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第四章 My Little Master

 東方に連なる山脈の稜線から射し込んだ、後光のような眩い光がフランドール・スカーレットの瞳を鋭く刺した。

 フランドールは思わず顔に手を翳し、そして見た。

 夜の終わりを。

 世界から闇が追い払われていくかのように、太陽とは反対方向に影が追いやられていく。

 その瞬間を目の当たりにすることは、夜の住人たる吸血鬼にとっての絶望を意味する。

 たちまち心臓が早鐘を打ち始め、心の奥底の生存本能が湧き立つ。

 しかし、フランドールはその場を動こうとはしなかった。

 寧ろ、彼女はこの光景を「綺麗だな」とすら思った。

 強過ぎる光が白色にも映る太陽。

 自分のこの情けない姿も、哀れな心も、何もかも真っ白にして欲しい。

 力なく風に弄ばれる、あの燃えがらの灰のように――。

 光と影が生み出す、朝と夜の境界がフランドールに迫る。

 彼女はそっと瞑目して、その時を待った。

 だが一向に、その時は訪れなかった。

 不審に思ったフランドールが目を開けると、そこには真っ白な空が広がっていた。

 あまりにも突然のことだったので、彼女がそれを広げられた日傘だと認識するのには少しばかり時間が掛った。そして傘の持ち手を辿ってその持ち主に目をやると、自分のすぐ左隣に、見知らぬ女性が右手に持った日傘で自分を太陽から隠しながら立っていた。

 大きな蝶々結びのリボンがあしらわれた帽子に、風に靡く美しい金髪に左手を添え、見慣れない白の導師服は太陽の光を浴びて輝いて見える。

 フランドールはその女性に、一種の期待を込めて尋ねた。

「お姉さんは、天使かしら?」

「違うわ。私は八雲紫。あなたと同じ妖怪よ」

 女性――八雲紫は首を横に振った。

 その返事にフランドールは肩を竦めたものの、彼女は紫の佇まい、思慮深い瞳や静かな水面のように澄んだ声色から、この女性にとても理知的な存在感を感じた。

 フランドールは紫に重ねて質問した。

「どうして私を助けたの?」

 紫は表情一つ変えず、

「似合わないじゃない?」

「似合わない?」

 眉を寄せたフランドールが聞き返すと、紫は周囲の光景を見渡しながら、唄を口ずさむように言った。

「空は蒼く、雲は白く、風は清く。光射して、影が落ちて、時が満ちて……」

 若干の間。

 二人の間を朝の風が吹き抜けていった。

「こんな気持ちの良い朝に、可憐な女の子の断末魔の叫びなんて似合わないわ」

 フランドールは落胆の息を吐いた。

 どんな理由であっても、結局のところ自分はまた誰かに助けられたようだった。

 そのまま黙り込んだフランドールに、今度は紫の方が尋ねてきた。

「あなたの昨夜の出来事は知っているわ。あなたは紅美鈴の為に、『博麗神社』や『白玉楼』まで訪れた。でもどうして、途中で諦めてしまったの?」

 その言葉に、何らかの責を問うような響きは無かった。

 フランドールは俯き、自分が感じたままに答えた。

「私のしていることが、本当にめーりんの為なのか分からなくなっちゃったの……」

 恐らくこの人物の前には、どんな嘘や誤魔化しも通用しないだろうなとフランドール感じていた。

 それでも、蚊の鳴くような小さな声になってフランドールは続けた。

「めーりんはいつも私の傍にいてくれて、ずっと私のことを見ててくれて、いっぱいいっぱい助けてくれた。色んなことを教えてくれた。だから私はめーりんのことが大好きで、これからもずっと傍にいてほしくて、それだけで『紅魔館』を飛び出して来ちゃったの……」

