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剥がされかけたワンピース

えんまき姉妹やせんびきちゃんと過ごした日々の中で、かおりは

「変わらない姿」と「変わってしまう姿」の差に気づく。


善意がすれ違い、

居場所が静かに壊れていく中、

彼女はワンピースを守るため、その場を去る決断をする。



 体験談:二体目。

 個名:かおりさん。

 使用期間:二ヶ月。


「体験談をお願いします」

 そう言われた瞬間、わたしは固まってしまった。

 

 体験談なんて、簡単に話せる個ばかりじゃないのよ。

 だから最初は、断るつもりだった。

 それに、下手なの。

 気持ちとか表現することが。

 

「若い個の意見も必要なんです」

 

 それでも、けしさきさんが

 何度もお願いしてくるの。

 だから、とりあえず会議の内容を聞いてみた。

 そしたら、徐々に腹が立ってきて。

 不当な扱いをされてることに。

 今まで、興味すらなかったけど、

 種族のことを知るって大事だなって思ったわけ。

 だからね、わたしにもできる事があればって気持ちになって引き受けることにしたの。

 わたしと同じような個のためにもね。

 ってことで申請書にサインした理由、話します。

 分かりにくいかもしれないけれど、そこら辺は大目にお願いしますね。


 この話は、えんまき姉妹、

 せんびきちゃんと過ごしたときのこと。

 

 個体ごと区切られてない空間だったから、いつでも話せて楽しかったなぁ。

 お部屋の色もピンクでかわいかったし。

 例えるなら、ルームメイトって感じ。

 みんな、お洒落に興味があって、洋服の話題が一番盛り上がったの。

 持ち主様もキラキラしているものが好きだったみたい。


 出会ってすぐに仲良くなれたよ。

 だから、やっぱり同じ種族って最高って思った。

 役割が違っても、みんな繋がってるものがあるんだなぁって。

 お洒落の仕方も様々で、刺激的だったし。

 その中でもわたしが、羨ましかったのは帽子だったんだ。

 さっきも言ったけど、気持ち伝えるの下手くそなんだけどね、言ってみたの。

「えんまきちゃんたち、キャップ似合ってるね。わたし、こんな寸胴体だから帽子かぶれなくて」

「わたしたちは、かおりちゃんの方が羨ましいよ。そのワンピースすごく素敵」

 姉のえんちゃんが褒めてくれたの。

「それに、いい香りもする」

 続けて、妹のまきちゃんにも褒めてもらっちゃった。

 少し照れくさかったけど、みんなに気づかれなくてホッとしたの。

 持ち主様みたいに、恥ずかしいとき赤い色にならなくてよかったって思った。

 

 白い寸胴体は、白いままだから。

 

 でもね、えんまき姉妹が憧れてたのは、わたしじゃなかったみたい。

 なんの前触れもなく、妹のまきちゃんが言い出したの。

「せんびきちゃんの体型って魅力的」

「わたしも思ってたの!やっぱり、わたしたちって姉妹よねぇ。憧れるものも同じなんて」

 さらに、姉のえんちゃんまで。

「ありがとうございます。でも、わたしなんて……」

 せんびきちゃんはね、とても物静かな個だったの。

 よそよそしい感じで、会話に入ってくることも少なくて。

 姉妹が言うように、わたしもあの体型は羨ましかった。

 だって、わたしたち種族の中で唯一、

 姿が変わらないのは、せんびきちゃん一家だけだから。

 姿が変わらないってことはさ、見た目も変わらないってことでしょ?

「みんなが思ってるほど、いいものじゃないよ」

 突然ね、せんびきちゃんが切なそうに言ったの。

「持ち主様に会える回数も少ないし、姿が変わらないからなんの刺激もない。だから、わたしたち一家は活気がないの」

「みんな、それぞれ思うことがあるんだね……」

 珍しく真面目な話をしたんだ。

「でもさ、みんな仲良く過ごせてるから問題ないよ」

「そうだよ!楽しければいい!」

 姉妹の一言で、お部屋の雰囲気は明るくなったの。


 その時は、こんなことになるなんて思ってなかった。

 褒められたワンピースがね、ボロボロになって剥がれてきちゃったの。

 そのせいで、みんなとギクシャクしてきちゃって。

 だから、出てきちゃったの。

 みんなに「さよなら」も言わずに。


 全ては、この白い体が悪い。


 あの日、まきちゃんが持ち主様と一緒だったんだ。

 またみんなでお話が出来るって楽しみにしてたの。

 でも、違った。

「あれ?まき、キャップはどうしたの」

 えんちゃんが気づいたんだ。

「なくしちゃった……みたいなの」

「そんな、恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。そのままの姿でも素敵」

「そうですよ。きっと、そのうち見つけてもらえますよ」

 わたしと、せんびきちゃんも声をかけたわ。

 なんだか、かわいそうって思っちゃって。

 部屋の雰囲気もよくなかったけど、すぐに見つかるだろうって軽く考えてた。


 でも次の日も、また次の日もキャップ姿の

 まきちゃんには戻らなかった。

 

 ピンクのお部屋の中は、自由に動けるって

 言ったでしょ?

 だからね、まきちゃんが動く度にお部屋が黒く汚れていったの。

 キャップを、探してくれない持ち主様が悪い。

 それなのに元気がなくて。

 何度も励ましたの。

「気にしないで。悪いのは、まきちゃんじゃない」

「ありがとう。わたし、あまり動かないようにする」

 優しい個だなって思った。

 

 でもね、汚れていくのは

 お部屋だけじゃなかった。


 まきちゃんの先が、わたしのワンピースに何度も触れるの。

 その度に『ごめんね』って言わせてしまう。

「大丈夫だよ」

 そう言ってあげることしか出来なかった。

 姉のえんちゃんも『まきが、ごめんね』って。

 

 わたしたちには、どうすることもできない。

 持ち主様が、キャップを探してくれたらいい。

 そしたら、またみんなで仲良く過ごせるのに。

 ……そんな思いが消えなくて。

 

 そして、ついに

 ワンピースはボロボロになったの。

 白い寸胴体にまで、黒の汚れがついた。


「もう、耐えられない。かおりちゃんを汚してしまうなんて!」

 まきちゃんのこんな言葉を聞いたら『わたしは、ここにいたらいけない』

 って思っちゃったの。

 だから、持ち主様と一緒のときにそのまま出てきちゃったわけ。


 本当は、みんなとずっと一緒にいたかった。

 でも、それが出来なくなったのは

 わたしの白い寸胴体のせいなのよ。

 まきちゃんに悲しい思いをさせたのだから。


 というわけで、文房具委員会様。

 けし族の姿を変えてほしいです。

 わたしのような思いをしない個のために。

 


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