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トモダチナミダ

作者: 青木ユイ

 あたしは目を閉じる。

 今日こそ、言うんだ。

 あたしのこと、本当に大切だと思っているか。

 が、あたしのこと……本当に好きか。

 だってって、あたしのこといっつもバカにして来るんだから。

 でも、もしあたしのこと、本当に好きでいてくれたら……。

 あたしはドアを開けようかと取っ手に手を掛ける。

 そのとき、後ろからあたしの手の上に暖かい手のひらが乗せられた。

「えっ!?」

 びっくりしているあたしのことを無視してドアを開けたのは、あたしの好きな人。

 恋愛のことでも、ミカには相談にのってもらってるんだよね。

 やっぱり、ミカは頼りになる。

 だから、あたしのこと、思ってくれてると思うんだけど……。

 あたしのこと……どう思ってるんだろう?

 ずっと一緒にいたから、そんなこと気にならなかったけど、今は、どうしてかとても気になる。

 ……あたしのこと、好き?

 好きなら、ここから飛び降りて。

 あたしのこと本当に大切に思ってくれているんだったら、ここから飛び降りて、死んでって。

 いきすぎかもしれないけど、不安だから……。

 仕方ないの。あたしは、それくらい不安だから。


 あたしはあの子のもとへ行く。

「ミカ」

 ミカはあたしの声を聞いて、振り向く。

 そして、あたしの顔を見ると、にこっと笑って駆け寄ってきた。

「セラ!」

 あたしは抱きつきそうな勢いのミカをさりげなく押さえて、笑う。

「ミカ、やめてよ」

「えへっ、ごめんごめん」

 ミカは髪をいじりながら舌を出して許して? というようにウインクする。

 ったく……なにしてんの。

 なんか、言う気なくなっちゃった。

 でも、今日言わなくちゃ。

 言わないと、もう、一生言えないかもしれないから。

 一時間目は体育館で全校集会だから、ぞろぞろとみんなが出て行く。

 ちょっとくらい遅れてもいいよね。

 あたしは、深呼吸して言う。


「ミカ……」

「ん?」

 人懐っこい笑顔であたしの顔を覗き込む。

 ミカ、ごめんね。

 あたし、聞くだけだから……。

「ミカ、あたしのこと、大切に思ってる?」

「え? うん」

 なら、死んで。

 言おうと思う。

 でも、ミカのことを思うと、言えない。

 でも、言わなくちゃ……!

「なら……死んで」

「……え?」

 ミカは驚いている。

 答えを聞いたら前言撤回。

 答えを聞いたら前言撤回。

 頭の中で繰り返す。

 答えを聞いたら、前言撤回。

 嘘だよって、笑う。

 それで、終わるはずだった。

 ああ、良かった。やっぱりミカは、あたしのこと思ってくれているんだって、それで終わるのに。

 それで終わるはずなのに・・・・・


「分かった。セラが、そう思うのなら、セラがあたしのことをどう思っていようと関係ない。死ぬね」

 そう言ってベランダに行く。

 もういい。これで終わりだよ。

 分かった、あたしが大切なんだって。

 だから、逝かないで!

 あたしは、嘘だと言いたかった。

 なのに、声が出なかった。

 なにこれ、どういうこと?

「ばいばい」

 ミカは、落ちた。あたしのせいで。 

 あたしはベランダに出て下を見る。

 ここは四階。

 どうなってるか、分からない。

 あたしは見て絶句した。

 血がミカの体中から吹き飛んでいて、ミカは目を見開いている。

 こんなの、嘘だ。

 夢、夢だよ!

 夢じゃないなんて、ありえない。

 あたしは、何もしていない!


 ――――本当に?

 繰り返す自問自答。

 ――――本当だよ。


 ――――そんなはずないよ、あたし言ったじゃん。死んでって。

 ――――ううん。あたしは悪くない。


 まるで天使と悪魔。

 頭の中で闘っている。

 ミカはどうして死んだの?

 あたしのせいだよ。

 どうしてあたしのせいなの?

 あたしが死んでっていったからだよ。

 どうしてあたしはそんなこと言ったの?

 不安だったからだよ。


 ――――不安だったの。確かめたかったの。あたしのこと、どう思っているか。


 だからって、言い訳していいの?


 分からない。

 何も分からない。

 ミカが死んだ。

 それはあたしのせい。

 絶対そうに決まってる。


「救急車……」

 あたしはかすれた声でつぶやく。

 ミカを、助けなくちゃ。

 ミカが、助かる可能性があるのなら。

 でも、あたしはどうやって生きていくの?

