引き離された三兄弟
けし族のみつけしは、兄弟三人で暮らしていたが、引っ越しをきっかけに兄を失う。
探されることもなく消えていく兄の運命。
彼は同じ悲劇を繰り返さないため、
文房具委員会へ姿の変更を申請する。
引き離された三兄弟
体験談:一体目。
個名:みつけしさん。
使用期間:未使用。
家族が大切なのは、みんな同じですよ。
それぞれが『一族』と名乗ってるわけですから。
なのに、どうして『けし族』ばかりがこんな目に合わなければならないのでしょうか。
僕たち三兄弟は仲良く暮らしていました。
黒と青のボーダーシャツを、お揃いで着るほどですよ。
長い間一緒にいれば、もちろん兄と弟の喧嘩に巻き込まれることもあります。
弟は生まれ順の並びに、よく駄々をこねていました。
「僕だって先頭になりたい」
なんて言うんです。
あの狭い空間の中で並び順を変えるなんて、どう頑張っても無理なのに。
もう少し広い部屋なら叶えてあげられたのですが。
まぁ、そんなところもかわいかったですし、不満などありませんでした。
しかし、平穏な日々は突然壊されてしまいました。
兄と離れ離れになってしまったのです。
あれは、三月の終わりだったと記憶しています。
「あ、お隣さんも引っ越したよ」
ワクワクした様子で弟が言ったんです。
「どんな家か楽しみだな」
無口な兄もめずらしく声を踊らせていました。
新居でも三人一緒だと思っていました。
木の匂いがする机の上に置かれた僕たちは、どんな部屋で新生活を送るのかと少し、ソワソワしていました。
「青い屋根だよ!お揃いの服と同じ色だね」
「自由に動けるほど、広いといいけどな」
たわいもない会話をしていたとき、ビリビリと玄関を開けられました。
「いよいよだね」
僕はそんな呑気なことを言っていました。
その時はまだ、別れになるとは思っていませんでした。
まず兄が移動したんです。
当たり前のように、次はぼくの番だと弟に伝えました。
「心配しなくて大丈夫だから」
「うん!順番だもんね」
すると、『ピタ』っという音が聞こえたんです。
「えっ」
弟と声が重なりました。
なんと、玄関を閉められてしまったんです。
「お、お兄ちゃん!」
「……大丈夫。きっとすぐに会えるよ」
動揺を悟られないよう、咄嗟に出た言葉でした。
でも実際は、状況を理解できていませんでした。
それでも、不安がっている弟を落ち着かせなければならない。
そんな気持ちでいっぱいでした。
とりあえず僕は、必死に辺りを見回しました。
そして……。
かろうじて見えた青い屋根の部屋には
『えんまき族』の姿も見えたんです。
───あの、えんまき一家が。
兄には席すらない様子で、ポツンと佇んでいるように見えました。
一家にはそれぞれ、寝床も用意されているのに。
その姿からは離れていても気持ちが伝わってきました。
「なぜ、俺は一人なんだ」
不公平だと思いませんか。
同じ種族なのに。
しかし、想いなど通じるわけがありません。
聞き耳を立てている個体などいませんからね。
せめて遠くからでも兄の存在を、確かめられればと思いました。
……そんな願いすら届かない。
残酷にも青い屋根の家はパタンと音を立て、兄の姿は見えなくなったんです。
弟はパニックになり、泣き叫びました。
「並び順を変えてくれればよかったんだ!お兄ちゃんたちのバカ!」
情けないことに、僕は遠くを見つめることしかできませんでした。
不幸中の幸いと言うのでしょうか。
あの日以来、兄の姿を何度か目にすることはできました。
一度も幸せそうには見えませんでしたが。
やはり、一家の仲間には入れてもらえないようです。
ただでさえ役割が違うわけですから、当たり前ですよね。
あ、誤解しないでくださいね。
私たち一族は、自分たちの役割を誇りに思っています。
会議にて皆さんにも確認済みです。
では、なぜ僕が申請書にサインをしたのか。
理由をお伝えしたいと思います。
……兄が行方不明体になったからです。
青い屋根の家は、持ち主様の気分で置かれるため、僕らから見えない場所のときもありました。
運良く少しでも視界に入る日は必ず、兄の存在を確認していました。
全体ではなく、一部分見えているだけでも安心できたのです。
忘れもしません。
あの日は雨が降っていました。
持ち主様は濡れてしまった青い屋根を、僕らの目の前でパカッと開けました。
久しぶりに兄の姿を見られると、心が踊りました。
しかし……。
そこには、個体の欠片が転がっていたのです。
あれは間違いなく兄です。
───黒と青のボーダーシャツ。
お揃いの服を見間違えるわけがありません。
一体、いつ姿を消したのか。
一体、兄の体はどうなってしまったのか。
僕は青い家を睨みつけました。
あの一家は、誰一人と兄を探そうとしなかったのです。
きっと、損でも、得でもない存在だからだと思います。
こんなことがあっていいのでしょうか。
決して居心地の良いとは言えない空間の中で、最後まで役割を果たすこともできずに消えてしまったんです。
そして……。
この後、どうなるのかお分かりになりますよね?
そうです。
僕の番。
もし、兄のようになったら……。
想像しただけで震えが止まりませんでした。
そして、最も恐ろしいのは……。
───弟が一人になってしまうこと。
絶対に、それだけは耐えられません。
これ以上、弟に悲しい思いをさせたくないのです。
僕は、焦燥感に襲われました。
今思い返してみると不思議なのですが、何故かそのとき、冷たい風を感じたんです。
ふと、玄関を見上げると少し開いていました。
まるで『逃げなさい』と言われているかのように。
一体なんの力が動いたのでしょうか。
僕には分かりません。
そして、疑問に思う間もなく弟を連れだしました。
『わすれば』の場所は、しっかりと記憶していました。
「自分たちの体に危険を感じたら、そこへ向かえ」
兄から何度も言われていましたから。
そして、一族の元へ辿り着いた次第です。
もし、えんまき一家にとって兄が得をする存在であったなら……。
どうしても、この思いを拭うことが出来ないのです。
文房具委員会様。
お願いです。
どうか僕たち『けし族』の姿を変えてください。
二度と悲劇が繰り返されないために───。




