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ツカサリレーション  作者: 福森 月乃
オウラ世界編
22/48

Person to be chased(追う者追われる者)①

オストロピーの獣人達は人型にない美しさと他の生き物を魅了する力があると聞いていたが、確かにそうだと思った。隊にも獣人が居るが惹きつけられるものがある。

そして今日会った家族は格別だった。

年齢にそぐわない靭やかで筋肉質な体つきのエディ。飢えた狼そのものの瞳はどの水面にも敵わない静けさを湛えた瑠璃色で怒りに任せると宝石のルビーのように紅く染まる。金塊のような滑らかさと艶と輝きを有したしっとりとした髪は短く刈り上げられ、それに囲まれた顔は男らしく堀が深い。一見荒々しく見える風貌だが、その眼差しはどこまでも優しく寛容だ。

息子の方は長身で女と間違えるくらいの美形。猫っ毛で長くぼさぼさに伸ばした髪は光の当て具合で色が変わる珍しい琥珀色。タレ目で長いまつげに覆われた淡い茶色の瞳は見つめる相手の心を溶かすぐらいの甘さがある。容姿端麗でタマゴ型の顔に色白。だが、中身は頑固で生意気、手当たり次第にお節介をする八方美人ときている。

それにどうも嫌われているらしい。

双子の妹は瓜二つで、髪型でようやく見分けがつくほどだ。長い巻き毛が姉でミディアムヘアが妹。グラマーな体型で色白、刈り入れ時の小麦色の髪に濃い水色の瞳が印象的で笑顔がとても可愛い。人懐っこいが、姉は辛口でクール妹は甘えん坊でドジっ子という感じだ。

あんな妹が自分にもいたらもっと可愛がってやったのに。ディアボロは仮面の下で微笑んだがすぐ顔を引き締めた。

とにかくあの家族には他の獣人にない風格と気品を感じる。

もっと調べる必要がありそうだ。

 

丘の上に戻ったディアボロは黒々と空覆う薄雲に覆われた天を仰ぎ手のひらをかざす。

 手の甲からオレンジ色の丸い光が突如現れた。

「やはり、画像も音声も安定しないな」暫くあって光の中に人影がちらつく。

『し、かた。。。ない。な、ん、まん、こうね。。。んも。離れ、、、、て、い。。るん、だ。こ、っここ、れ、でも。せ、い、ど。も、、、そく、、ど、、、も。。あが。。って、る』ディアボロは溜息をつき「ひどいタイムラグだ」と一人ごちる。オレンジ色の人物はノイズの中に人の形がぼんやり分かるくらいで男なのか女なのか見当もつかない。また暫くしてその人物が応えた。『そ、れ、、、は。お、た、、、、がい、、さ、ま、だ。。。。』「この調子だと話し込んでいるうちに日が昇る。要件を簡潔に言おう。そっちも簡単に答えてくれ」かなりの間の後返事は来た。『は、い。だ。。。ん、ちょ。。。うど、の』


 静かに玄関が閉まる音の後、廊下を歩く音がドアの向こうでした。 

閉じていた目を何の前触れもなく司は開く。

徐々に暗闇に目が慣れ、見慣れた天井と家具の形をぼんやりと見ることができた。

頭を横に振ると、床にマットを敷いて寝転がるエディの姿がそこにあった。

眠れないのか暗闇で彼の双眸だけがキラキラと輝いて見える。

 司はベッドから体を起こすとそっと囁く。

「父さん」

 エディは首を動かし司を見上げた。

「団長が帰ってきたようだな」

 そして、安堵の溜息をついた。

 司は俯き唇を噛むと唸るように言った。

「悔しいけど、あいつは嘘をつくようなヤツに見えない。上から目線だけど」

「そうだな。誇り高き騎士様だ。王に忠誠を誓い、民を命がけで守る」

 どことなく分かったような口調でエディはつぶやき、口の端を上げて少し笑った。

 司は身を乗り出し、声を荒げて言った。

「このままあいつに何もかも任せていいの?オレは自分で探しに行きたい」

「静かに。気持ちは僕も一緒だ。しかし…ディアボロ氏が自分に任せろという理由も分かる。治安が悪いんだ。国が安定していない。そんな危険な所に連れては行けないと思っているんじゃないのかな」

