私は殺され妻にはならない
興味を持ってくださりありがとうございます。
転生者がだいぶ性格悪いかもです、何なら悪女……?
オリヴィア・フォンテルの1回目の人生は、自分の夫によって殺され幕を閉じた。
嫁いだフォンテル帝国の皇帝陛下デュセルは眉目秀麗で敏腕皇帝と評されていたのだが……どこか闇を感じさせる男であった。
それも仕方ないであろう。幼い頃から政治に巻き込まれて己を律するように生きていたのだから。
闇を思わすその影ある表情さえも好ましいとオリヴィアは彼を好きになった。そして、皇帝妃となったオリヴィアには優しく接していた。のにも関わらず、結婚してから10日目の夜に彼の剣にて彼の手で殺されたのだ。
さぁ、それは何故でしょう。
その理由を私は知っている。
ただ、物語にはまだ続きがあって、オリヴィアはなんと時間の巻き戻りにより2回目の人生を生きるのだ。
オリヴィアは2度目の人生は絶対に皇帝妃などにはならない、デュセルになんか惚れたりしないと決意したのにも関わらず、デュセルの強引なアプローチによって、2度目の人生も皇帝妃となった。
始めは、オリヴィアも自分を殺した元夫なんか好きになるかと避けていたのに、前世でのデュセルの行動には誤解があったこと、デュセルは実はオリヴィアを愛していたことを知って、結局は2人が結ばれてめでたしめでたし、と物語は終わったのだ。
そう物語と言ったよ。もう分かったよね?
私はこの物語を知る転生者で、このツッコミどころ満載の小説の結末に納得できなかった。
だって、オリヴィアとデュセル二人とも阿保か!!と呟かずにはいられなかったから。良かったね、紆余曲折で時間跨いでまで愛が実って良かったね、とはならなかった。
まず、ツッコミ①
デュセル、愛する妻をなぜ殺した?
これに関してはもう阿保。賢帝と言われるほど剣技にも政治にも優れていたはずなのに、誤った情報から愛する妻を殺しちゃったらしい。
なんでも、デュセルを愛するフォンテル帝国の大貴族ヨナが、デュセルを狙う黒幕がいると唆し、殺しに来たと思わせて、そこに現れたオリヴィアを事実確認もせずに殺してしまう。
もう阿保としか言いようがない。賢帝と言われてるんだよね?確認もせずに殺すなんて、地盤調査せずに家建てちゃうとか、検査せずに手術しちゃうとか、それくらいあり得ないことだからね。
んで、後からヨナの悪事が明るみになって、自分の行いで愛する妻を殺しちゃったーって、すんごく後悔して時間を巻き戻すの。
はい、次。
ツッコミ②
なんでオリヴィアさん、あなたは殺された元夫を好きになる?
殺されたんだよ?誤解があったかもしれないけど、確認不足という初歩的な過ちで殺されたんだよ?そんな陳腐な男いらんでしょ。
2度目の人生で、オリヴィアはデュセラが本当に自分を愛していて、ヨナに嵌められて自分を殺したと知って、心揺れるのだ。そして、案の定、絆されてハッピーエンド。
邪魔が入りながらも、次世ではお互いの感情に素直になって行動した結果、愛を確かめ合いゴールイン。
オリヴィアは元々、自国で継母と異母姉妹に虐げられて生きてきたから自己肯定感が低いのとヒロイン気質だ。いや、ヒロインなのだが。
だから、ちょっと優しくされると絆されてしまった感じ。だいぶ、ちょろい。
というか、幼少期から過酷な経験をした影ある男を好きになっちゃうとか、男を見る目なし、間違いなし。
そして最後のツッコミ③
オリヴィアさん、あなたを大切に思う人は他にもいますよ!!