 それに対して、紫は心底不思議そうな口振りで返した。

「一体それの何がいけないのかしら?」

 フランドールはまた一つ、少し上ずった息を吐いた。

「それは全部、私の意志。私の我が儘なの。私は、めーりんの気持ちをこれっぽっちも考えてあげられてなかった。そのことに、幽々子の話を聞いて気が付いたの。本当の〝主人〟なら、そんなことじゃ駄目なんだって。もし私が本当にめーりんの〝主人〟なら、私はめーりんに全部を決めさせてあげるべきだったって。私が本当に良い〝主人〟になれていたら、めーりんは最初から、私の傍を離れたりなんかしないのに……」

 しかし自分には、その決断が出来なかった。

 本当は、怖くて怖くて堪らなかった。

 美鈴がいなくなってしまうと考えただけで、涙が溢れてきた。

 そして結局、自分は美鈴を疑っていたのだ。

 彼女が自分を選んでくれる確信がなかった。

 だから自分で、自分の望む結果を掴み取ろうとしていた。

 愚かだった。

「もうどうしたらいいか分からないの……っ!」

 フランドールは涙声で叫んだ。

「めーりんの返事を聞くのが怖いの! ……だけど……私の我が儘を押し通すことも出来なくって……! 霊夢や魔理沙にも迷惑を掛けて……! こんな私なんて……消えて無くなってしまえばいいて思っていたのにっ!」

 フランドールはそのまま大声で泣き出した。

 すると、紫はその場で腰を折って、フランドールと視線を合わせた。

 そして彼女はフランドールに向けていた日傘を、向きはそのままににて左手に持ち替えると、空いた右手をフランドールの頬にそっと当てた。

 紫はそのまま指で、フランドールの涙を優しく拭き取った。

「人はいつだって、自分の知らないことを恐れるものよ。それは決して悪いことではないわ。でもね……?」

 紫の言葉が自然と胸に染み入ってくるような思いがして、フランドールは涙でぼやけた視界を彼女の瞳に向けた。

「あなたは知っている(、、、、、)はずよ? 紅美鈴はとても優しいんだって。決してあなたを傷付けたりしないんだって。だったら、もう何も怖くないじゃない? いい? 目を閉じて、もう一度あなたの大好きな人のことを思い浮かべて? そうしたらこの傘を手に取って、後ろを振り返って御覧なさい。全て上手くいくわ(、、、、、、、、)