確かにそんな話をしていた。司は自分の考えの甘さに恥ずかしさが込み上げ思わずエディから視線を逸らした。

 エディはゆったりとした笑みを浮かべ、司の方へ手を伸ばした。

「まあ。母さんの事、友達の事。ディアボロ氏と話しあおう。何かいい手があるはずだ」

差し出された手を司は握り返すと、そっと口元に持って行き口づけをして頷いた。


「悪いが、暫くこちらでお世話になることになった。アーツを着っぱなしでは飯も食えないから緊急時以外はいつもの姿で構わないな?上司から許可は貰ってある。取り敢えずこの辺りに井戸か川はないか?水桶も必要だな、アーツと体を洗いたい」

そう言ってディアボロは部屋の中をキョロキョロと見回した。

水桶か川ってどんな生活をしてきてるんだ。

こちらの許可無く勝手に決定したような口ぶりに司は苛々した。

エディは朝早く会社に出社しており不在だ。

朝食の準備をしながら司は卵焼き器を暖めていた火を消した。

 仕方ない、風呂でも沸かすか。

「そこの二人。支度を手伝え」

 ソファに寝転がって漫画を読んでいたひばりと、テーブルを拭いていたつぐみにディアボロは命じる。

「はい、喜んで♡」双子は二つ返事で彼についていこうとした。

「ちょっ!待て!!」

どっかの居酒屋の店員かっ!

妹達はディアボロの中身についてあれこれ想像を働かせ、小さい体と昨日見せたレディファーストの様子、身分の高い口ぶりに儚げな貴公子様ということで落ち着いたらしい。

だからと言って可愛い妹達を召使い扱いするのは許せない。

しかも、お風呂を手伝えだと?!

