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ご主人様と猫。  作者: 鍵屋
まいごの話。
17/18

15、叔母さん、これも事件なのです。

 アタシは壁に寄りかかり、忙しなく歩く人の波をぼんやりと眺めてみましたです。誰もアタシのことなんて、気にしちゃあいません。

 ふりっふりの、びらっびらな格好の、なんとも痛々しい格好だと言うのに!

 たまにちらっと見る人はいますが、それだって……微笑ましい人形か何かを見てるような、そんな視線なのです。


 はぁ。とため息をついて、ガラスに映ったアタシを眺めてみます。ハム子さん作な、見事なふりっふりのびらっびらなアタシが視界に飛び込んできましたです。

 最近はこんな格好ばっかでしたから、少しは耐性もついてきましたです。


 が、


「アタシの趣味じゃない」


 ……思わず本音が口からぽろりと転がり落ちてしまったですよ。

 シンプルイズザベスト。踵の高い靴なんてあり得ない。女はいつだって、猛ダッシュできる格好じゃなきゃ★

 コレが母の持論、だそうですし。


 そうなのですよ。ちっちゃい頃のアタシは、男の子のような格好をしてましたです。

 どこのおデフタレントさんだと小一時間問い詰めたくなるような、オーバーオールの毎日。基本はデニム生地、たまにどこで見つけてきたんだと言いたくなるような妙ちくりんな柄。

 見るに見かねた叔母さんが洋服を買ってくれるまで、アタシはそんなだったのです。


 だからココロが拒絶反応を起こすのですよ。

 ……似合ってるみたいですが。非常に不本意なことに。


「……帰ろ」


 ここで呆けと立っていたところでどうにかなる訳ではありません。

 なのでアタシはおウチ――ご主人様の待つお屋敷に先に帰ることにしたのです。


 出来ることならハム子さんに連絡をとって、一緒におウチに帰るのが一番なのでしょうが、最近携帯電話を携帯する必要がなかったので携帯するということを忘れてしまったのですよ。

 早口言葉のようになってしまってますが、事実なのです。

 叔母さんが用事がある時はおウチの電話にかけてきますし、学校の友人はアタシが日本にいることを知らないので連絡を寄こさないのです。


 別にアタシが携帯が必要ないほど誰からも連絡を頂かないわけじゃないのですよ。





 迷子になった泣き虫の子猫ちゃんの歌を口ずさみながら歩きます。

 同じ迷子かも知れないですが、アタシは泣いてばかりはいませんよ。おウチだってちゃんと言えるのです。

 住所は…………、


 ええっと、学校のお隣なのです。

 それが言えればお見事なのですよ! 犬のお巡りさんにキチンと答えられるのです、何せアタシは高校二年生の淑女レディなのですから!


 …………こほん。


 歌の通りなら犬のお巡りさんが現れてもいいのですよ。

 ご主人様の犬さんはお巡りさんというより、忠犬ですけどねー。


「おい、ワン公。車回して来い、署に戻るぞ」

「了解です。

 先輩、いい加減にその呼び方止めてくれませんかね」

「いいじゃねぇか、てめぇの名前は〝イヌ〟なんだからよぉ」


 居ましたよ!

 犬さんなお巡りさんが!

 制服姿ではなくてスーツ姿なのが残念ですが、間違いないですよ!


 一緒にいた鬼みたいな顔のおじさんから鍵の束を受け取り、駆け出した犬さんのお巡りさんがアタシの脇を通り過ぎるその時、アタシはスーツの裾を掴んでいました。

 立ち止まる犬さんなお巡りさん。

 見上げるアタシ。


 ご主人様の犬さんがラブラドール・レトリーバーとするならば、この犬さんはドーベルマンです。

 鋭い目をまるくして、アタシを見下ろします。


「えっと……」

「迷子です、アタシ」


 うん、嘘じゃないですよ。

 ハム子さんと買い物に来て、はぐれて、実はここがどこなのかわかってないのですから。なんとなくはわかっているのですが、歩いておウチに帰れるか不安だったのですよ。

 だって携帯電話はもちろんのこと、お財布持ってないのですよ。実は!


「お巡りさん、だよね?」


 叔母さん仕込みのテクニックでお巡りさんな犬さんを見つめます。

 どれほどそうしていたことでしょうか。


「おい、ワン公。

 てめぇそこで何やってんだ?」


 鬼のおじさんが声をかけるまで、アタシと犬さんはそのままだったのですよ!

 まぁ、びっくり。

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