2、家を失いました。 ※
※ 住宅火災の描写があります。生々しい描写ではありませんが、ご注意ください。
それは今日の昼間のことです。
アタシが住処であるアパートに向かって歩いていると、サイレンと鐘を鳴らしながら走っていく消防車に追い抜かれたのです。
火事なのでしょうか、不用心ですね。
この時のアタシはそんなことをちらりと考えただけで、思い切り他人事。
だって仕方がないのです。
この時のアタシの頭の中は明日からの予定でいっぱいで、実を言えば少々寝不足気味。昨日からどきどきわくわくで、あまりよく寝れなかったのです。
アパートに近付くにつれて、その浮ついた心に何やら暗雲が漂い始めたのです。
何かが燃えた焦げた臭いに、道路に出て不安そうに言葉を交わす奥さま方。
それらはアタシの住むアパートに近付くにつれて、どんどん強く、多くなって行きました。
いやぁな予感がしたですよ。
「お嬢ちゃん、この先のアパートで火事があってね。悪いけど通行止めなんだよ」
アパートまであと少し。
というか、アパートの目の前というところで、消防団という文字の入ったヘルメットをしたおじさんに止められました。
アパートで火事。
その言葉でアタシの顔は血の気が引いて真っ青なっていることでしょう。
この先にあるアパートといえば、アタシが暮らすぼろアパートだけ。そこにはアタシの全財産があるのです。
幸いにも、携帯電話とお財布は鞄の中にあります。
でもそれだけしかないとも言えるのです。
「もしかしてお嬢ちゃん、あのアパートの住人かい?」
力なく頷くと、おじさんは通してくれました。
ほぼ鎮火したけどまだ煙が出ているから気をつけていくんだよと、そう言ってくれた消防団のおじさんにお礼を言ってアパートに近付きます。
……ああ、やっぱりアタシの住むアパートです。
どの程度の火事なのでしょう。火元はどこなのでしょう。
逸る気持ちを抑えながら、取り出したハンカチで口を鼻を押さえ進みます。
「あんた、なんて事してくれたんだいっ!」
待ち構えていたのでしょう。
アパートの前で警察と消防の方と話していた鬼ババ……もとい、大家さんがアタシを見つけるなりそう声高に怒鳴りました。
「いつかはやると思ってんだよ!」
この鬼ババ……もとい、いえ、もう訂正するもの面倒です。仕事の都合で保護者が殆ど家に戻ってこないせいなのか、アタシを目の仇にしてるのです。
品行方正を絵に描いたようなアタシだというのに、ご近所の奥さま方にはすこぶる評判なアタシを、とにかく追い出す口実が欲しいのです。
曰く、保護者がいないのをいいことに男を連れ込んでいる。
曰く、夜遅くまで帰ってこないのは援助交際をしているからだ。
曰く、曰く、曰く……。
とまあ、こんな具合に。
もちろん男の人が苦手で目もまともに見れない彼氏なし歴年齢なアタシにそんなことは無理ですし、遅くまでアパートに帰らないのはこの鬼ババと顔をあわせたくないのと節約のために図書館で勉強してるからで。
近所の奥さま方は少なくともアタシがそんな子でないことはわかってくださってるようで、表面的には優しく接してくださってます。
「ちょっと落ち着いてください。
火元がその子の部屋だというだけで、原因もなにもわかってないんですから」
鼻息荒く怒鳴り散らす大家さんを警察の方が宥めながら、アタシから引き離します。
同情するような憐れむような、そんな視線がアタシに向けられますが、その奥には疑うような色が見えました。
アタシはこういうのに敏いのですよ。
「あー、落ち着いて聞いてくれるかな。
火元は君の部屋で、台所周りというか玄関近くの燃え方が酷いからその辺りが火元じゃないかと思う。詳しいことは完全に鎮火を確認してからになるけど」
玄関ですか。燃えそうなものをおいた記憶はないのですが?
ですが消防の方がそういうなら、そうなのでしょう。
「発見が早かったから居室の方は燃えてないけど、煙と消化の水で酷い状態になってる。玄関扉が熱で変形もしてるし、とても住める状態じゃない。
それから現場検証を終えるまでは物を動かさないでもらいたいんだ」
それってつまり、
「申し訳ないんだけどね」
そぉゆぅことなのですね。
神様、これは浮ついていたアタシへの罰なのですか!?
久しぶりに叔母さんに会えるので、ちょっとうきうきわくわくしてただけじゃないですか!
「それって、いつまでかかるんですか」
なんとか絞り出した質問に返ってきたのは、早くても明日の昼過ぎだという答えだったのです。
住宅火災についての対応は、よくわからないので想像で書いてあります。
消防や警察関係の方で「違う!」という方は……目をつぶっていただくか、情報提供をお願いします。