 司はキッチンから飛び出し、慌てて双子をディアボロから引き離すと彼を突き飛ばした。

「うちの妹はてめぇんところのハーレムの女とワケが違うんだよ」

司の食いしばった歯がキリキリ音を立てた。

 勢い余ってソファに座ったディアボロは司が触れた肩を払い、つまらなそうに言う。

「ふん、年上への口の聞き方を知らないらしいな」

「いいか、オレは湯を沸かすからお前はそこで大人しく座っていろ」

カリカリしながら司はリビングを出て行く。

 つぐみとひばりは顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げる。

「世話焼きなのは変わらないけど」

「会ったばかりの人にあんな言い方するなんてめずらしいね」

いつも穏やかな兄の様子が違うのに戸惑う二人は、朝食の準備を進める。そこへ帰ってきた司も加わり滞り無くテーブルの上に食事が並んだ。

 司は、手にしていた着替え用のシャツと下着、細身のズボンをディアボロに手渡した。

「お湯が湧いた。これは着替え、オレ達が食事している間に先に入っていて」

着替えを受け取ったディアボロは颯爽と立ち上がり、振り向くことなくリビングを後にした。

今日の朝食は鯵の干物にワカメと豆腐の味噌汁、そしてだし巻き卵焼きだ。

器用に箸を使い、司達は朝食を食べ進める。

魚は箸で解しながら白米と合わせて口に入れると、噛めば噛むほど味が滲み出てお米が何杯も食べられそうな旨さだ。

賽の目に切った豆腐は口の中で形がなくなり、つるりとしたワカメを口に入れると磯の香りが口の中に溢れた。

鰹だしの効いた出汁が塩辛い味噌の風味を和らげ優しい味にまとまっている。

ふわふわに巻かれた色鮮やかな黄色い卵焼きは、甘じょっぱく味付けされ何個でも食べれそうだ。

あぁ、ディアボロに苛々させられていた事を忘れるぐらいの旨さだ。

至福の時に酔っていた司をドアが開く音で現実に引き戻された。

食器がぶつかる音があたりに響く。

視線を上げるとドアの辺りを凝視する双子の妹の姿が目に飛び込んだ。

つぐみは手に持っていた水差しをコップに注いだまま溢れるのに気づかないくらい固まっている。大きく口を開けたままのひばりは口の中が丸見えなのも構わない様子だ。

上がってくるのはえぇよ。

ご想像通りの美少年だったか、それとも小腹の出た筋肉親父だったか。

渋々腰を上げた司は面倒くさそうにドアへと視線を向ける。

 手元にあったお味噌汁お椀をひっくり返してしまった。

「まったく。落ち着きのない家族だな。それと、ズボンは大きすぎて履けなかった。シャツは借りたぞ、それと短パンは履いたがもっと小さいサイズないのか?」

そこにいたのは真っ白な男物のYシャツを羽織った女の子の姿だった。

文句言いながら膝まであるシャツの裾を片方上げると、履いていた司のトランクスを見せてみせる。黒地に白く細い線の入ったストライプ柄だ。

貸した服が全て大きすぎて彼女がすごく華奢に見えた。

シャツの下から覗く、健康的な蜂蜜色の肌が眩しい。

司を睨みつける伏し目がちで大きな瞳は光の当たり具合で金色だったり赤銅色だったり、不思議な輝きを放っていた。

洗いたての栗色の髪はまだ濡れており、巻き毛の先から雫が滴る。

 見る見る司の頬が赤く染まり、立ち上がりかけた時、今度は椅子をお尻で転倒させてしまった。

「あ、う、これは、その」

 間抜けなことに言葉が出ない。

「お兄ちゃん」

妹達の絶対零度を思わせる視線と怒りを含んだ呼びかけで、次の瞬間には真っ青になった。

動けない司を他所につぐみがディアボロを別室に案内し、ひばりは後片付けを始める。

嘘だろう、男モノYシャツ着た女ってあんな破壊力あったか?!それに、オレの…司はディアボロが自分のトランクスを履いてる姿を思い出した。

体の芯から体温が上がり一気に全身に広がっていく。

テーブルの端を掴んで体重を預け、ぶるぶる震える手を口元に当てた。

 その時、後ろから後頭部に衝撃が加わった。目玉が飛び出るかの勢いだ。

「お兄ちゃん、動揺しすぎ。それに、なんだか眼の色変わってない?」

「き、気のせいだろ」

どうやら妹の手にあったお盆の表面で後頭部を殴られたらしい。おかげで少し気持ちが落ち着いてきた。

 こぼしたおかずを片付けて、テーブルを拭いているとひばりは残念そうに呟いた。

「あーあ。女の子だったなんて。でも、すっごく可愛かったね。年下かな?」

「んなわけあるか。オレに年上って言ってたんだぞ。少なくともオレより年取ったおばさんだよ」

とてもそうは見えないが。さっき見たディアボロの姿を思い出していた。

ふっくら柔らかそうな健康的な蜂蜜色の肌。肩より少し長い髪は暗い栗色で重たげに揺れて雫を振り撒いていた。瞳は、伏し目がちで表情の読みにくく大きい目の中にある瞳の色は、あの色は艶やかな真鍮色だ。