オリヴィアを幼い頃から護衛してきた幼馴染の騎士クラウドは、自国から嫁入りと同時に付き添いを許された数少ない使用人の中の1人。
彼は2度目の人生で記憶を取り戻しており、必死にオリヴィアに言い聞かせた。前世で過ちを犯した男になんかに、愛するオリヴィアを渡したくなかったのだ。
だが、結局、忠言は失言と受け取り、オリヴィアはクラウドを避けるようになった。それでも、最後には和解して、クラウドは2人の幸せを願って身を引いたのだ。
クラウドは1度目の人生の時、殺したオリヴィアを抱いて後悔するデュセルに怒り2人は決闘した。デュセルを追い込んだ時、オリヴィアを失った悲しみを見せた隙に、帝国軍に殺されてしまうのだ。
『一度でいいから、あなたを抱きしめたかった。亡骸でさえ、あの男のものなのか』
死ぬ際に吐露した思い……切なすぎる。
彼は、最後までオリヴィアに触れることさえもできなかった。
こんなにも思われていて気付かないなんてオリヴィアは本当にお馬鹿だ。クラウドをこれ以上悲しませたくない。だから、絶対にデュセルと結婚なんかしないと決意している。
しかし、デュセルのアプローチは凄かった。殺しちゃった後悔と今度こそは幸せにするという思い上がりな彼の行動が煩わしくて仕方ない。
デュセルが何も知らないと思っているオリヴィアに、「必ず幸せにする。皇帝妃になってもあなたを辛い目に合わすことなどしない。あなたを必ず守ってみせる」って言ってるの。
どの面下げて言ったんだ、ばーか。
自分の過ちで愛する人の人生を終わらせたんだから、次の人生くらい自分より賢い人と幸せになってくれ、とか思わないのかな!?
後ろに控えているクラウドは、表情ひとつ変えていないけども、小説では物凄い葛藤の嵐だった。
『本当に彼女を幸せにできるのだろうか。だが、自分はただの護衛騎士。彼女を幸せにする事などできない……ならば、彼女が幸せになるよう影で支えよう』
切ない。
クラウドは、帝国に入ってから徐々に記憶が蘇り、必死にオリヴィアを取り戻そうと努力する。にも関わらず、オリヴィアは彼の愛より愚帝を選ぶのだから解せない。
と言うことで、物語に異議を申し立てたい私は、散々希望を持たせてから落とすことに決めた。
「フォンテル皇帝陛下、私は……きっと帝国の母など務めることはできません……そんな人間ではありませんから」
「君はとても素晴らしい女性だ。海の底まである深い優しさと、どこまでも広がるおおらかさ。そんな君なら皇帝妃もきっと大丈夫だ」
「ですが……怖いのです」
「何が、と聞いても良いか?」
「……皇帝妃となれば、何か恐ろしい事が起こるのではないかと思ってしまうのです」
「それは……」
デュセルが黙る。
愛する女が結婚を怖いと言えば、どうする?
「結婚してもあなたを危険な目になど合わせないと誓う。絶対にそんな事起こさせない」
起こさせない?