 それはまるで魔法のような言葉だった。

 フランドールは紫の言葉に強く心を突き動かされて、彼女に向かって一度頷くと、静かに目を閉じた。

 頭の中に、美鈴のあの人懐こくてどこか頼りない――それでも大好きな――笑顔を思い浮かべる。

 そして目を開くと、フランドールは紫の手から日傘の持ち手を受け取って、そのまま後ろを振り返った。

「フランお嬢様……」

 目の前に、それまで頭の中に思い浮かべたばかりの人物が立っていた。

 その姿、その声、フランドールが見間違うはずもない。

「めーりん……」

 そこには間違いなく、華人小娘――紅美鈴がいた。

 フランドールは衝動的に彼女に駆け寄りそうになったものの、寸前のところでその気持ちを抑えた。

 美鈴に合わせる顔がない。

 その思いが先行し、しかしそのままどうしていいのか分からず、フランドールがその場であたふたとしていると、美鈴の方から彼女に駆け寄ってきた。

 反射的に、フランドールはぎゅっと目を閉じた。

 どうしてかは分からない。

 でも何故か、とても怒られるような気がした。

 しかし次の瞬間には、フランドールの全身はとても温かいものに包み込まれていた。

 目を開けて気が付く。

 美鈴が、自分の身体を抱き締めて、泣いていた。

「紫さんから……全て聞きました…………」

 美鈴の身体から、ぬくもりが伝わってくる。

 それなのに、彼女の涙が落ちてくる右肩だけが少し冷たかった。

 そんな、いつもと違う美鈴の声を聴いただけで、フランドールは自分の胸すらも強く締め付けられる思いがして、再び涙が溢れてきた。

「私の為に……こんな……」

 背中に回された美鈴の腕に、力が籠るのを感じる。

 しかし、フランドールは首を振った。

「めーりんの為じゃないの………全部私の為…………こんな主人でごめんなさい……めーりん……もっと……もっとめーりんのこと考えてあげられてたら……私……」

 だが、フランドールはそれ以上言葉が続かなかった。

 彼女はとうとう我慢できなくなって、美鈴の胸に顔を押し付けて声を上げて泣いた。

 無我夢中で泣きじゃくる自分の頭を、美鈴はあの日と同じように何度も撫でた。

 自分を宥めようと掛けてくれる声に、彼女の真心を感じる。

 自分を受け止めてくれる、温かさを感じる。

 そのどれもが大切で、掛け替えのないもので、手放したくないもので、愛おしいもので。

 あらゆる感情が頭の中でぐちゃぐちゃに混ざり合って、フランドールは激情と渾然一体となった意識の中で懸命に美鈴の名前を呼んだ。

(離れたくないよ……めーりん……っ!)

 様々な感情が目まぐるしく入り乱れるフランドールの心の中に、その気持ちに応えるように美鈴の声が響いた。

「確かに、フランお嬢様はまだ幼い。知っていることよりも知らないことの方が、出来ることよりも出来ないことの方が多い。でも、だからこそ私のような〝従者〟が必要なのではないですか……?」

(……!)

 フランドールは驚いて目を見開いた。

 それまで自分が〝悪〟だと思っていたことが、自分が至らないと思っていた部分が、逆に〝従者〟の存在意義となっていた――?

 美鈴は続けた。

「私はこれまで、お嬢様の傍に立ち、お嬢様の為に色んなことを教えてきました。そしてそれをお嬢様が覚え、経験し、体得していくことが、私にとってどれほど嬉しいことだったか。それは言葉では言い表せません」

 フランドールの中で、美鈴のその言葉は数刻前に幽々子が妖夢について話していた言葉に通じた。

 あの時自分が感じていたもの。

 愛されている者に対する嫉妬心。

 持つ者と持たざる者の差。

 虚無感。

 そして漠然とした敗北感。

 しかしそれは、ただそれまで自分がその存在に気が付かなかっただけで、本当はずっと前から自分にも享受されているものだったとしたら……。

 それまで美鈴と過ごしていた日々の数々が、フランドールの脳裏を駆け巡った。

「そして今回、お嬢様は自分の意志で考え、自分一人の力で行動してくれました。謝る必要なんてありません。そんなお嬢様の姿が、どんなに頼もしかったか。どんなに心強かったか……」