まさか、あの中身が小柄な女の子だったとは。

片付けも終わり、お茶の支度が整った所でつぐみと共にディアボロが部屋に入ってきた。

真っ白なTシャツに細く白いストライプ柄の黒いシャツ、藍色のダメージジーンズ姿の彼女は、落ち着かない様子で辺りを見回しどことなく心もとない表情だ。

 しかし、司と目が合うと表情を引き締めきらりと目を光らせた。

「世話になる。せっかく用意してもらった服だが、サイズが合わなかったようだからこちらをお借りした。悪く思わないでくれ」

嫌味かよ。

些細な事で礼儀正しく謝罪するディアボロの言葉を司は素直に受け入れることが何故か出来なかった。

彼の耳に届く彼女の声はもう耳障りな電子音でなく、柔らかな印象の落ち着いた声色だ。そう、装甲で体を覆った偉そうな筋肉親父の姿はどこにもいない。

男っぽい口調は多少気になるがそんなのどうでもいい。無表情な仮面を剥いだディアボロは外見とは対象的な洗礼された女性に見えた。

ダイニングテーブルに通され、ディアボロは勧められるまま司の隣に腰掛ける。

ふわりと家族で使っているシャンプーのフローラルの香りが漂い、彼女の体温を感じる。

この距離で人を近く感じたことはなかったが、今日はやけに近くに思えた。

司はクッキーを口に放り込むのを思わず忘れ彼女を横目で盗み見た。ディアボロは司を気にする様子もなくティーカップを口につける。

 彼女の顔に笑みが広がった。

「うん。美味しい。今まで飲んだお茶の中で1番だ。ひばり、君の淹れたお茶は最高だな。君のお婿さんになる人は幸せ者だ」

司はポロリとクッキーをテーブルの上に落とし、向かい側でひばりがお茶を吹き出した。

椅子を引いたつぐみも固まっている。

 ディアボロは何か思い出したのか不意に破顔して楽しげに言った。

「そういえば、つぐみとひばりという名前は日本での呼び名だろう?…つぐみ、アン=ソフィ・マルティナ・シェルストレーム。ひばり、モニカ・マルティナ・シェルストレーム。アン=ソフィ、モニカ…いい名だ。二人共どちらで呼ばれたい?」

双子の顔に赤みが差す。

司は拾い上げたクッキーを指で挟み、思わず粉々に砕いていた。

 つぐみとひばりは声を揃えて迷うことなく応える。

「お好きな方でどちらでも♡」

 怒りと我慢も限界と言わんばかりに司は立ち上がった。

「オレの大事な妹を口説かないでくれますか。団長殿」

 野太い声と冷ややかな視線でディアボロを牽制したつもりが、彼女は顔色1つ変えずクッキーを頬張りながらぽつりと呟いた。

「シスコン」

 どこでそんな言葉を覚えた~~~~!!

 言葉を飲み込む司を尻目に妹達はいそいそと支度を整える。

「お兄ちゃん、ディアボロさんに街を案内してあげて」

 つぐみは櫛で髪を解きながら言う。

「は?なんでオレが?!」

「私たちは学校。お兄ちゃんは休学届出して暇でしょ」

 今度はひばりがスクールバックの中にプリントを差し込みながら言った。

慌ただしく出て行く妹達を見送り、恨みがましくディアボロを見たが彼女はさっさと片付けを始めていた。

司もそれに続き気まずい空気の漂う中、二人は黙々と後片付けに徹した。


『このまま殺すのは簡単で面白みに欠けている。賭けをしないか?この中の誰が最終的に生き残るのか。こいつら全員過酷な地に放り出し、この中の誰が私に辿り着けるか試してみようじゃないか』誰かがそう言っていた気がする。

