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ツカサリレーション  作者: 福森 月乃
オウラ世界編
39/48

Brigade of twilight(誰彼時の旅団)③

「人の姿が見えた。確認してくるからここから動くな」

クロエは首を動かさず視線だけ一瞬向けた。

思わず顔を振り向けそうになったウィリアムの頬を思い切り抓った。

「コラ!見たらばれるだろう。いい子だから大人しくしてろ」

子供扱いされてつねられた頬を擦りながら、ウィリアムは拗ねた目でさっさと立ち去るクロエの背中を見送る。

小さく舌打ちしたクレスは、踵を返すと丘を下り始めた。慌てて後を追う二人は目配せしてその後に続く。短い草と枯れ木が点在する荒果てた地面を、三人が足早に蹴ると土煙が上がる。

肩越しに振り返り、迫り来るクロエ・ディアボロの存在を確認したい気持ちを押さえつけクレスは表情を強張らせ足早に部下とその場を後にした。

やはり、彼女は気付いていた。

 枯れて葉もつけない黒ずんだ木立の中に点在する茂みの合間に、人影を目の端に捉えディアボロはウィリアムを一人残していくのを少し気にかけたが、彼に断りを入れるともう行動に移していた。

荒野と捨てられた街しか存在しないこの場所に、旅人や行商人が立ち寄るとは考えにくい。国をつなぐ街道や旧道とはかけ離れたここに、用がある者は自分たちと同じようになにか目的があって訪れたと推測できる。

先程までクレスたちがいた丘に立ち、ディアボロは目を細めて人の気配の名残を辿る。

そして、視線の先に遠くにある木立や点在する建物の影に見え隠れする人影に気づく。

 だがディアボロは動く様子もなく、顎をひと撫でするとため息混じりに呟いた。

「深追いしないほうが身のためか」

持ってきているカードを使い、ドルシェアーツを纏えばあの人影にすぐ追いつくことはできるだろう。だが、彼女はそれをしたくなかった。相手は数人。軍隊ではない。

敵とも味方ともわからないが、罪のない一般市民を怖がらせるのは本意ではなかった。

それに、この土地に不慣れな少年を河原に置き去りにしてきている。

今は完全に視界の外だ。

色々理由をつける自分に自嘲気味な笑みを浮かべると、もと来た道を引き返し始めた。


必死で声を押し殺しながら、今にも広場に飛び出しそうなパティロの体を押さえつけた。彼の口を塞いだ手のひらの中から、猛獣を連想させるくぐもった呻き声が漏れる。

「つっ!」手のひらに激痛が走り、思わず引きそうになったが堪えた。

広場から視線をパティロへと移すと、人を視線だけで射殺しそうな形相が飛び込む。

目を細めトニアスは聞こえるか聞こえないかの声で囁いた。

「堪えてくれ」パティロは目を伏せ、視線は広場に釘付けのままトニアスに促されその場を離れる。

広場には使い古された木箱が二箱、その上に生首が二つ晒されていた。

一つは男性のもの、一つは女性のものだ。生前と比べ激しく面変わりしていたが、その男女はこの街を守るために奔走していた警ら隊長とその夫人だった。

彼らの首を晒すことでこの街に敗北を知らしめ、残された人々は執拗に追われその生命を奪われた。

父さん、母さん。

勢いよく上半身を起こしたパティロは視界が霞んでいるのに気付き、目元に手を添えた。

濡れた感触がする。また、過去に記憶を囚われ悪夢を見たのだ。

涙を拳で拭いながら、キルトを剥ぎベッドの端から両足を投げ出した。

心臓は悪夢の余韻で激しく鼓動していたが、構わず体を動かす。

朝の冷めた空気が火照った体に気持ちいい。衣装箪笥からシャツと短パンという軽装を取り出し夜着を脱ぎ捨て着替えた。

 石造りのシンプルな部屋には必要最低限の家具が置いてあり、足元には厚手のラグが敷かれ、壁には植物や花を象ったコブラン織りが何枚も下がり、殺風景な部屋に華を添えていた。天井を覆う薄手のドレープは暖色で色鮮やかだ。

