4、寝床を決めました。
夏休みには叔母さんと海外旅行に行くのだと、親しい友人たちには話してあったですよ。
遊ぶ予定を立てる都合がありましたからね。
なので友達の家に泊めてとお願いするわけにはいかないのです。
気を使わせるし、何より迷惑をかけることになっちゃいますからね。
そんな訳でアタシが今夜の宿に決めたのは、学校なのです。
運動部のために立派なシャワールームがあるのは、一般生徒なアタシでも知る有名なこと。
それに幸いにも今は初夏。暖房がなければ凍えてしまう冬とは違うのです。
こっそり黙って一泊するくらい、出来るに違いないのです。
戻ってきた学校は、部活の掛け声で賑やかでしたです。
こっそりシャワーを借りるにもまだ時間が早いですし、することが正直ありません。
じっとしてると要らないことばかり考えてしまいそうです。
少し考えて、散歩して身体を疲れさせることに決めたのです。
疲れていればきっと、硬い床でもぐっすり眠れるに違いないのですよ。
出来ることならお布団で寝たいですが、屋根のあるところで寝れるだけで十分だと思わなくてはならないのです。
なにせアタシは家無し子。首からがま口財布下げて、同情するなら金をくれと言わなきゃならないのです。
良くは知りませんが、叔母さんが前にそう言ってましたです。
アタシの通うこの学校は、無駄に広い敷地を林と森の間くらいの木々が取り囲んでるのです。
昼休みには木陰のベンチで午後の授業に向けて英気を養い、放課後にはやっぱり木陰で参考書を枕に睡眠学習をするのです。
じゅ、授業中は睡眠学習はしてないですよ。
第一候補は校舎内ですが、もしもの場合のために寝床になりそうな場所を探しながらの散歩です。
校門とは反対側まで歩いてきました。
そこで思い出したのです。
校舎のてっぺんから見ると、この辺りの木々の向こうになにやら屋根が見えるらしいという話を。
気のせいだという説と、ご近所の屋根を見間違えたのだという説とあります。
が、地図によるとそこも学校の敷地とひとくくり。
これは調査するべきでしょう!
別に色々ありすぎて、破れかぶれになってるわけじゃないですよ。
……たぶん。
初夏だというのにひんやりと涼しい木々の間を突き進みます。
とろそうに見えると評判なチビなアタシですが、実は運動神経は悪くないのです。
狭い塀の上だってちょちょいと歩けますし、身体だって十分に柔らかいのです。その身のこなしはまるで猫のよう! そう自負しているですよ。
決してあだ名が「みー」で、猫のようだからではありません。
そして進んだ先、そこにはバーネットの秘密の花園のような、立派な作りの塀と門があったのです。
惜しむべきはアタシがそこに入る鍵を持っていないということ。
ですが隙間から見える東屋はとっても寝心地が良さそうなのです。
立ち去り難く、アタシは辺りを見回しましたです。
枝ぶりの立派な巨木が、アタシと寝床を遮る塀の側に立っております。
これはアタシにあの木を登り、中に入れと運命の女神サマが言っているに違いないのです。
ええ、そうに違いないです!
なんとか手の届く高さの枝に飛びつき、そこからするすると木を登っていきます。
猫じゃなくてお猿さんのよう? 失礼な。
猫は木登りも得意なのです。……たまに高いところに登って降りられなくなる子もいますが。アタシは違うですよ!
「おぉう」
登った先で見えたのは、見事に手入れされたハイソサエティでセレブリティなお庭でした。
思わず感嘆の声が漏れてしまったです。そのぐらい凄いのです。
でもって、やっぱりお昼寝に最適な東屋なのです!
手入れされたお庭ってことはですよ、あの門は開閉可能に違いないです。
こちら側からは開きませんでした。
ですが、きっと向こう側からは簡単に開けられるに違いありませんっ。それが無理でも、学校に戻ることは間違いなく出来るはずです!
そうと決まれば――、
…………ふぁあっ。
えっとですね、中に入るのは後でも出来ることです。
アタシの身体は睡眠を欲しているみたいなののですよ、ええ。
なのでここはひとつ、仮眠を取ることにします。
ぽかぽかお日様の照る木の上。
寝るには最適の場所です。