殺す?賭け?ふざけるな。

頭が痛い。暑くて全身から汗が噴き出る。頭を無理やり持ち上げ、焼けつくような地面から体を剥がして上体を起こす。

膝立ちしてようやく薄目を開き辺りの状況を把握しようとゆっくり首を振る。

頭上高く輝く太陽は遠慮なく地面に光を降り注ぎ、雲1つない空は真っ青だ。

360°何度確かめても見渡す限り砂漠が広がるばかりで、否応なく熱風が体に吹きつけられて痛いくらいだ。

自分の体を見ると全身砂まみれで、桜ヶ丘中等部の真っ白い学ランが茶色く薄汚れていた。僕はどれくらいここに倒れていたんだろう。

風之間 志郎はぼんやりと働きの鈍った頭で考えた。

あの緑色の光を浴びてから記憶がない。

体の感覚が徐々に戻ってくるに連れ、耐え難い喉の渇きと、込み上げる吐き気に襲われた。まずい、熱中症だ。せっかく起き上がったのにもう倒れそうだ。

がくりと両手を地面につき頭をもたげる。

鉄板の上に両手を置いてるかのごとく熱いのに手が持ち上がらない。

顔全体から流れ落ちる汗が地面に落ちるとあっという間に蒸発して消えていった。

僕はここで干からびてミイラになるのかな。

そんな彼の視線の先の地面に小さな影が幾つか現れた。


顔より大きい巨大な葉の上に揺らめく雫を零さぬようゆっくり茎から引きちぎる。

葉を大きく折り、その先端に口を添えると流れ落ちてくる雫を喉を鳴らして飲み干した。

口から溢れた雫が顎を伝い大きく開かれた胸に滴る。

腰の丈まで伸びた草木をかき分け、天高くそびえる原生林の間を掻い潜りどこへと向かうとも知れない地を目指す。

大木に巻き付く植物にたわわに実る黄色い実をもぎ取ると、躊躇うことなく齧り付いた。

もう何日このジャングルを歩いたのか、日数を数えるのもうんざりする。

食える物を探し続け、まるで獣と同じように生きるためだけに歩みを進める。

文明とかけ離れたこの場所ではスマホや文房具なんて何の役にも立たなかった。

 バリバリと種まで噛み砕き食べ尽くすと藤波 龍之介は呟いた。

「肉食いてぇ」

学校指定の黒シャツを第三ボタンまで外し腕まくりして、脱いだ学ランの上着は腰に巻きなんとかこの蒸し暑さから逃れようとした。足元は何度かぬかるみにハマってこれまた学校指定の革靴が泥まみれだ。

何度か動物は見かけたが、見たこともない生き物ばかりで逆に食われそうで身を隠すのに精一杯だった。

このままジャングルを彷徨い続け、果物ばかり食って草食動物におれはなるんだろうか?

聞こえるのは鳥の囀りとガサゴソどこでも這いまわる虫の気配。風でなびく木の音とどこか遠くから聞こえる陽気な音楽。

陽気な音楽?!

龍之介は顔を上げると音の奏でる方向へ急いで駈け出した。やっとだ、やっと文明的なものに出会える。これでおれは助かる。

藪を掻き分け、木々を掻い潜り、もう目前まで音楽が迫った時目の前が一気に開けた。

端が見えないほどの広場に、所狭しと葉と枝でこしらえた簡易露店がいくつも並び。露店を結ぶ道のあちこちでエキゾチックな音楽を奏でる楽団が演奏していた。

それに合わせて陽気に踊る人々は皆笑顔だ。

 愕然と龍之介は立ち尽くす。

「なんだこれは?え?ココ、幕張?有明??」

そこにいる人々は皆、獣人から半獣人、獣耳、魚人、エルフ、フェアリーなどファンタジー世界を再現したコスプレイヤーで溢れていた。

こんな祭典あったのか?しかも人間の姿をした者が一人も居ない徹底ぶりだ。

龍之介は香しい匂いの立ち込める露店へとふらふらと歩み寄り、平台に並ぶ肉料理に目を見張った。肉の塊をタレに漬け込みそのまま豪快に焼いたバーベキューがある。

口いっぱいに唾が溜まりゴクリと飲み下す。

無意識にワナワナと震える手を肉へと伸ばした。

肉を掴める既の所で手の甲を叩かれる。あまりの痛さに龍之介は涙目で手を引っ込めた。

恐る恐る視線を上げると、頭に白いガーゴイル柄の赤いバンダナを巻いた小麦色の肌の人に近い種の獣人の女の子が、明るい茶色い毛に覆われた丸みを帯びた耳をピクピクさせな  がら緑がかった金色の目をギラギラさせ睨みつけていた。

「BBえDE9X~~!!※@♯!(お客さん~~!!前払いですから!)」

 うわっ!やっべー、言葉通じねぇ。でも、肉食いてぇ~~!!

