第百三話
「ん……痛ぅ」
「起きたか?」
マオからあてがわれている自室の中央を、腕を組みながらこれからどうしたものかと行ったり来たりしていると、聞こえてくる声。
俺はその声に言葉を返しつつ、振り返る。
「さっきは悪かったな」
すると今まで眠っていたベッドの上で、上半身だけ起こしているのはモスグリーンの髪が特徴的な件の幼女。
以前と違う点があるとすれば、俺が適当に服を着せた点だ――念のために言っておくが、裸の幼女に服を着せる作業をしたからといって、やばい方面の精神的昂ぶりを覚えたりはしていない。
そう、俺はそんな変態じゃない。
「断じて違う!」
「!?」
っと、落ちつけ。
ただでさ変態疑惑が出ているのに、突然大きな声をだしたら余計に不審がられるだけだ。
それに例の服だが、ラノベにありがちな裸ワイシャツなど露骨に狙った服を着せたわけではない。
俺が着せたのは彼女がまだオークだった時に見に纏っていた物――厳密に言うのならば、それをサイズ調整して作り直した藁のような素材で編んだスカートとブラ的何かだ。
「…………」
いかん。
何だか十分変態的な服装をさせている気がしてきたが、考えても仕方がないのであまり考えないことにしよう。
と、俺はこちらに凶悪な視線を送ってくれている幼女に話しかける。
「さっき言葉を話してたし、通じてるんだよな?」
「……っ」
「え~っと」
通じていないはずはないのだが、返事をしてくれない。
しかもどうしてそうしてくれないのか、思い当たることが多すぎて嫌になる。
「と、取り敢えずなんて呼べばいいかな? 俺の名前は――」
「腹減った、取りあえずなんか食わせろ!」
「……うす」
これが彼女と取った初めてのまともな会話だった。