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ツカサリレーション  作者: 福森 月乃
オウラ世界編
45/48

What is ahead of prayer(祈りの先にあるもの)④

 トゥーケ連邦共和国の主要都市ケッテニアは非常に広くモナルキア王国の王都ドルトニクスの五倍ほどの面積を有していた。中央にある女神ラーナ大聖堂は三つの塔と祈りの場となる聖堂で成り立ち、トゥーケ民族特有の文様を巧みに掘り出したゴシック建築だった。ガラスは全てステンドグラスで、各地のトゥーケの民を象った彫像がその周りを近衛兵のように取り囲み、乾燥に強い楕円形の手のひらのような葉のシュフレナという植物に似た大木と地上部で根茎が膨らむ里いもの葉に似た背の高い植物を交互に植えられている。

そして花壇などもあり季節の緑と花が彩を添えていて公園のようになっていた。国内の各地から商売人が自然と集まり特産品や地方のグルメの露店を出している。

人通りも多いが、賑やかというより慌ただしさが見て取れる。中には片づけをしていたり荷物をまとめて立ち去る商売人たちも見かけた。

「なんか皆、忙しそうですね」

 空気を読んだウィリアムが誰に言うとでもなく呟いた。顎に軽く握った手を添え、クロエは難しい顔で応える。

「まぁ、月に一度の総会だからね。しかし、要職に当たる人の姿が見当たらないんだが」

聖堂の周りにいるのは礼服を着た聖堂関係者より市民や商人が多いようだ。高位にあたる神官の姿はそこにない。

神官とまでなると護衛や私兵を数人引き連れて歩くのだが、その兵達も目に留まらなかった。軽装備した市中警備兵が時々巡回しているくらいだ。

サナリとイオは顔を合わせると何とも言えな複雑な表情をしている。単に日付や時間を間違ったのではないかという質問を師団長相手に易々と発言できずにいるのだろう。

 溜息をつき気を取り直したクロエはポンチョのフードを被り、ラーナ聖堂の正面入口へと歩き始めた。

「とにかく。この機会を狙って来たんだ。予定通り目的は果たす」

二メートル強はありそうな柔らかな色合いの両開きの大きなドアは、立派な彫刻が施され圧倒される聖堂の外観と対照的に迎える者に優しく手を差し伸べているようにも見える。

両脇に立つ憲兵が、巡業服とそこに記されているモナルキア王国の刺繍を目視で確認すると扉を全開にして四人を招き入れた。

温かみのある深い橙色の絨毯が敷かれ、身廊の先に女神ラーナを司る女性らしい曲線を描くモニュメントと彼女が記したという摩訶不思議な模様は羊皮紙や布または刺繍やキルティングなどに模写され、各地の聖堂に祭られいている。ここの模様は織物で象られ、素朴な色合いで家庭的な感じだ。

両脇に信者が集う長ベンチは赤みを帯びた淡い黄色の木材の素材で角を丸く加工されており何列にも並んでいた。

軽く百人は収容できそうな数だ。

側廊を囲う五芒星の道行もベンチと同じ色合いで真っ白な壁に映えている。幾つもの傘を広げたようなコウモリ天井も華美な装飾や精緻な絵画が描かれているわけでもなく、そちらもシンプルな骨組みのみで真っ白な天板が曲線を描きながら張られている。

ゴシック建築を彷彿とさせる外観と十分な広さと部屋数を揃えた建物とは対照的に礼拝堂は素朴で家庭的な雰囲気だった。控えめな内装に色ガラスを組み合わせた窓には絵画を思わせる緻密な絵が象られ、床や壁、ベンチなどに華やかな光の色を落としている。

贅沢なことに一つとして同じステンドガラスは嵌められていなかった。

眺めていると、まるで絵本をめくるように物語が紡がれていくかのようだ。

祭壇へと向かうクロエとイオの後ろに続いて歩きながら、ウィリアムが色ガラスから目が離せないでいると、一歩下がった後ろからついてくるサナリが口を開いた。

「ここの窓ガラスに使われている色ガラスは女神ラーナの誕生から亡くなるまでを描いているんだヨ。各地の分堂はもっと簡略化されたものとか、象徴のみをデザイン化したものが多いケド。興味ある?」