樫の扉を開き回廊へ出る。

統一された作りの回廊に朝日が差し、石造りの床に濃い影を落としている。

軽くストレッチしながら出口を抜けると、パティロは軽い足取りで駆け出した。

無造作に耳の下まで伸びた髪が、風になびく。生まれ故郷を失って以来髪には白いものも混じり始め、地黒の肌と屈強な体つき厳つい顔が実年齢より相当年上に見せていた。おまけに逃亡中に負った怪我により、顔の左側に額から顎にかけて二本の傷跡が初対面の人をより恐れさせてしまう要因になている。

だが、辛子色の瞳はそんな彼の強面と対象的に優しげで、その人柄の多くを物語っており彼の忍耐強さと人情味の厚さは知り合う人々を惹きつけた。

 時々夢で見る両親の最期。

いつものコースを走りながらパティロは時々思いを馳せる。

クラウオブナ神国に亡命してから、早、四年を過ぎようとしていた。

市長の息子だったクレスは学識高いこの国の大学に通い、経済学を学びつつ今では諸外国の大臣などから助言を求められるくらい優秀だ。一年過ぎた頃神国入りした大農園の息子ガレットは、無口に拍車がかかり、行方不明だった頃の話は一つもしなかった。ひどく大人びてさらに感情を表に出さない少年になっていた。生きていたのを喜びあったのも束の間、神国の隠密部隊に所属しこの国を影ながら支えている。

洋品店の息子だったソシエは、持ち合わせた美貌に加え、その立ち振舞の美しさと衣服に関する知識を買われ諸外国に大きな商店を展開する商家へと養子へ出てしまった。

 砂漠に囲まれた神殿の周りは緑が溢れ、ここ数年で進められた灌漑設備の増設と改善によって水が溢れている。舗装された遊歩道も緑に囲まれ、育った木々の枝葉が強い日差しを遮り斑な日陰を作っていた。

すれ違う神殿で働く人々が愛想よく朝の挨拶をしていく。

ぎこちなく笑顔を作り、挨拶を交わしながらパティロは日課となった朝のランニングを続けていると、燃えるような赤毛の青年とその足元に並ぶ短髪黒毛のモルモットが歩いてくるのが見えた。黒毛のモルモットは鮮血を思わせる赤い瞳をしており、鋭い目つきは目を合わせるものを萎縮させる。赤毛の青年は抜けるような白い肌に海底を垣間見る深淵の青い瞳に曇り一つない。

お互い厳しい表情で語り合いながら、自分より遅れてこちらに気付いた。

一人と一匹の表情が一気に和らぎ、一匹と二人は歩みを止めた。

「おはようございます。パティロ殿」

礼儀正しく一礼する黒毛のモルモットは、名はチャーター。ついこの間少尉に昇格したばかりで、次元の海を介して国を守る次世代の軍師候補として名高い雄だ。

もう一人はモナルキア王国特師団の補佐官でショウカという。

クラウオブナとモナルキアの間で結ばれる停戦及び和平協定で、これからお互いの資源と国民を守る共闘部隊が立ち上げる予定だ。その協定を結ぶためにやってきた外交官の護衛役が彼で、柔らかな笑顔と少し肉付きのいい体つきから想像できない格闘家だ。