 人殺しだって、避けられるんだろう。

 絶対そうに決まってる。

 じゃあ、あたしも、死んだら……。

 逃げるんだ、永遠の世界へと。


 ミカは助からない。

 ならあたしも死のう。

 だってミカは、死んでしまったんだから。


 涙がこぼれる。

 ミカは、何も悪くないのに。

 悪いのは、あたしなのに。

 あたしが死ねばよかった。

 なら、今からでも、大丈夫。


 大丈夫じゃないけど……きっと。

 あたしは深呼吸する。

 下を見れば、ミカ。

 ミカの横に落ちれば、二人一緒に天国へ逝けるかな。

 そうだよね、あたし……ミカを死なせた償いを、果たさなくちゃ。

 一生背負うより、ミカと同じ立場になればいい。

 あたしだって、ミカに死んでって言われたら、死ぬかもしれない。

 でも、ミカ……。

 そんなあっさり、逝ってしまうなんて、ひどいよ。

 でも、仕方ないよね……。

 だからあたしが、償いとして、死ぬ。

 これで、納得してくれるかな? ねえミカ。

 あたしたち、天国でも仲良くしようね。


 あたしは紙飛行機を折る。

 文字を書いたメモを。


 ベランダの柵に手をかける。

「さよなら。ありがとう。ごめんなさい」

 ひゅうっと、紙飛行機が飛んでいった。


 ――――最後に見た空は、綺麗に晴れていた。






  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄





 あの日あたしは、大切な友達に死んでほしいといわれた。

 信じられなかったけど、彼女の瞳は、真剣そのものだったから、あたしは断れなかった。

 あたしはずっと、彼女の望むことなら、やろうと思っていたから。

 それをこんな風に返されるなんて、思ってもいなかったから、びっくりしたけど。

 それでも、あたしは彼女を信じた。

 彼女がそういうのなら、死のう、と。


 ――――彼女を愛するために。


 あたしは四階のベランダから飛び降りた。

 あの子のために。

 だってあたし、セラのこと、大好きだもん。

 ばいばい、セラ。





  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






 少女が、小さな紙飛行機を拾った。

「わぁ、ねえお母さん、見てみて! 紙飛行機!」

 そう言って、少女はその紙飛行機を母親に見せに行った。

「本当ね。どこから飛んできたのかしら」

 母親は優しく笑った。

 すると、突然少女がその紙飛行機を開き始めた。

「何してるの?」

 母親が聞くと、少女は母親に平べったくなった紙を見せながら、不思議そうに言った。

「これ、なあに?」

「え?」

 母親が少女の手のひらに乗せられている紙を覗き込む。

「え……」

 母親は、なんと書いてあるか、少女に言うことは出来なかった。






  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






「――――ちゃん」

 え……?

 なんと言っているかよく分からない。

 誰のことを呼んでいるの?

 あたしのこと?

「ミカちゃん」

「ミカ?」

 ミカって、あたしの名前。

 あれ? あたし、飛び降りたんだよね。

 なんで? あ、ここは天国かな。

 そうに決まってるよね。


「ミカってば!」

「ぅえっ!?」

 突然起こされて、あたしは変な声を出す。

「あれ? おねーちゃ……」

「もう! 心配したんだからね!」

 えっ? どういうこと?

 もしかして、あたし、生きてる?

 死んでない?

 生きてる!?

「生きてる!? あたし、生きてるよね!?」

 お姉ちゃんは泣きそうになりながらあたしを抱きしめた。

「もう……心配、したんだからね」

 あたしはお姉ちゃんの腕をしっかりと握りながら「ごめん」と、小さくつぶやいた。

 お父さんとお母さんも、あたしを抱きしめてくれた。

 簡単に、死んじゃいけないんだね。

 誰かがあたしを大切にしてくれているなら。


「あっ、そうだ! ねえ、セラは?」

 あたしが聞くと、みんなの顔が曇った。

 やっぱり、あたしに死んでっていったのが、広まっちゃってるのかな……。

 セラは悪くないのに。

「あのねっ、あたしが勘違いして――――」

「セラちゃんは、死んじゃったんだよ」

「――――え?」

 セラ、が死んだ?

 あたしに死んでっていったのに、どうして?

 なんで、死んじゃったの?

「ど、どこで?」

 声が震える。

 でも、聞かないといけないような気がする。

「ミカの隣で、顔も分からないくらいぐちゃぐちゃになって、死んじゃったの」

 そのときに付いたセラの血が、あたしの耳たぶの裏についている。

 これは取れないらしい。

 でも、これを自分で見るのはいくら鏡を使ってもきついし、目立たないところだから良かった。

 これが、あたしの一生の悲しい思い出になるんだろうな。

 でも、それを抱えながら、あたしは生きていこうと思います。


 ばいばい、セラ。

 ありがとう、セラ。

 さよなら、セラ。




 ――――セラ、愛してる。

 あたしはセラのこと、信じてる。

 セラは、あたしのこと殺したいなんて、思っていないよね。

 だって、セラはいつもあたしのこと、気にかけてくれた。

 絶対、違うよね。




 セラのお葬式のとき、本当にお別れをするんだって思った。

 セラが、写真の中で笑っていた。

 ねえセラ。


 もしセラが今生きていたら、あたしを見て、なんて顔するだろうね。

 でも、セラのことだから、泣きながら抱きしめてきて、ごめんって言いまくって、仲直りして、やっぱりあんたって図太い奴だねって、笑って言うんだろうな。


 セラ、大好きだよ。









 〔ミカへ。殺すつもりはなかったの。ごめんね。だからあたしも、あなたの元へ逝きます。セラより〕

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[良い点] いいね! [気になる点] ないと思います。 [一言] 塾からです!                     これ、あたしのこと・・?              ちがうよね・・・大好きだぉ!…
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