12、決断を迫られました。
「学校まで徒歩0分、家事の類の心配も一切いらない。
最高の下宿先だと思わない? ここ」
理解出来ないでいるアタシに、ご主人様はそれは楽しそうに言いやがりました。
魅力的なんてもんじゃないくらい、魅力はあるですよ。
お昼寝に最適の場所はあるし、ご飯は美味しいし、ミルクを使ったデザートは最高だし。
まぁ、色々と不満はあるんですが。
それよりも魅力のほうが大きいのは確かなのです。
なのですが――、
「無理っ!」
叔母さんになんて説明すればよいのか。アタシにはさっぱりなのですよ!
なのでアタシは必死に首を横に振ります。
「叔母さんのことを心配してるなら、気にする必要はないよ。
みーの叔母さん、結婚してロンドンを拠点に生活することになるから。俺が保護者代理を引き受けさせてもらうに障害はない」
…………はい?
そんな話、聞いたこと無いですよ?
男なんて信用ならない、が口癖の叔母さんなのですよ?
結婚する相手がいるなんて話、聞いたことがないですよ?
「レオのやつ、いままで女に不自由したことがないからって女の口説き方もわからなかったんだよ。笑えるよね。
一目惚れしてからずっと仕事の関係だけで我慢してたなんて、冗談みたいな話だよね」
意味がわかんないですよ。
そのレオさんとやらと、アタシの叔母さんがどうして一緒の話に出てくるですか?
「意味がわからないって顔してるね?
間抜けな顔のみーもかわいい」
んをっ!
間抜けとはレディに対して失敬な!
ご主人様はアタシのそんな心に気付いたのかにやりと笑うと、頭をぽんぽんと軽く叩いてくれやがりました。
「褒めてるんだよ?
俺、誰かをかわいいと思ったのなんて、始めてだしね」
その〝かわいい〟は絶対に愛玩動物に対するそれで、間違っても人間のレディに対するそれじゃないと、アタシは主張するですよ!
「……まあ、どっちでもいいじゃない?
かわいい事に違いはないんだし」
一緒じゃないですよ!
そうやって女心を理解出来ないから、男の人は女性に呆れられるのですよ。
毎日の些細な「アイシテル」が女性の心を掴むのです。イベントの時に特大の「アイシテル」を捧げるだけでは駄目なのですよ!
別にアタシはご主人様に「アイシテル」と言って欲しいわけじゃないですよ?
コレは叔母さんの主張なのです!
「暫く一緒にいて、俺がみーの嫌がることをすることがあった?
ベッドの中でだって、優しくしただろう?」
もの凄く卑猥に聞こえますが、単純に抱き枕にされただけの関係ですよ!
っていうか、嫌がることだらけじゃないですか!
お膝の上だって、出来ることなら遠慮したいのですよ!
「みーに与えられた選択肢はふたつ。
叔母さんと一緒にロンドンに行くか、俺のところに残るか」
――どっちかだよ?
うーうーうー。
学校のお受験英語ですら厳しいアタシに、英語圏で生活しろだなんてそんな無理難題を突きつけられても困るですよ。
その上、ご主人様の言い分を信じるなら新婚さんな叔母さんの家に瘤がくっついて行くのも気が引けるのです。
でもでもでも、でもなのです。
いくらご飯が美味しくてデザートが絶品でアタシに出されるミルクが極上のそれだとしてもです、このままご主人様のところで厄介になるのはアタシのプライドとか色々なものがですね。
うー、悩むのですよ。
「美衣ちゃん!」
聞きなれた声がドアを勢いよく開け放たれる音と一緒に聞こえ顔を向けると、そこには叔母さんが立っていましたです。
両脇にイケメンふたりを引き連れて。
……いえ、片方は犬さんなんですけどね。