そりゃそうよ、あんたの手に掛かったんだから。
「でも……私なんかが帝国の貴族たちに受け入れられるでしょうか」
「意を唱える者たちがいれば、早急に片付けよう」
「フォンテル陛下、あの、結婚する前に一度、帝国に行ってみるのは駄目でしょうか?土地を踏んでみれば、陛下の言うとおり不安はなくなるかもしれません」
「あぁ!勿論だとも!!すぐ手配しよう」
そうして私は帝国へと渡った。
「オリヴィア殿下、宜しいのですか?」
「何が?」
「不安がおありでしょう?我が国は昔からフォンテル帝国の貴族とは折り合いが悪い。政略結婚をした所で何かが変わるのか……そもそも他の政治的要素で改善できない事が問題なのに」
「……あなたは私に嫁いでほしくないのね」
「それはっ」
「気をつけなさい言葉には。国との問題に口出せばあなたの立場も危うくなるわよ」
「出過ぎた真似を……申し訳ありませんでした」
私が自由になるために、こうするしかないのだ。
帝国に入ってから、デュセルの過保護ぶりは増した。オリヴィアをよく思わない貴族たちを寄せ付けなかった。より貴族達の反感を買って、私の立場は悪くなるばかり。
「フォンテル皇帝陛下」
「デュセルでいい」
「……デュセル様。やはり帝国の貴族は私をよく思っていないのだわ。ここへ来てから辛いことばかりで……気が滅入りそうです」
「聞かせてくれ、誰が君を苦しめたんだ?」
私は貴族たちの名をあげた。彼は愛する女の戯言によって、忠臣たちを遠ざけた。
「デュセル様、ヨナ様は私の事が嫌いみたい。私は仲良くしたいのに、悲しいですね」
デュセルはヨナへ忠告した。さらにヨナは嫉妬に狂っていとも簡単にまた私へ罠をしかけてきた。
デュセルは怒った。「同じ過ちをするとはな」と切り捨てて、ヨナの一族ごと処刑した。
デュセルの行動に帝国の貴族たちは、さすがにやり過ぎだと非難した。婚約者でもない小国の小娘のために大貴族を消したのだから。
でもデュセルはオリヴィアがいてくれれば良いと言った。それに涙ながらに震えてみれば、デュセルは私をギュッと抱きしめた。
「あの、デュセル様。今宵、あなたの元へ伺っても宜しいでしょうか?」
「オリヴィア……もちろんだよ」
身を清めて廊下を歩きながら、クラウドがしつこいほど止めてきた。
「まだ婚約もしてないのです。こんなの許せるわけがない」
「今がチャンスなの」
「俺は認めません。あなたが大切だから言うのです!!」
「大丈夫、ちゃんと考えてるから」
「考えてるって……夜、男の部屋に行く意味など分かっているでしょうに!!」
ダンッと壁に詰め寄られて、怒りを顕にするクラウド。赤毛の髪が燃えているようだ。
「馬鹿ね、あなたも一緒に来るのよ」
「は?何言って」
戸惑うクラウドの手を引いて私はデュセルの寝室へと向かった。だが、入ったのは寝室の扉ではなく寝室と繋がった彼の私室。
私が殺された場所だ。
事前に部屋の護衛は買い取っていたため、誰もいない。
「ちょ、マジかよ、俺そんな趣味ない……」
「しっ黙って」
部屋に入ると月明かりに照らされ、僅かに家具たちが見える。
物音がしたのか、寝室から姿を現したデュセル。クラウドに隠れているように合図して、私は「あの場所」へと立った。
「オリヴィア……?どうしてここに?」
「デュセル様」
「オリヴィア、あっちへ行こう」
彼が緊張したのが空気で分かった。
「ここに来たのは初めてじゃないのよね」
彼が息を呑むのが分かった。
「ここだったわよね、確か」
オリヴィア……という彼の声がカラカラに乾いている。
「ここで、殺されたのよね。あなたに」
その言葉を聞いて、デュセルはガバッと床に伏せた。
「オリヴィアっ、違う!聞いてくれ!!あれは誤解がっ」
「誤解?誤解で妻を殺すなんて、とんだ愚帝ね」
「オリヴィアっ、君を本当に愛していたんだ!!だが、情報操作されて」
「大帝国の皇帝が情けない」
「まさか君がそこにいるとは思わなかったんだ……」
「当たり前よ、ヨナの手が回ってたんだから。どうして確認しなかったの?馬鹿なの?」
「……本当に馬鹿だ、大馬鹿者だよ。幼い頃から自分を狙う暗殺者を警戒して生きてきた。だから命を狙われるなんて日常だった……うんざりするほど……側近から暗殺者がその日来ると聞いていた……だから、」
