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ご主人様と猫。  作者: 鍵屋
まいごの話。
16/18

14、叔母さん、事件です。

ここから「まいごの話。」編です。

 うん、完璧なのですよ。

 アタシは綺麗に〝マル〟が並んだ数学のプリントを眺め、ひとりごちたですよ。


 暦上では季節は秋へと移り変わり、夏休みも半分ほど過ぎましたです。

 怒涛の始まりとは正反対といってもいい、なんとも緩やかな〝飼いネコライフ〟を満喫するアタシですが、学生の本分は忘れてはないのです。


 数学なんてものは身体に解き方を叩き込めばいいんだ。がモットーな、「フク老」のあだ名を持つじーちゃん先生の課題もこれで終りなのです。

 日本史のレポートも終えましたし、現国の読書感想文も終えました。化学ばけがくの問題集も終えましたし…………、


「――んぉ?」


 思わず妙ちくりんな声が出てしまいましたが、そういえば、学校に連絡を入れてない気がしますよ?


 アパートが火事になったことはきっと、学校も知っているのです。

 んでもって、保護者が――この場合は、叔母さんのことですが――海外で仕事をしていることも当然知っているはずです。

 でもって、色々とあってですね、一連のことはアタシから学校に連絡してないです。


 ……もしかしなくてもアタシ、行方不明とかになってます?

 叔母さんもなんだかんだで拠点を移すことになって連絡取れていないはずですし。


 …………。


 ……………………。


 マズいですよ!

 失踪事件ですよ、警察沙汰ですよ!


 ワイドショーな光景がぐるぐると頭の中を駆け巡るです。

 顔が入り込まないように映された映像で、判別がつかないように声を変えた音声で誰かが言うんですよ。

 彼女何かに悩んでいるみたいだった――とか!


 とにかく行動に移さねばと、応接セットのソファーの上で立ち上がったアタシなのです。


「どうしたの、みー。そんなに慌てて?」


 そんなアタシにご主人様は訝しそうに首を傾げ、尋ねてきましたです。

 ご主人様にコーヒーと書類を持ってきたためにたまたまいた犬さんは、訝しいを通り越して不審なものでも見るようにこっちを見てるですが――それは無視です。


「アタシ、失踪事件っ!」


 端的に、現状を分かりやすく伝えたというのにです。

 返ってきたのが、カワイソウな子を見る視線ってのはどういうことですか! 犬さん!





 興奮していたアタシを抱き上げて、猫でも宥めるようにご主人様は背中を撫でてくれやがりましたです。

 色々と言いたいことはありまくりですが、それよりも緊急を要する問題が山積みなのです。

 だから今はそれらには触れませんが、覚えておくですよ。ご主人様。


「それで、さっきのはどういう意味?」


 小さい子にするように抱き上げた姿勢のまま、ご主人様はアタシの顔を覗きこみます。

 ……無駄に整ったご主人様の顔に思わず頭突きを喰らわせたくなったのですが、なぜでしょう?

 むぅ?


「みー?」


 お咎めの色を含んだ声で我に返ると、順を追って説明していきます。

 するとご主人様は納得がいったように頷いて、応接スペースのソファーにアタシごと座りやがりましたです。


 アタシの定位置はご主人様のお膝の上ですか。

 …………まー、色々と諦めてますから、いーですけどねー。


「みーが心配することはないから、大丈夫だよ。

 アパートの手続きも、学校への書類も、全部鷺沼がやってくれているからね」


 鷺沼さ……んぉ?

 おおぅ、あのみょうちくりんな格好をした弁護士さんですね。鳥さんですね。


 そういえばそんな会話が交わされていたような、いないような……。

 衝撃的なことがあったせいで、とんと忘れていたですよ。


「それに、みーの安全のためにはここにいるのが一番だしね。

 みーの叔母さんにもレオにも任されているし」


 叔母さんはわかりますが……レオさんにもですか?


 んー。

 …………まぁ、深く考えないのが一番です。

 叔母さんの旦那さんになるあの人は、アタシには理解出来ない次元の御方でしたです。


「さて、問題が解決したならお茶にしようか。

 今日はどこのお茶かな、乾?」


「本日はローズヒップティーにございます」


「ふぅん、珍しいね」


 いつの間に出て戻ってきたのか、犬さんはテーブルの上にカップとスイーツを並べながらご主人様の質問に涼しげな顔で答えてくださりやがりましたですよ。

 さり気なくアタシを痛い子でも見るように見つめてくださりやがりながら。

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