第百二話
『じゃああとは任せるんだよ! 会話するなり、お兄ちゃんの好きにしていいんだよ!』
なんて言葉を残して数分前に去っていたミーニャ。
もうここに残っているのは俺しかいない……みんな去っていた。
そう、面倒なことを残してみんな去っていきやがった。
「任せるってどうするんだよ……」
確かにオークと会話する方法を探していたが、それはこんな形ではない。
「というかこの状況、もはやオークと会話云々じゃない気がする」
そう思うのは気のせいだろうか。
絶対に気のせいではないと思うのだが……。
「いや、まぁとりあえずする事があるだろ」
と、俺は先ほどから唸ったり暴れたりしているオーク……という名の幼女に近づいて行き、その拘束を緩める。
直後。
「っ!?」
俺の鼻さきをかすめて何かが通り過ぎる。
いや、その何かなら見えていた。
足だ――拘束が緩んだ途端、幼女が飛び起きて蹴りを放ってきたのだ。
「穏やかじゃねぇな!」
だけどこの状況、どう考えても悪いのはこちらなので、あまり強くも言えない。
俺がそう考えているうちにも幼女は轡を外して言う。
「私に何しやがった、この変質者!」
「ぐぅ」
何だろう。
この胸に突き刺さる様な痛みは。
俺は思わず胸を抑えて蹲りそうになるが、幼女はそれを待ってはくれない。
「死ね!」
「っ!」
本当にオークかよ!?
思わずそんな感想が口から出そうになる速度で、突貫してくる幼女。
先ほどの蹴りからしてわかっていたが、どうやらかなりの戦闘能力を有しているらしい――攻撃を受けるのはまずいか……なら。
「くらえボケェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
幼女らしからぬ暴言と共に飛んで来る蹴り、俺はそれを僅かに上半身を逸らすことによって躱す。
そして――。
「少し、落ち着け!」
足を掴み、そのまま幼女を地面に叩きつける。
「ちょっとやりすぎた感もあるが、元がオークなら……」
「きゅ~~~~~…………」
「…………」
とりあえず、寝かせられるところに運ぼうと思うのだった。