「最終電車」
あれ?なんで俺は電車になんか乗ってるんだ?
思い出せない………
外の景色は暗闇に覆われ、夜空に輝く星だけが静かにざわめいていた。
拓海はしばらくの間なにも出来ずに、今自分が置かれた状況を必死に考えていた。
なんで電車なんかに……………たしかさっきまで俺は仕事帰りで道路沿いの道を歩いていたはずだ…………それが何故今電車に乗っているんだ?
そう考えながら、拓海はふと車内を見渡した。
あまり人は乗ってないようだ。
しかし、おかしな事に右端の席に幼い、五才くらいの男の子が一人ちょこんと座っていた。
拓海は立ち上がり、そろそろと男の子の方に近づいていった。
「君?お父さんとお母さんは?」
「お家に居るよ」
もしかして家出か?しかし、こんな幼い子供が夜遅くに一人で電車に乗れるのだろうか?
拓海はなるべく優しい顔で男の子に尋ねた。
「どうして君はここにいるの?普通君みたいな幼い子供は、今の時間お父さんやお母さんとお家に居なきゃいけないんだよ。」
しばらく沈黙が流れた。
「僕も分からない………………さっきまで僕お父さんに怒られてたの、なんでか分からないケド、
「お前が悪いんだ!」って僕に熱い水をかけて……………とっても熱かったよ………」
男の子はぶるぶると身体を振るわせていた。
虐待………拓海の頭にその言葉が浮かんだ。
可哀相にこの子は親から虐待を受けていたのか………………しかし、それではこの子は一人で逃げて来たというのか?
拓海はまた男の子に質問しようとした時、電車が止まった。どうやら何処かの駅に着いたようだ。
「あっ僕この駅で降りなくちゃ!じゃーねおじさん」
男の子はそう言うと駆け足で電車から降りた。
「ちょっと君!待って」
男の子の後を追い電車を降りようとすると、目の前で勢いよくドアが閉まった。
拓海は驚き、尻餅をついてしまった。
ふと駅の看板が目に入る。
………(転生)………
はて、こんな駅知らないぞ。拓海は知らない間にずいぶん遠くまで来てしまったと焦ってきた。
しかしさっきの男の子は一人で大丈夫なのだろうか?
拓海はそう思いながら席に戻った。
電車は音もなくまた暗闇の中に走りだした。
拓海はしばらく何もしないままただ席に座っていた。
いや、正確に言うと何もやる気が起きなかった。
この電車に乗っていると、まるで生気を抜かれているような感覚に襲われる。
何もできないまま、ただ呆然と暗闇を見ていた。
気がつくと周りの人達も同じようにただ呆然と外の景色を見ていた。
あぁもうどうでもよくなってきた。ここが何処で、何故ここにいるか?なんてもうどうでもいい。
ただ何となく分かって来たのは、俺は終点の駅で降りればいいって事だ。
何故かは分からない。
しかし感じるんだ。
俺は終点で降りればいいって
そう思うと拓海は突然睡魔に襲われた。
「よう久しぶり!」
拓海が寝ようとした時、肩を叩かれたと共に懐かしい声がした。
拓海が顔を上げると、そこには中学から親友だった斎藤裕二が立っていた。
裕二とは三年前から連絡が取れなくなっていて久々の再会だった。
「おう!裕二久しぶり、懐かしいなぁ、なんかお前大分やつれたな」
「そうか?そんな変わってないと思うケド」
「変わったよ!あれからお前何してたんだよ?」
「相変わらず普通に冴えないリーマン生活をしてたよ↓お前こそ何してたんだ?」
「同じく冴えないリーマン生活をしてたよ。」
「あはは、相変わらず変わってねぇな俺ら」
「あはは、そうだな……………………そうだ一つ聞きたい事あるんだけどいいか?」
「おう!なんでも来い。」
「この電車どこに向かってんだ?」
「おい、なんだお前知らずに乗ってたのか……………この電車は…………………黄泉の国に向かって走ってるんだ…………………」
「はっ?黄泉の国?なんじだそれ?おいおい頼むから真面目に答てくれよ!」
「いや大真面目だぜ。だから言っておくぞ!終点で降りたら絶対にダメだ!あとこの電車の中では絶対に寝るな!
そうしたら二度と向こうには戻れなくなる!
いいか!忘れるなよ!!
」
「おい何言ってんだよ。ふざけてるのか?」
裕二の身体がだんだんと薄くなっていく
「おい、なんなんだよ!どうなってんだ?」
「いいか、忘れるな!絶対に忘れるなよ!!」
そう言い終わると裕二の身体は完全に消えて無くなった。
「おい裕二待てよ!おい裕…………」
プシュー
また電車がどこかの駅に止まったようだ。
拓海はドアの音で目を覚ました。
いつの間にか俺は寝てしまたんだな、しかしリアルな夢だった。
夢の中で裕二が言った事が頭の中にこびりついて離れない。
拓海はふとまた駅の看板に目を通した。
………(三途)………
変な駅名だな、俺は何処まで来てしまったんだ?
相変わらず外の景色は暗闇に包まれていた。
「スイマセン、隣いいですか?」
突然声をかけられ拓海はビックとした。
斜め前に立っていたのは、20代くらいのスラッとした女の人だった。
他に席はたくさん空いてるのになんでわざわざ俺の隣に、と思いつつまんざらでもないなかった
「どうぞ」
「ありがとう………私のこと分かりますか?」
いきなり何を言うんだこの人は?拓海は必死に思い出そうとしたが、こんな美人な知り合いはいなかった?
「スイマセン、ちょっと思い出せないです↓」
「あっ仕方ないですよね、一瞬の事でしたから。」
一瞬の事?なんのことだ?