 話の後半、美鈴は声を震わせていた。

 そんな彼女の、これまでの積年の想いが胸にひしひしと伝わってきて、フランドールはもう返す言葉など何一つ無くなっていた。

 涙だけが、どうしようもなく頬を零れ落ちていく。

「これからも、ずっとお傍にいさせて下さい」

 美鈴の声が、心に優しく響く。

「私の――小さな御主人様」

 フランドールは美鈴の腕の中で、何度も何度も頷いた。

 495年間求め続けていたものが、今確かにそこにあった。



「あーあ。一番良いところを見逃しちまったぜ」

 それからどれほどの時間が経っただろうか。

 やがて落ち着きを取り戻したフランドールに、頭上から声が掛けられた。

 フランドールが上空に目をやると、青空の中に二つの人影があった。

「文みたいなこと言わないでよ魔理沙」

 それは『博麗神社』から『紅魔館』に向かった、博麗霊夢と霧雨魔理沙の二人だった。

 二人は草原の上に着地すると、意味深な笑みを浮かべた。

 美鈴も立ち上がって二人に向き直る。

 口火を切ったのは、例によって魔理沙だった。

「レミリアに会って来たぜ、フラン」

 その言葉でフランドールは思い出した。

 二人には、レミリアに美鈴をクビにしないよう説得してもらう手筈になっていたのだ。

 しかし、フランドールがその件に関しての報告を尋ねる前に、魔理沙が突然フランドールの頭をわしわしと撫で出して言った。

「ビックリさせやがってこいつ~」

 彼女の言葉の意味が分からず、魔理沙に好き放題に頭を撫でられるフランドール。

 その真意を問うたのは、それまで沈黙を守っていた紫だった。

「初めから、こうなることは全て〝運命〟だったって言われたんでしょう?」

 その質問には霊夢が答えた。

「ええ。なんでも、昨夜何かしらの理由でそこの門番が『紅魔館』を離れるのは既に決まっていたそうよ。そこで、その間の代わりの門番の人選をレミリアと咲夜が話していたのを、この子が偶然(、、)にも聞いてしまったのが事の発端らしいわ」

「つまり、全部お前の早とちりだったんだよ~」

 霊夢に続きながら、魔理沙は満面の笑みで、今度はフランドールの泣き腫らした頬をつんつんと突いた。

 しかし、フランドールはそんなことはお構いなしに、美鈴と顔を見合わせた。

 全て、自分の早とちり……。

 その言葉が昨夜の記憶を伴って、現実として実感を持ち始めるにつれて、フランドールは途方もない脱力感に見舞われた。

 その気持ちは美鈴も同じだったようで、二人は同時に肩を落とすと異口同音に言った。

『そんな……』

 それ以上の言葉を失う二人をやれやれといった様子で一瞥して、今度は霊夢が紫に聞き返した。

「っていうか、あんたがその門番に手を貸すなんて、一体どういう風の吹き回し? あんたのそれも偶然(、、)っだて言うの?」

「やーね。違うわよ」

 霊夢の問いに、紫はあからさまに不機嫌そうな声で答えた。

「実は藍がその門番にちょっとした貸しを作っちゃってね。不本意だけど、式の失態は私の責任でしょ、不本意だけど」

「つまりお前も〝運命〟ってやつに踊らされたクチだな?」

 なぜか嬉々とした様子で魔理沙が言うと、紫はどこからともなく扇子を取り出して、それで自分の顔を扇ぎながら、

「ほんと、胸糞悪い話だわ」

 と答えた。

 しかしその場で霊夢だけは、紫の表情をじっと見据えていた。

「よっし、それじゃあ今日のところは解散といこうぜ。フラン、『紅魔館』まで送ってやるよ。霊夢も来るだろ?」

 散々フランドールの頬を突いて満足したのか、魔理沙が大きく伸びをして言った。

 彼女の言葉に、フランドールが戸惑いの表情を見せる。

「魔理沙、送ってくれるの?」

「ああ。いくらその傘があったって、羽を広げたらはみ出しちまうだろ? だから私の箒に乗れよ。『紅魔館』まで一番乗りで帰してやるぜ? 紫も、傘返すのはそれからでいいだろ?」

 紫が相変わらず不機嫌そうに、

「乱暴に扱わないで頂戴よ?」

「分かってるって」

「ねえ魔理沙、ほんとにいいの?」

 すっかりその気の魔理沙に、フランドールは改めて聞き直した。

 気持ちはとても嬉しかったのだが、『紅魔異変』以降ほとんど顔を合わせることのなかった自分に、彼女がそこまで親切にしてくれる理由がフランドールには思い至らなかった。

 昨夜の出来事を考えれば、一方的に迷惑をかけたのは自分だというのに。

 しかし、魔理沙はそんな後ろめたさなど吹き飛ばしてしまうような快活な笑顔で、

「いいも何も、もう私たちは友達だろ? 同じ屋根の下で、同じ七輪のキノコを食べたらそれはもう仲間だぜ! それに……」

 魔理沙は霊夢に振り向くと、二人して頷いた。

「あんなヘッポコ門番の為に必死になれるお前が、私たちは気に入ったんだ」

 フランドールは暫くの間、ぽかんとした表情で魔理沙の顔を見つめていた。

 そして胸の中に甦ってきた言葉は、かつて美鈴が言ってくれたあの言葉だった。

『お嬢様の優しい〝心〟が伝われば、絶対に沢山の友達ができますよ!』

 フランドールは思わず込み上げてきた涙を袖で拭った。

(めーりん……あなたはいつだって……)

