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 あれからというものことあるごとに白澤からメッセージが来るようになった。主に最新のラノベの情報やその他のオタク情報。

 それだけではなく、学校にいる時も話しかけられる頻度が上がったように思う。

 今まではホームルームが始まる前や授業の行間休みなどのわずかな時間しか話していなかった。しかし現在は白澤が昼休みにクラスを抜け出して屋上にやってきたり、放課後足早に教室を抜出している俺の後ろについてまわってきたりするので必然的にその時間が伸びている。


「どうしてそんなことをしているのやら」

 

 この間は二人でゲームセンターへ行きリズムゲームをした。俺は陰キャラだが運動神経が悪いわけではないので素人にしては上出来な動きをしていたと思う。それ以上に隣でキラキラオーラを纏いながらゲームをしている白澤に利用者たちは目を奪われていたけど。


「黒崎くんおはよう!」

「ああ、白澤。はよ」


 あくびを噛み殺しながら登校していると後ろから白澤に声をかけられた。ついでのように肩に手が置かれている。こいつはちょっと距離感がおかしい。

 朝から体調は絶好調のようで誰もが虜になる笑顔を向けられる。


「今日はバスケ部の朝練じゃないんだな」

「うん。今日は体育館の割り当ての日じゃないからね。朝練があるの覚えててくれて嬉しいな」

「ま、まあな」


 白澤は人たらしだ。会話の中にほんの少しの好意を混ぜるのが上手いのである。たくさんの人を魅了するスイート王子。

 だからこそ謎に感じていることがある。それは陰キャラの俺とどうして一緒にいたがっているのかということ。

 彼にはたくさんの友達がいて、おそらく俺もそのうちの一人だ。もっと会話が合う奴もいるはず。

 そばにいるのが俺である理由が見当たらない。


「どうしたの、黒崎くん」

「......なんでもねえ。それよりリュックについてるキーホルダー増えてないか」

「これね。昨日黒崎くんと遊んだ帰りにショップで見つけてさ。一目惚れして買ったんだ」

「かわいいか、これ」


 付けられているのは目つきが鋭い猫のぬいぐるみがついたキーホルダーだ。お世辞にもかわいらしいとは言えない。

 某猫の有名キャラクターと比べると一目瞭然だ。


「かわいいよ。俺は好き」

「そう。......なんか悪い」

「どうして」


 白澤は心底不思議そうに首を傾げた。


「自分の感性を否定されたら嫌だろ。俺だったらすげえ嫌。だから謝ったんだ」

「そうだったんだ。いいよ、気にしてない」


 満足気な様子で白澤は猫のキーホルダーを見つめる。どうしてそんな表情をするのだろうか。

 答えは出ないまま高校に到着した。

 ......


 白澤蜜月は人気者だ。人当たりがいいし、かわいらしいものが好きで女子とも話が盛り上がる。加えてバスケ部に所属しており運動神経もいいため男子からの人気も高かった。

 

「白澤、ここのカフェ新作出たらしいよ。今度みんなで食べに行こう」

「白澤、昼休みあいつらとバスケするんだけど行くだろ?」

 

 それゆえにたくさんの生徒が彼と親しくしたいと考えていた。校内で一人行動をしている様子は見たことがないし、入れ替わり立ち替わりやってきて話をしたり遊びに誘ったりしている。

 

「ごめん。先に黒崎くんとの予定が入っているからまた今度でもいい?」


 だから急に陰キャラとの絡みが多くなり、誘いを断られたりしたらもちろん俺が注目を浴びてしまうのは必然というわけ。

 今だって断られた男子生徒に睨まれている。またこいつかと言いたげな表情だ。


(俺だって思ってるよ! だって意味わかんねえもんな)


 屋上でマスクを無理やり取られて俺が白澤に怒った後、信頼を取り戻すという名目つきで和解。

 メッセージのやり取りをするようになり、今では放課後に一緒に遊びに行くまでの仲になったのだ。

 断られた生徒たちの視線を感じつつ机の下でスマホをいじるフリをした。そうしていないと雰囲気が気まずすぎて耐えられそうになかった。


......

 今日も一日平和に終わりそうだ。家に帰ったら何をしようか。新作アニメの鑑賞会でもいいし、推しキャラクターのイラストを描くのでもいい。ホームルームが始まるまでの間妄想にふける。


「黒崎、黒崎!」

「どうしたの」

「さっきから話しかけてたんだけど。無視すんなよ」


 俺の名前を呼んだのはクラスメイトであり、白澤と普段一緒に行動を共にしている様子を見かける男子だった。横にはそれに賛同するように頷く女子生徒もいる。

 名前は三田と谷だ。


「ごめん。無視していたわけじゃない」


 オタクとしての性質として一度自分の世界に入り込むと中々抜け出せないというものがある。


「そうか。そこは別にいいんだ。ホームルームが終わった後、少し話があるから3階の空き教室に来てくれ」

「ここで話すのじゃ駄目なのか」


 俺と三田のやり取りを聞くだけだった谷が口を挟んだ。

 

「駄目なの! それと一人できてね。他の誰かに言わないで」


 なるほど。他人に聞かれてはまずい話をするようだ。三田と谷は用事が終わったと言わんばかりに座席へ戻ろうとする。

 俺は彼らを引き留めた。


「ちゃんと行くから質問するのを許して欲しいんだけど」

「何?」

「その話ってやつは白澤と何か関係しているのか」

「!」


 図星だ。白澤は今バスケ部顧問に呼び出され中田や他の部員と共に職員室に行っている。今日1日こちらを伺うような視線はひしひしと感じていた。陰キャラは他者からの視線に敏感だから。

 三田と谷は白澤に知られないように俺に話したかったのだろう。


「白澤には絶対に言うなよ」

「言われなくても言わないよ」

「じゃあいい」


 そこで顧問に呼び出されたバスケ部員たちが教室へ戻ってきた。白澤と中田もだ。

 担任が生徒全員が教室にそろったことを確認してからホームルームが始まった。

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