「相手も確認せず?あなたはプレゼントの中身を確認せずに捨てれる人なのね!」
「すまないっ、だけど、俺は後悔して今度は絶対にあんな過ちはしないと決めている」
「痛かったなぁ」
「オリヴィア……」
「悲しかった」
「っす、すまない……」
デュセルの声が震えている。泣いているのだ。
「あなたを信じて耐えてた苦痛より苦痛だったわ。虚しかった」
「どうしたら、許してくれる?」
「私、決めてるの」
しゃがみ込んでデュエルと同じ目線になる。
「今世では愚帝デュエルとは結婚などしないって」
「オリヴィア……」
「だって、自分の事を殺した人をどうしてまた好きになれると思う?」
肩を震わせていたデュセルを静かに見守る。泣いたって今のオリヴィアの心は揺らがない。
「はいこれ」
私は綺麗に包まれた箱を渡した。
「中身を確認せずに捨てる?それとも、確認して判断する?」
震える手でデュセルは箱を開けた。中には透明な液体が入った小瓶と巾着。
「ゆっくり休んで」
「オリヴィア……行かないでくれ……君がいないと」
「もう私はあなたを愛さないわ。さようなら」
*
「これからどうしますか?」
転移魔法で城を抜け出した私達。
「そうねぇ、どこかこの世界の端まで冒険してみようかな」
キラキラ光る水平線を見ながら言った。
「クラウド、ごめんなさい」
巻き込んでしまって。
「俺はあなたがやりたい事、それが一番ですから。どこまでもいつまでもお供しますよ」
「ありがとう」
「あなたの騎士になった時から、私はあなたのものですから」
「よ、よくそんな事言えるわね……」
首から熱くなるのが分かる。それを隠すように私は続けた。
「今頃、国でも帝国でも大騒ぎよね。きっと死ぬまで私達を探すかしら」
「あの箱の中身は一体?」
「精神安定剤と……私の髪の毛よ」
「はい?」
「とりあえず、気持ちを落ち着かせてもらって、身体も休まれば、さすがに殺された記憶のある元嫁なんか探さないでしょう?」
「じゃあ、髪の毛は……」
「すっかり忘れるのも悔しいから、それ見て教訓にしなさいって」
「えぐい」
「性格悪いでしょう?でも、今はすっきりよ!!最高の気分」
「ははっ、俺もです」
屈託なく笑うクラウドを見れて私は心が温まる。
「まずは南の温かい国へ行きたいわ。それに東の国にも行ってみたい」
「いいですね」
「それと、私に剣術を教えて。あなたに守られてばかりじゃいられないもの」
「あなたが?そうですね……護身術からやりましょうか」
「護身術!?絶対できるわよ」
「甘くみたらいけませんよ」
軽口を叩きながら私たちは歩き出した。が、足元が揺れている。
「な、何かしら……」
「あれは……」
ドドドドドドドドッ
という地響きとともにやってくる帝国の馬と騎士と……
「デュセル!!!」
「まじか、しつこ過ぎる!!」
私達は顔を見合わせて転移魔法の準備をした。
物語の強制力が働いてるのね!!
いいわ、やってやろうじゃん!死ぬまで逃げ切ってやる!!
「税金の無駄遣いよ!私は殺サレ妻なんかにはならないんだから!!」
崖の下に向かって煽る私の手を引くクラウド。
「なんで煽る!?顔がもういってる奴だ、オリヴィア様、失礼します!」
クラウドが横抱きに抱えて転移する。「やっぱ毒盛っとけば良かったかな!?」という私の問いに、「阿保ですか!髪の毛なんか渡すからっ!!」というクラウドの悪態は聞かなかったことにした。
転移する直前、デュセルの唸る声を聞いた。
もっと後悔しろ、ざまぁみろ!!
そして、前世以上に幸せになってみるんだから。
抱えられたまま、クラウドの首に手を回してそっと胸元に顔を預けたのだった。
追記:デュセルはその後、離れていった臣下に背中をとられ死亡。国を放ったらかして女を追いかけ、その名は愛に溺れた、しつこさだけは世界一な愚帝として歴史書に刻まれた。
fin.
前に日々ストレスフルな時に、書き殴っていたものを修正してみたんですけど、文章からだいぶ荒れていた模様笑
転生者のやってる事、悪いなぁと思いながら修正してました。
最後まで見て頂きありがとうございました!