「あ、まぁ」

元神官志願者だったサナリは目を細めると赤茶色の瞳が僅かに光ったような気がした。探るような視線を受けてウィリアムは視線を逸らし曖昧な返事をしてしまった。

正直、勉強とか人からの教えとかあまり好きではないので、難しい話は避けたいところだ。しかし、さすがにここまで関わると知っておいた方がいい情報もある気がする。

 そうこう悩んでいるうちに、クロエ達は聖堂の関係者と話を進めていた。

「何?女神ラーナ教会誓いの集いがもう終わっただと?」

聖職者とは思えない厳しい口調で問いただす彼女を、対応していた壮年の男性は困惑した面持ちで胸の辺りに両手 をあげる。

「は、はい。代表であられる北の大司教バラル様が急用で帰られることになりまして、集いの儀式も大方を終えていたため、残るは市民を交えての教えの会と食事会だけでしたのでそちらを中止し通常より一日早く終わりました」

その顔には遅れてきたあなた方が悪いだろと心証が手に取るようにわかる。

 額に手を添え大仰に溜息をつくクロエは呻いた。

「まいったな。この時を狙っていたのに」

「一定期間を置かねば開かない集いですからね。暫くは開くことはないのでは?オレは北まで足を運ぶことになりそうだ」

 イオも肩を竦めて同意し、脱力したように項垂れた。

屈強な男に偉そうな女がいつ暴れろと命令するのか、気が気じゃない教会の関係者はいつの間にか揉み手をしている。

相手が人種差別を掲げた好戦的なモナルキア王国の巡業者なだけに楽観視できないのだろう。

気を取り直したクロエは腕を組み、鋭い視線で白髪交じりの薄い頭頂の中年太りの男を見据えると傲慢に言い放った。

「では、ここの司教にお会いしたい。モナルキア王国の使いディアボロだと言えばわかるはずだ」

驚いた顔でイオがクロエを見つめるが、彼女はお構いなしだ。ウィリアムとサナリはもっと下手に下手にと声なき声を上げている。

 恐ろしいまでの威圧感に冷や汗が滲み出た男は、慌てて袖で額を拭った。

「司教様はただ今立て込んでいまして、この案件が終わるのも何時になるか分からない次第で…」

「どういう案件だ」

 詰め寄るクロエに思わず後ずさった壮年の男の背は無情にも教会を支える柱に当たり、最早逃げ場はない。

「ファナリス地区とワムズ渓谷の調査ですよ。ここ数日代表の男に話を聞いてるんです。詳しくは知らないですけど」

 男の言葉にみんなが顔を見合わせた。

「ターチレットか?!」

「え、どうして代表の名前を何で知って?」

 驚く男にクロエは稀に見ない陰湿な笑みを浮かべた。増々男は縮み上がりつま先立ちになる。

「ちょうどよい。わたしもその場にいた当事者でもある。その取り調べ喜んで協力しよう」

男はその後、反論や反抗するわけでもなく、まるでクロエの繰り人形のように言いなりに司教の所まで案内した。

司教は聖堂の三つの尖塔のうちの一つにいた。入口には憲兵が四人も配置され厳戒態勢が敷かれていた。

事情を説明すると一人の憲兵が伝令に走る。ほどなくして、戻ってきた伝令憲兵の許可により、それほど広くない尖閣の中に潜入することが出来た。壁に沿うように螺旋状に続く石階段は上下に続き、人間二人がやっと通れるくらいの狭さだ。明り取りの窓から差し込む光とと壁に掲げられた松明の明かりが、危なげなく足元を照らす。

下への道を標されて、階下へと案内される。石積みの壁に時々現れる飾り気ない鉄の扉の幾つ目かに案内した男がノックした。

中からくぐもった男の声が聞こえてくる。男は名乗りを上げ、来客を告げると軋んだ音と共に鉄製の扉がゆっくり開かれた。

 現れたのは汚れ一つない豪奢なトゥーケ特有の模様が刺繍された司祭服の中年男性だった。背はそんなに高くないのにがっしりとして肉付きがいい。頭には真っ白なベレー帽を被っていて縁から覗く金色の髪は円を描きながら跳ねていた。赤ら顔で金色の目、耳の大きさ浅黒い肌は一目でトゥーケ人だとわかる容貌だ。剣呑な視線を投げながら男はクロエ達を舐めるように全身を見回した。