「スイマセン、やっぱり思い出せないです。」
「いいんですよ。気にしなくても、こうして喋るのも初めてなんですから(笑)」
「ははっ(笑)」
とりあえず笑ってしまった。この女何なんだ?もしかして悪徳商業の奴か?こうして話しかけて来て、最終的には家に呼んで高額の本とか売り付ける気だな。
注意しなくては
「あのスイマセンがどちらさまですか?」
「あっ申し遅れました。
高見美咲っていいます。そちらは?」
「阿部拓海っていいます。もしかして何か売りつけるために話しかけたとかじゃないですよね」
「まさか(笑)そんなんじゃないですよ!そうだせっかくなんで色々お話聞かせて下さいよ。」
拓海は戸惑ってしまった。いきなり見ず知らずの女の人に話しかけられた事など一度もないのに、もしかして逆ナンってやつか?
「お話って言われても、何を話せばいいか………………」
「そうですよね、無理いってゴメンなさい。それじゃ私のことから話すね……………って何話せばいいだろう?
あははっ、こんなんじゃ話しが進まないね」
「はははっ、まったくだ 。ところで仕事とかはなにやってるんですか?」
「私美容師だったんです。」
「だった。って辞めたんですか?」
「……はい………私鈍臭くて…いつも怒られてばっかで……先輩達にもそのことで虐められてて…………辛くて辞めてしまったんです。」
「そうだったんですか。スイマセン辛いこと思い出させてしまって、でも美容師になるって大変なんじゃないですか?」
「大変でしたよ、でも小さい時からの夢だったんで頑張ってなったんです。けど…………」
「それじゃ辞めちゃ駄目ですよ。せっかく夢叶えたのに…………俺なんて中途半端に夢追っかけて、気が付いたら適当な会社入って、適当な暮らし…………せっかく夢果たしたのに飽きらめたら駄目ですよ。現に今だって気が付いたら電車の中にいたんですから(笑)」
「あははっ、優しいんですね。もっと早く出会えてたらよかったのに……………」
彼女は寂しいそうに言った。
拓海はこの言葉の意味がとても重く感じた。
外の景色は変わらず、暗闇の中だ………
静かに車内アナウンスが流れる。
「次は〜生還〜、生還〜」
美咲は寂しいそうに言った。
「これでお別れですね…………」
「次の駅で降りるんですか?」
「私じゃなくて貴方が降りるの………」
「えっ?…………ちょっと、ちょっと待て、どういうこと?」
拓海が考える暇なく、美咲に手引かれ出入りまで連れてこられた。
美咲の手はとても冷たかった。
「貴方は私のせいでここに来てしまったの、本当にゴメンなさい。お話できて楽しかった………もっと早く出会えたらよかったね………」
電車が止まり、ドアが開いた。
美咲が繋いだ手を離すと、拓海の記憶がフラッシュバックした。
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拓海が道路沿いの道を歩いていると、反対側の道からフラフラと女の人が歩いていた。
横断歩道が赤信号なのに気が付いてないのか、そのままフラフラと歩いていた。トラックが物凄いスピードで向かってくる。無意識のうちに拓海はその女の人を助けようとするが…………………………………
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「君も一緒に来るんだ」
「私はいいの…………もう私は………」
「何言ってるんだ!」
拓海が美咲の手を掴もうとするが擦り抜ける
「畜生!なんでだよ。」
「早くしないとドアが閉まってしまう。早く降りて…………」
「降りるなら君も一緒だ…………せっかく知り合ったのに………」
「仕方ないよ」
そう言うと美咲は拓海を力一杯突き飛ばした。
拓海が駅のホームに転げ落ちた………………………………………
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拓海は勢いよく上半身を起こした。
「おい!何すんだよ!!」
しかし目の前には涙ぐむ両親と白衣の看護婦が立っていた。
ここは何処だ?拓海は周りを見渡した。
どうやら病院らしい。
俺は助かったのか?
「拓海ぃ〜よかった〜」
母親が泣いて喜んでいた。
どうやら助かってるみたいだ。
そうだ彼女はどうしたんだ?
「あのスイマセン、俺と一緒に運ばれてきた女の人はどうしたんですか?」
看護婦に聞いてみた
「今、懸命に手当をしてますが……………助かる見込みは…………………………あまりないです」
彼女は俺を救うかわりに行ってしまったのだ。結局俺は彼女を助けられなかった。
それ以降、俺は彼女の事を聞かなかった
******二週間後*******
俺は歩けるまでに回復した。
彼女のことは周りに聞かなくとも、いってしまったことはわかっていた。あのまま終点まで行ってしまったのか
思い出すと自分の無力さが心に刺さる。
気分転換に歩いてくるか。
拓海はベットから起き上がり廊下に向かって歩き初めてた。
まだ少し腹の縫い後が痛む
廊下に出ていつもの中庭にむかうコースを歩く
中庭は緑の芝居が敷いてある庭の中心には池があり、池の周りにはベンチが設置していて拓海はいつもそこに座りすこし休んでいた。
しかし今日は先客がいた。若い女の人だ頭に包帯をしている。
拓海はその人に見覚えがあった。
まさかなぁ、心の中で呟いたが、足はその人の方向に向かっていた。
「スイマセン、もしかして……………」
「あははっ、なんでだろうね?私も誰かに突き飛ばされちゃった…………………」
「よかった。君も助かったんだね」
「うん……………貴方のお陰でもう少し頑張ってみようとおもう。あっあと私を突き飛ばした人が最後に
「冴えない腐れリーマンを頼む」って………」
「冴えない腐れリーマンか…………ハハッ」
END