いざ、戦いとなると傷つきにくい体質を活かしもっぱら攻撃的で好戦的な男であまり敵に回したくないタイプだ。

 ふわふわの赤い巻き毛を風に揺らしながら、小首を傾げるとショウカは目を細める。

「おはようございます。昨日は手合わせありがとうございました」

 パティロは笑っているような怒っているような複雑な表情で言葉を返す。

「どうも」

手合わせと言ってもこちらは両刃の剣で相手は素手だった。流石に磨き抜かれた刃を腕一本で受け止めたのには驚いたが、彼の白く柔らかそうな肌には傷一つつかなかった。

 どれだけ丈夫なんだ。この男は最前線で戦い高官の護衛だというのに、身分は王族の次だと耳にしたことがある。モナルキア人は身分や出生を重んずる傾向があると聞いて、実際この国に訪れる彼らの国の人々の態度の高飛車ぶりには呆れていたが、彼にはまったくそういうものが感じられなかった。いつも一歩後ろに下がり控えているイメージだ。

  チャーターは容姿に似合わない低く硬い口調で切り出した。

「ところで、パティロ殿。相談があるんだが今後何かご予定はあるかな?」

「予定?」

パティロは宙を睨み、頭を巡らせる。

今日はマラソンの後、兵宿舎に隣接してある訓練所で汗を流し、城近辺の警備についていく予定だ。明日は島の最前線基地に行く予定ではあるが、この数ヶ月似たような毎日の繰り返しに違いない。

 視線を彼らに戻し、ごく当たり前のように答える。

「いつものメニューだが、その後、自室で朝食を取ろうと思っている」

ショウカの青い瞳とチャーターの赤い瞳が交差する。示し合わせたように頷き合うと笑顔で同じ言葉を発した。

「じゃあ、一緒に朝食を食べよう。」


 朝食は宮殿にいくつか保有しているオアシスの一角にある東屋で取ることになった。

砂漠地方特有の植物がテーブルに影を落としているが、合間を縫って差し込む強い日差しと灼熱の空気までは遮れない。

東屋は快適に過ごせるように、ガラス素材で囲まれている。

ドーム状の天井を支える支柱は真っ白で、デーブルも椅子も白い。

テーブルの真ん中には色とりどりの花が活けてあり、その周りを囲むように軽食が並んでいた。

 野菜とハムのサンドイッチを思わず口から零れ落ちそうになったパティロは叫んだ。

「はぁ?人探しを手伝って欲しい?」

テーブルの上で木の実をかじっていたチャーターが、口の周りに食べかすをつけたまま神妙な面持ちで頷いた。

「実は、このところクラウオブナ神国の防衛をより強化しようと、各国と貿易や学問を通していろんな条約を交わしているわけだが、会話が通じない相手もいる」

「次元の海を跨いだバースキム公国とかね」

 軽い口調でショウカが合いの手を入れた。チャーターは身を乗り出し言葉を続ける。

「我々はこの通り体も小さく、力もない。そこで実質的な武装の準備と支援を他国に頼まなければならない。武力支援はモナルキア王国に武装の手配はプルレタン独立商業区の特待派遣社員センリだ」

「特待派遣社員?」

聞き慣れない肩書にパティロは眉を寄せる。

チャーターはゴクリと口の中の噛み砕いた木の実を飲み込んだ。

「プルレタン独立商業区には、王様や大臣、将軍や軍隊はいないのは知っているな?あるのは商社とそれを取り仕切る商工組合だ。商売をする商社には社員という独特の肩書制度があり、それぞれの能力に応じて働いている。そして、人種、国問わず取引できる相手を探し交渉役になっているのが特待派遣社員で、今回我がクラウオブナ神国専属の派遣社員として選ばれたのがセンリだ」