 クロエはまるで宮廷の王にするような、優雅で気品に満ちた礼を取った。いささかやりすぎではないかとイオは顔をしかめたが、彼女の礼に習う。その後ろでウィリアムとサナリが続いた。

司教はポンチョに印されているモナルキア王国の刺繍に気付くと奏功を崩す。侮蔑を含んだ瞳が歓喜に喜び、口元が大きく緩む。

「これはこれは。モナルキア王国の巡業者でしたか。その立ち振る舞いから高い身分の高貴な方とお見受けしました。自己紹介が遅れましたが、トゥーケ連邦共和国大聖堂分聖堂 ケッテニア聖堂の司祭を勤めさせてもらっておりますドマニと申します。」

「こちらこそ、お会いできて光栄でございます。はて、ケッテニア聖堂の司祭は以前イエナイ殿だったかと記憶しておりましたが」

「おぉ。よくご存じで。彼は北の大聖堂を取り仕切りますバラム大司教の命で、別の任務に就くことになりましてこちらの任を解かれたのでございます。」

「そうでございましたか」

 挨拶を済ませ、クロエが本題へ入ろうとした時、司教ドマニは鉄製のドアを閉めながらあらぬ方向へと話を進めた。

「ささ、こんな薄汚いところで話は何ですから、客室でお茶でも飲みながら我が聖堂や普及方針について語り合いましょう」

 いやいや、あなたの建物ではないですから。内心ツッコミを入れつつクロエは扉が閉じられる前に片足を突っ込んだ。驚いた司教の金色の瞳と彼女の真鍮色の瞳がかち合う。

「その話はまた後程。僭越ながらその部屋でお話に上がっているワムズ渓谷とファナリス地方の件で私からもお話ししたいことが」

 司教が抵抗して扉を閉めようと四苦八苦しているところへ、ドアの淵にイオが手をかけた。

「実はわたしも当事者なんですよ」

その言葉と共に扉が無情にもイオの力技で大きく開かれた。

部屋の中は、中央に机と向かい合わせに椅子が二脚。壁に沿ってもう一つ机と椅子が一脚。引き出し付きの棚が一つと高い位置に明り取りの窓が一つあるだけだ。中央の机には項垂れた男が一人ついている。

クロエ達が歩みを進めても、座った男は微動だにしなかった。

床や机、壁に至るまで黒ずんだ汚れがこびりつき、男の周りには真新しい血痕が滴る。男の様子に注意しながら机に視線を走らせると奇妙な形をした器具がいくつか無造作に置かれていた。その一つを手に取り、クロエは青ざめた顔の司教の目前に突き付けた。

「これは一体なんでしょう?この男は聞き取り調査を受けていただけのはずですよね」

ドマニの喉が上下に動きつばを飲み込む音が聞こえた。

 ペンチのような鋏のような血で濡れた器具をカチカチと操作しながらクロエは目を細めた。

「ずいぶんよい趣味をお持ちのようだ。バキュラス殿に確認が必要かな」

 こてんと首を傾げ、クロエはケッテニア代表の名前を口にした。

「ひっ!」

引き攣れた悲鳴を上げてその場を辞そうとしたドマニの腕をイオは体に似合わない敏捷さで掴み、ここから逃がさない。そんなやり取りをしている隙に、ウィリアムとサナリは座っている男に駆け寄った。

 ウィリアムは男の肩に手を添えると顔を覗き込む。

「大丈夫ですか?」

こんな騒ぎの中で反応がないターチレットが本気で心配だった。意気消沈してワムズ渓谷で別れた彼は今より全然元気だったはずだ、体のほうは。サナリは彼の身体を診察しながら苦々しげに言う。

「鼓膜が破れている。気付かないはずだ」

 やっと人の気配に気づいたのか細く開いた目から金色の光が漏れる。痛みに耐えながら頭を上げるとターチレットの瞳にぼんやりとした人影が幾つか見えた。

診断したサナリは薬品棚を漁り、必要な物を取り出す。棚の中身は劇薬と拷問道具ばかりだったが、使い方によっては治療に役立つものもある。

 ウィリアムとクロエはターチレットの前ではドルシェアーツ姿でしか会っていないので、彼にとっては面識はなかった。だが、幸いなことにワムズ渓谷でターチレットを治療したのはサナリだった。すでに制圧後の仕事だったのでアーツは装着していなかったのだ。

