世話をして欲しいとか言いだすのかと思った。
あいつの世話もいいと言えばいいのだが、非常に疲れるのが難点だ。
「…………」
もっとも、仕事として頼まれる以前に、リンは俺とミーニャの家に寄生生物の如く住み着いているので、すでに世話をしているといえなくもない。
「そこに気が付くとはなかなかじゃな」
「心を勝手に読むな! あと、仕事ってなんだよ?」
マオとリンはやはり姉妹だな。と、妙な納得感を感じつつ言葉を続ける。
「リンの世話じゃないとしたら、今度はなんだ? まさかまたサボってる魔物をどうにかしてほしいとかじゃないだろうな」
「安心するのじゃ、おぬしが心配しているような事は何一つないのじゃ」
狐耳をピクピクと楽しそうに震わせながら話すマオ。
俺はそんな彼女を不安げな瞳で見つめながら、彼女の次の言葉を待つのだった。