ショウカが突然クスクス笑いながら言った。

「センリを迎えに行かせた人選を間違っていたと思うけど?」

「それはわたしも否めない。しかし、この計画が発動した以上人員は割けないし、適任者は彼女ぐらいしか残っていなかった」

小さなグラスに注がれた野菜ジュースを一気にチャーターは煽る。ショウカはテーブルの鉢に活けてある葉っぱを弄りながら穏やかな瞳で赤い小さな花を見つめた。

「彼女ぐらいしか、ねぇ。…パティロ、迎えに行ったのは誰だと思う?あの(・・)レイラだよ」

思わずパティロは椅子をお尻で押しやり立ち上がっていた。

勢いあまって椅子がひっくり返る。

ショウカがゆっくり視線を上げるとパティロの辛子色の瞳とぶつかった。

彼の瞳に苦渋の色が浮かぶ。

 パティロは前髪を掻き上げながら吐き捨てるように言った。

「あの女」

以前、研究材料の収集と称して、近隣の防衛前線へ一緒に向かったことがある。

盗賊や敵防衛隊などと遭遇する可能性の高い地で、他国の国境近くという条件のうえに貴重な研究者のお守りという役割も果たさなければならなかった。

彼女の研究材料収集のために、到着予定が大幅に狂い多少なりとも犠牲者が出ていたのが記憶に新しい。

彼女は自分の都合による進路変更など当たり前と思っているふしがあり、犠牲者に置いて黙祷の意を示すことなく、手に入れた材料に目を輝かせ笑みを浮かべていたのだ。

クラウオブナ神国が有する人格者ドルシェ教授とは全く対局を成す存在だ。

国のため人のためまたは世界のために知識を深め、全てを救う研究をする天才ドルシェと自分の野望のために犠牲を厭わず悪魔のような武器や装置を開発し続ける秀才レイラ。

彼女の頭の中は常に鉱物のことしかないように見えた。

「ちゃんと迎えに行って帰ってくるのか?」

パティロの問いにチャーターが答える。

「研究データと機材をこちらが抑えている限り、レイラはここへ戻ってくる」

「はっ!」

思わずパティロは失笑した。

異なる存在の天才と秀才。扱いを間違えると国が滅ぶお恐れもある存在だ。そんなモノを外に出す危険を冒すより、国内で飼い慣らしたほうがまだ安全だ。

片手で目を覆い、指の隙間からネズミと大人しそうな少年を覗きため息混じりに呟いた。

「で?案の定、レイラは行方を眩ましたわけだ」

 ショウカは人差し指でテーブルを突つきながら、歪んだ笑みを浮かべた。

「プルレタン独立商業区に入ったところまではわかっている。商工会議所からセンリへ接見を提示したところまでは通告が届いているらしいが、なぜかその後、二人の行方がわからず姿を消してからすでに3日経っている」

「と、言うわけで、三人でレイラとセンリを捕まえに行こうというわけだ」

チャーターは言葉を継ぎ、新たな木の実を口の中に放りこんだ。

 幾何学模様の格子窓から夕日が差し込み、部屋の中は紅く染まっている。

窓際に置かれてある三人がけ用の革張りのソファに横たわり、広げていた本のページをめくる。トニアスは久々に、専門書でなく童話を手にし読んでいた。

少年たちが怪物を倒す冒険物だ。紆余曲折を繰り返しながら成長し、敵を倒す姿を何気に自分たちに置き換え読み耽る。人物も読んで見ればどことなく誰かしらに似ている気がする。しかし、この中にいない登場人物がここにいた。

トゥラムーナ・エバという少女だ。

そして、戦っているのは怪物ではなく人間だという違いも。

故郷『キカツア』から連れ出した頃は、まだ三歳という赤子にも等しかった少女はもうすでに七歳だ。

大農園地主の息子ガレットの領地で働く小作人の娘だった。

仕事の合間に面倒見ているうちに懐かれ、よくみんなで遊んだものだ。

暖かくなる頃見られる休耕地に咲き乱れる花々。晴れが続く日には青い空に白い雲が眩しく、ウォーターリングの水量が多い時期には虹が大量に発生する。実りが多い季節には夕日が映え、休耕の訪れに剣気が響く。

穏やかで静かで賑やかな日々。

だれもが、王国と結んだ不可侵条約が敗れるとは思っていなかった。

日常は聞き慣れないエンジンの音、軍靴の迫る足音、悲鳴と怒号にかき消される。

トニアスの父は目の前で切り殺され、ガレットの両親は王国の装甲車によって踏み潰され、ソシエの両親は商家ごと焼き払われた。最期まで王国軍と戦ったパティロの両親は首を跳ねられ広場に晒され、トゥラムーナの両親は道具の収納している納屋で自殺をしていた。