 ターチレットは大きく目を見開き、自分の体の隅々まで診るサナリを凝視した。

「あ、あなたはっ!渓谷で世話になったお医者さん!!」

サナリはニヤリと笑って挨拶を返す。

「どーも。せっかく治したのに、またボロボロになっているとは。体を大事にしてくださいヨ」

ターチレットは首を振り、心配そうに自分を見る女性と見間違えそうな綺麗な青少年を見た。優しい面持ちやまだ若い瑞々しい張りのある肌から女性と勘違いしそうだったが、体格といい着ているものは男性の物だった。

 少々強引にサナリはダーチレットの頭を掴むと斜めに傾ける。

「失礼。耳を治療しますから。痛みますが、縋る時はその少年に」

サナリの赤茶色の瞳とウィリアムのミルクチョコレート色の瞳がぶつかる。

ウィリアムは頷き微笑んでみせた。実際治療が始まると、痛みのあまりに治療しているサナリを本気でぶん殴りそうになった。

そこをガッチリ、助手の美少年くんが取り押さえる。見かけと違って力がありターチレットは身動き一つできない様だ。情けないことに痛いと叫び目からしょっぱい汗が流れてくる始末。鼓膜破れたときより何百倍も痛いとはどういうことだと、理不尽にも文句を言ったほどだ。

事情を聞くと、ターチレットはファナリス地区とワムズ渓谷の報告にケッテニアの代表に会う許可を教団に取り付けようとしたところ、教団の代表が変わっており面識のなかったターチレットは尋問を受けることになってしまったという。

始めは穏やかにお茶を飲みながらの話だったが、ほぼ全滅となった部隊と反モナルキア派の動向など簡単に説明すると、一人生き残り護衛兵も付けず代表と名乗る男はスパイではないかと疑われ、やがて取り調べが拷問へと切り替わったらしい。

前司祭の有能ぶりを移動してきた日からドマニは毎日部下や市民から聞かされ、比較されては下降評価される立場にストレスを感じていた。そこへ現れた怪しい男をいたぶって鬱憤を晴らしていたということだ。

どこまでも損な役回りのターチレットである。

その後、諸用を済ませたケッテニア代表バキュラスと無事対談できることとなった。

 通された部屋はいわゆるケッテニアの役所に当たる建物の一室にある執務室だった。深緑の絨毯に全体的に暗い茶色でまとめられた室内、使い込まれた木製の事務机や家具が配置されてある。代表の机についたバキュラスの目の前にはまだ未処理の書類が山と積まれている。

彼は目の前に並ぶ小柄なモナルキアから来た女性の巡礼者とガーゼや包帯を巻いた痛々しい姿のターチレット、その後ろに控えるやけに体格の良いマッチョの男と背の高さはマッチョよりちょっと高いが、スラリとした体型の男か女か区別のつかない髪の長い人物、標準的な体型でもう一度街ですれ違ってもわからないような平凡とした男が立っていた。

ファナリス地区とワムズ渓谷を治めている若きトゥーケ人ターチレットは一歩前に出て彼らを紹介した。

「このような姿で失礼します。モナルキア王国より来ました巡礼者達です。ラーナ神の各地の伝承が色濃く残る聖堂を巡りさらなる理解を深めて旅をしているそうです」

「それは素晴らしい。…この度は司祭のドマニが失礼したね。彼は無神論者に厳しく、どうやら偏った見方しかできないようで、我々を護る軍人も野蛮な人種だと思いこんでいるようだ。再教育を施して評価してから処遇する予定だ。君も軽い傷ですんでよかった。ほんとうに申し訳ない」

眉根を寄せて表情は申し訳ない形を取っているが、そこに部下への不甲斐なさによる苛立ちが滲んで見える。

「ところで、君はどうしてここへ?」

鷹揚に頷いていたバキュラスは彼の姿を認めると眉を寄せて手を組んだ。黒い巻き毛で赤い目をしていて小太りで小柄ではあったが、特徴的な手足の長さと浅黒い肌はトゥーケ人そのものだ。