 そんなフランドールの様子を見て、魔理沙がまた可笑しそうに笑った。

「おいおい、そんなに嬉しかったのか? まったく、昨日から泣き過ぎだぜ。……って、なんで美鈴まで号泣してるんだよ!?」

 気は心。以心伝心した二人の涙が止まるのには、まだ少し時間が必要だった。



「こういうことだったのですね、お嬢様」

 泣きじゃくるフランドールと美鈴。

 慌てる魔理沙に呆れ顔の霊夢と、その様子にまんざらでもなさそうな紫。

 彼女たちの一団とは少し距離をとった雑木林の影で、十六夜咲夜は隣のレミリア・スカーレットに問い掛けた。

 レミリアは草原の中の彼女たちを凝視したまま、

「そうよ。本来なら私の部屋の前で盗み聞きをしたフランが館を脱走。美鈴がその後を追って『博麗神社』で無事に保護するという運命だったのを、事前に『白玉楼』の庭師の存在をそこに絡めることによって事態を複雑化させ、更に私の能力で、とある野良猫(、、、、、、)にそいつが成功するはずだった狩りを失敗に終わるよう仕向けたの。まぁ、その後は成るように成ったといったところかしら」

 今回の一件に、そんな一匹の野良猫の関与など知る由もない咲夜には少し難解な回答ではあったが、目の前の光景を見れば疑念を抱く余地は微塵もないので彼女はそのまま黙っていた。

「全てはフランお嬢様の成長の為……ですか」

 あの夜、フランドールの身を案じて「これで良かったのですか?」と尋ねた自分に対して、「問題ないわ」と答えたレミリアの言葉の意味を察して咲夜は言った。

 ややあって、

「あの子も……」

 そう切り出したレミリアの声に、微妙な響きの違いを感じ取って、咲夜はレミリアに思わず顔を向けた。

「あの子も立派なスカーレット家の吸血鬼。行く行くは自分の従者を従えて、『紅魔館』の主の一人として君臨する立場にある。だからその前に、あの子に〝主人〟とはどうあるべきかをしっかりと教えておきたかったのよ」

 そこまで言ったレミリアの表情に、何か陰りに近いものが差したのを咲夜は見逃さなかった。

「本来なら、私と咲夜のやりとりの中でフランがそれを感じ取ってくれるのが一番なのだけれど、知っての通り、私とあの子には495年間の確執がある。だから私が思う通りに、あの子が私の背中を見てくれているのか自信がなかったの。それに……」

「それに?」

 レミリアが普段、こんな弱気な発言をすることは珍しい。

 それが逆に、そういった自分の弱い一面も見せてくれる、彼女なりの一種の信頼の証のようにも思えて、咲夜は慎重に言葉を選んで彼女に相槌を打った。

 ほんの少しの間があって、レミリアは――彼女にしては本当に珍しく――ぎこちない〝お姉さんの笑顔〟になって続けた。

「あの子は吸血鬼でありながら、こんな我が儘な姉と違って、他人の話に耳を貸すことの出来る素養の持ち主だもの。だから出来ることならば館の外で、多くの者と触れ合うことで成長して欲しかった……」

 その時のレミリアの表情を、咲夜は恐らく一生忘れないだろうなと思った。

「お嬢様は、本当にフランお嬢様の事を想っていらっしゃるのですね」

「当然よ」

 そう答えたレミリアの声には、彼女の決意の強さがはっきりと感じ取れた。

「あの子は私のたった一人の妹だもの。あの子が頭角を現すまでは、あの子の運命は私が切り開く」

「私も、生きている間はお供しますよ」

 そう答えながら、咲夜は自分の言葉に心の中でそっと、美鈴のあの台詞を付け加えた。

(私の小さなご主人様)

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