 あの襲撃に国境警備隊が加わっていたら自分たちは生きていなかっただろう。そしてトゥラムーナの不思議な力に守られていなければ、クラウオブナ神国にたどり着くことさえも出来なかった。

今、少女はその不思議な力に苦しめられている。全てはモナルキア王国ドルトニクス王のくだらない信仰心と虚栄心のせいだ。

そんなもののために故郷を奪われた。トニアスの心が憎悪に染まる。

軽いノックと共にドアが開いた。我に返り、顔をあげるとパティロがドアを開いたまま入り口にただずんでいた。

 無理やり笑みを浮かべトニアスは本を閉じて座面に投げ出していた足を下ろす。

「どうぞ」

パティロは頷き、トニアスの隣に座った。

「読書中悪いな」

邪魔したことを素直に詫びる彼に、トニアスは頭を横に振り柿色の瞳で煌めく辛子色の瞳を見返した。

「なにかあった?」

その問いに、パティロは視線を逸し一息ついた。

「所要でプルレタン独立商業区に行くことになった。しばらくここを空ける」

「そうか」

俯き加減に呟き、トニアスは手にしていた本のページを親指で複数めくる。特に続きが読みたいわけではないが、無意識にそうしていた。

「トゥラムーナの様子はどうだ?」

 僕ら誰もがあの少女のことを気にかけている。凄惨な戦禍を掻い潜り、身を潜めながらここに辿り着くまで何度彼女の力に助けられたことか。

今ではその力が少女を苦しめている。

 トニアスは本を脇へ置き、艷やかな菖蒲色の髪をかき上げ眉根を寄せた。

「部屋に籠りがちで誰とも会おうとしない。日に日に無機質な人形のようになっていくようだ。感情が抜け落ち、誰とも目を合わさない」

パティロも同じように眉根を寄せ、苦悩に満ちた視線をける。

二人が思い出しているのは無垢な笑顔が眩しかった少女の姿だ。

ここにきて間もない頃、些細なことで少女が怒ったことにより居住区の一部が黒い霧に喰い消されたことが発端だった。またもや、僕らを残して建物、人、動物、植物、土にいたるまであらゆるものが黒い霧により霧散したのだ。

この国でできた彼女の友人も失ったものの一つでもあった。

ショックのあまり錯乱した彼女はさらに半径100メートル以内のものを消し去った。

あの、黒い霧は彼女の怒りと哀しみを介して出現しているところまでわかっている。そして、命の選別は彼女が意図して出来るものではないこともわかっている。

あれから、少女は自分の感情を恐れ、腫れ物を扱うような周りの態度に傷つき、やがてじわじわと彼女の心が死んでいくのを止めることはできなかった。

顔を上げると心配そうに顔を覗き込むパティロの顔がそこにあった。

短く刈り上げられた白と黒のメッシュの髪、細めた目の間にある辛子色の瞳がゆらりと蠢く。

トニアスは伸ばした手を彼の頬に添えると、額から顎にかけて走る引き攣れた傷跡を親指でなぞった。

 くすぐったそうにパティロは片目を閉じた。

「跡がのこってしまったね」

頬に添えられた手にパティロは手を重ねると、柔らかく微笑み肩を竦めた。

「さらにカッコよくなっただろ?」

 手を引き、トニアスは軽く吹き出した。パティロは言葉を続けた。

「ついでに、ソシエの様子も見てくる。….帰ってきたら、トゥラムーナのことを考えよう」

「あぁ、こちらも準備を進めておく」

二人の胸の内には復讐の炎が今も消えない。それは、灯ったその日より火の粉を散らし、時には火柱を上げ燃え広がり続けていた。


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