ターチレットは手にしていた分厚い資料を入れた封筒を差し出す。

「実は、以前から小競り合いを繰り返していたモナルキア軍との治水争いに、このたびようやく決着がつきましてファナリス地区とワムズ渓谷統治の許可をいただきたく申し出に伺いました。トルケッティアの花代表とも話はついておりますので、各地の代表の許可をいただきたく署名をお願いしたいのです。これまでに至る詳細はそちらの書類に印してあります」

バキュラスは目を見張り、手にした封筒を力強く握りしめ思わず腰を浮かした。

「なんと!国境の要の地を停戦に持ち込んだと?!」

そう言いながら、急いで封筒の中身を拝見するとその内容を知ると僅かに震え始めた。

「苦戦を強いられたのだな。なんてことだ。非道な真似を」

悔しげに口を歪め、ちらりとモナルキアの巡礼者を盗み見る。視線に気づいた彼らはゆっくり首を垂れた。

ラーナ神を信じ、敵国にもかかわらず巡礼する彼らに罪はない。わかってはいたが、睨まずにはいられなかった。バキュラスは報告書を手にしながら今後のことに考えを巡らせる。彼は教団の中でも稀に見る堅実で民を一番に思う統治者だ。

「うむ。いくら停戦に持ち込んだとしても戦争の痛手は大きい。取り急ぎ連邦軍の中から人員を集め警備に当たらせよう。帰還するときに連れていくがよい。署名の件は各地の代表が記入を終え次第送り返そう。今は仮ではあるがこのまま君は新たな軍と共に南方の地を治めてくれ」

「ありがとうございます。この件は北の大司教のお触れが出るまでご内密に」

ターチレットは深々と頭を下げた。彼は唇を噛み締めきつく目を閉じている。戦場で散った仲間のことを思い出してのことだろう。

「うむ。承知した。ところで、モナルキアの巡礼者たちよ。ここに来たということは聞きたいことがあるのだろう?遠慮なく申してみよ」

 察しの良い男だ。バキュラスの許可を得てディアボロは一歩前に歩み出た。

「お忙しいところ時間をいただきありがとうございます。実は、このケッテニアの地にて同志と会う予定がございました。しかし、同志は現れず消息を絶った場所からこのようなものが」

書類と書類の間にある隙間に、現場で発見した小さな血痕の痕跡のあるストラを置いた。机の上に置かれたモナルキア王国の紋章が刺繍されたストラをバキュラスはそっと手のひらでなぞる。ストラと言ってもそれは無残にも破片となっていた。

 バキュラスはストラから視線をディアボロへ移し、鋭い眼光を向けた。

「この染みは血ですな。我が国の民が原因となれば問題も大きい」

「モナルキア王国で似たような事例がございました。この事例に巻き込まれた者で一人として戻ってきたものはございません。ですので、きっとその者も。これまでの捜査、状況証拠からしてトゥーケ連邦共和国国民である可能性は0に等しいと我々は考えております。このたび失った人材は重要な要職についていた人物で、王国にとてはこの事件は非常に遺憾であり、取り急ぎ代わりの者を立てねばならなくなったのです。その人物はラーナ信教にて我が国では神官職を持ち、布教に重要な役割を果たしておりました。王国内で正しく教えを説くものは少なく貴重な人材だったのです。そこで、北の大司教に代わりとなる者を推薦していただこうと思いまして、取り次ぎの申し出を受けて頂きたく馳せ先じました」

ストラを指で弄びながら、バキュラスは眉間に刻まれた皺を深くした。

「つい先日まで総会があり要人が集まっていたというのに、火急の要件で早々と解散となったことが悔やまれますな。既に皆任地へと戻っている頃、これから追っても追いつくことは不可能かと」

その言葉にディアボロ一同頷き同意する。

「ご足労だが北の大神殿まで足を運んでいただきます。書簡はこちらで用意しましょう。明日またこちらにいらしてください」

そう言い渡され、翌日約束通り書簡を受け取るとウィリアム達は主要都市ケッテニアを後にした。


北を目指すウィリアム・エディソン・シェルストレーム。

それに伴うクロエ・ディアボロ師団長、医師団員サナリ、イオ副師団長。

次に訪れた地は大地は黄金色に輝いていた。

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