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ご主人様と猫。  作者: 鍵屋
はじまりの話。
11/18

11、真相が判明しました。

 アタシが拾われた翌日以降、ご主人様は外出することもなく家でなにやら机に向かって仕事をされてましたです。

 三階にあるご主人様の仕事部屋にはバルコニーに続く大きな窓がありまして、そこにアタシ専用の椅子が置かれてそこがアタシの定位置となってるです。


 のんびりまったり。

 家の中でくつろぐ飼い猫ってこんな気分なのかと、飼い猫ライフを満喫中です。


 ……まぁ、アタシのちょっとしたミスでご主人様と一緒に寝ることになったりとかですね、色々と不満はあるんです。

 あるんですが、なんか色々と諦めたというか慣れたというか。

 そんな日々が続いているですよ。


 夜抱き枕にされることと、ハム子さんにふりっふりのぴらっぴらな服を着せられることと、アレなティータイムを除けば……快適ですし。

 犬さんのアレな視線も気にしないことに決めましたですし。


「みー、ちょっとこっちにおいで」


 半分寝ていたアタシはご主人様の声に立ち上がると、応接スペースのソファで手招きしてやがります。しかも何時の間にやら、来客がいやがるですよ。

 とてとてと歩きまして、ご主人様の前で立ち止まって首を傾げます。

 なぁに?

 言うのも面倒なので、仕草で訊ねるですよ。


「鷺沼がアパートの報告書を持ってきたんだ。

 みーも知りたいだろう?」


 それだけで通じたのか、ご主人様は笑顔でそう尋ねてきましたです。


 それは当然知りたいですよ!

 アタシが家なしになった原因なのですから!


 それはさておき、鷺沼さん?

 ええっと、どちらさまでした…………おおぅ、思い出したですよ。

 ご主人様お抱えで、ハム子さんがぼっちゃまとべた褒めしていた、弁護士の鳥さんですね。


 腕を引かれるままティータイムの時のようにご主人様のお膝の上に乗っかりまして、アタシのアパートのごたごたを片付けてくれた彼を見やります。


 イメージとしましてはですね、生真面目!を形にしたようなヒトです。

 ですが、べったり固定された七三分けと、時代遅れのださ黒縁眼鏡。なぜかダブルの金ボタンスーツで、胸元では紐ネクタイが揺れてるです。

 …………アタシのふりふりぴらぴらもイタイと思いますが、このヒトも相当ですよ!


「お嬢様、この度アパートの事後処理を担当致しました鷺沼と申します。

 格好は……気にしないでいただけると。若の元を訪問すると祖母に知られて、このようにさせられまして」


 同士ですか!

 イタイとか思っちゃって、申し訳ないですよ。

 言われてみれば、スーツのサイズがあってない気がしますね。だぼっとしてるし、丈も足りてないですし。

 …………うん。


「みー、あまりじろじろ見ない」


 まじまじと観察してしまったら、ご主人様に怒られましたです。

 そうですよね。アタシだってじろじろ見られたら気分良くないですし。


 しゅんとなったアタシの頭をご主人様は撫で、それから鳥さんに話を促しましたです。

 鳥さんはそれを受け、取り出した紙の束を捲りながら読み上げます。


「出火の原因は、老朽化した外灯の配線を放置したことによるものでした。

 作った当時の大工に確認を取れなかったのでどうしてそうなっているのかわからないのですが、外灯の配線がなぜか各部屋の台所部分を通っていたんですよね。外に露出している部分ほどの劣化はみられませんでしたが、許可をとって壁を剥がさせてもらった部屋でもいつ出火してもおかしくないような劣化が見られましたから間違いないでしょう。

 消防の見解も壁の中の配線からの出火でしたし。

 また、別の住人の話ですが、外灯の配線の老朽化に気付いた住人が危ないから直してくれと大家にお願いしたところ、けんもほろろにされたと。外に露出していた場所はビニルテープを巻くだけに済ませ、これ以上を求めるなら自分で業者に頼めとも」


 あー、そういえば、女優を目指すおねーさんがそんなことを言われたと言って怒っていた記憶があるですよ。

 不規則な生活をしてるおねーさんだったので、ほとんど顔をあわせなかったのですが。


「その外灯は共有部分だよね?」

「はい。ですのでお嬢様にこの度の出火の落ち度はありません。

 むしろ慰謝料を請求できるかと」


 ほっとしましたですよ。

 慰謝料うんぬんはとりあえずおいておくとしてです、出火の原因がアタシじゃなくてよかったです。

 これで叔母さんに心配をかけなくて済むですよ。


 思わずうるっときちゃったのを隠すために、手近にあったご主人様に抱きつくです。

 夜に抱き枕にされてるとですね、抱きつくのが今更って気分なんですよ。


「みー、どうしたい?

 望むなら、火災の慰謝料だけじゃなくて数々の暴言に対する慰謝料ももぎ取ってあげるよ?」

「……それはいらない。

 叔母さんに迷惑をかけないですむ、新しい部屋さえなんとかなれば」


 鼻声だった自覚はあるです。

 でも仕方ないのです、叔母さんに迷惑をかけてしまうんじゃないかと……ずっと気が気じゃなかったんです。

 飼いネコライフをただ満喫してたわけじゃないんです。


「それなら簡単に手配できる。

 鷺沼、学校の手続きは任せたよ」

「かしこまりました」


 …………んぉ?

 なにをかしこまったんですか、鳥さん?

実際に本文中のような判断を弁護士がするか、謎です。


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