龍之介は周りの商店をキョロキョロと見回す。人間もどきと動物もどきがやり取りしているのはどうやら物々交換のようだ。

必死の形相で上着のポケットやズボンのポケットを探ってみる。

指先に紙の感触があり思い切りつかみ出した。

 彼の手にあったのは折りたたまれた千円札。震える手でそれを広げるとうやうやしく差し出した。

「XXWGGGRAAAAA!!!!!(こんな紙切れが何の役に立つんだ!!!)」

無常にも真っ二つに引き裂かれるお札。

ですよね。泣きたくなった龍之介に追い打ちをかけるように彼女は後ろを振り向き誰かを呼んだようだ。

屋台の裏から極悪な顔をした二足歩行のライオンが現れた。

全身毛で覆われた体は簡素な服を身に着け、盛り上がる筋肉を隠しようがない。黄金のたてがみに、濁った茶色い瞳は鋭く獲物の龍之介を容赦なく見据えている。

肉を食おうと思ったが、食われるのはおれかもしれない。この屋台の食材になるのか。

「XXMMSEEW(そんなにオレのとこの肉が食いてぇか)」

低い唸り声に藤波は返事もできずに立ち尽くした。


 黒い霧が立ち込める中、ガスマスクと防護服で体を覆った七人の人影が瓦礫の山を登っている。その内二人は手枷足枷を嵌められお互い鎖で繋がっていた。

『あと少し発見が遅かったらヤバかったな』『まぁ、行き倒れてたトコが国境だったから毒素も薄かったのが幸いした』『久々に生きがいいから燃料じゃもったいないな』『そりゃそうだろう。一生働く強制収容所が妥当だな』『言えてる』

通信機越しに何やら笑いながら話す三人の様子に、ガスマスクをつけた八嵜は言い知れぬ不安に襲われていた。後ろを並んで歩く神田がさりげなく服の裾を掴んだ。

倒れていたところを無理やり起こされ、拘束された挙句もうどれくらい歩いているのだろう。始めはぼんやりとした霧が立ち込めていたが、そのうち霧が黒く変わり更には1メートル先も見えなくなっていた。低木が点在する高原からやがて人工物が積み上げられた地面に変わりしかもいつの間にか急斜面を登り始めている。足場も悪く歩きにくい。

マスクの息苦しさと防護服の重さで体力をじわじわと奪われそろそろ膝が笑う頃だ。

黒い霧が僅かに晴れたと思ったら歪な形をした強固な要塞が目の前に現れた。

その要塞は霧よりも黒々としており全体像の輪郭しか確認することができない。

マスクの一人が要塞の壁に手を触れるとパネルが表示され認証を行う。

音もなく三メートルはあろうかと思われる巨大な穴が空き、緑色に照らされる通路へと通される。入り口を塞いだ扉は磨き上げられた銀色の金属製で、天井も床も同じ素材でつくられておりそれは、あたかも近未来的な内装を連想させた。

通路の数メートル先にまた扉がありそしてそのまた先に扉が、幾つもの扉を潜りやっと全員防護服を脱ぐ。

八嵜と神田は桜ヶ丘中等部の制服のままだったが、彼らをつれて来た三人は二足歩行する昆虫に類似した形の機械だった。

禍々しいその姿に八嵜は背筋が凍る。彼の後ろで震える神田はあからさまに怯えていた。

聞いたこともない言語で会話し、武器らしきもので背後を突かれながら、さらに回廊を進み地下へと続く階段を何段も下った挙句連れて行かれたのは格子状の金網を張り巡らされた六畳ほどの部屋だった。

狭く無機質な部屋に放り込まれる。

 二人の目の前で唯一の出口が締まり施錠する音が無情にも辺りに虚しく鳴り響いた。

「これからオレら、どうなんの?」

 聞いても無駄だとわかっていても神田は聞かずにいられない。八嵜はしばらく考えこんだ後ため息を付いた。

「さぁな。すぐには殺されなかったということはなんとか生き延びるチャンスがあるってことだろう」

希望的観測を述べたものの一抹の不安を拭い去れなかった。

ディアボロは地球の日本での環境に少なからずも衝撃を受ける。

いつも反発しあう司はなんとか普通に接しようと努力するが?

そして、エディの妻の行方について確信に迫る。


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