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究極少女とその未来 ~ロリとメイドと三枚目~  作者: 七歌
●1st day『Nの未来へ/神の名前はA』
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●1st day『Nの未来へ/神の名前はA』 その2

   ×××


『ご機嫌いかがかな、ギンジ』


 銀磁のスマホから響いたのは、大人っぽい女性の声だった。どこか楽しげで、人をからかうような声音に、銀磁はいつも通りテンションを下げながら返事をする。


「はい、ご機嫌よろしくないですよ所長。なんです急に電話してきて」


『いやなに、いい知らせと悪い知らせがあるから連絡しただけだよ。どっちから聞きたい?』


「いい知らせからお願いします」


 どうせろくでもないことだろうと思いつつも、とりあえず銀磁はいい知らせから聞くことにした。どうせいい知らせも悪い知らせもろくでもないのだから、どっちから聞いても同じなのだ。

 それならおそらくショックが少ないであろういい知らせの方から聞いた方がいい。その方が心の準備が出来るというものだ。


『わかった。ではよい知らせだよ、ギンジ。おめでとう休日出勤だ、今から事務所に来るように』


「なにがおめでとうだ! 休日出勤って言葉のめでたい要素は前半二文字だけですからね!? 五十パーセントでめでたいって言葉を冠そうなんておこがましいんですよ!」


『はははは、その調子の良さ、昨日の夜は良く眠れたらしいじゃないか。大変重要な仕事だから拒否権はないよ。三十分以内に事務所に到着しなさい』


 そう言って、電話の先の『所長』は楽しげにくすくすと笑いを漏らす。大人っぽい声音に反して、笑い声はどこか子供のようだ。

 しかしどんなに笑い声が可愛かろうが、命令は無情である。上司命令に逆らうことは出来ない。

緊急出勤が含まれているくらいは、契約書の内容を全部覚えていない銀磁も覚えている。理由なく破ったら普通にクビだと以前言われたことも。

 とりあえず今日会いに行く予定だった女性には断りの連絡を入れなければと思い、通話を切ろうとした銀磁だったが――


『それと悪いお知らせだけど』


「ああ、そういえば二つお知らせがあるんでしたっけ」


『キミが今から会いに行こうとしていた女性、詐欺師だよ』


 かつーん、と床に落ちたスマホが音を立てる。組織から支給された特別製で、床に落ちてもそのフレームにも画面にも傷一つつかないが、代わりというべきか、非常に心地よい金属音が部屋中に冷ややかに響いた。

 銀磁は自分の手からスマホが落ちたのだと気付くまで、十数秒の時間を要した。

 やがてはっとして正気を取り戻した銀磁は、震える手で地面に落ちたスマホを拾い直すと、スピーカーを耳に近づける。

顔をやや白くさせ、聞き間違いであってくれと願いつつ。


「す、すみません所長、電波が悪くて少し聞こえませんでした。もう一回お願いします」


『だから、キミが偶然道端で出会ったと思っている詐欺師の女の話だよ』


「聞き間違いじゃなかった!」


 くそう! と再びスマホを取り落としその場に崩れ落ちる銀磁。

 その様子を呆れ顔で見ていたアニムスが、スマホを拾い上げるとスピーカーモードに通話を切り替えた。


「こちらアニムスでありますです、開発者様。ご主人様が精神的ショックでまともにスマホを持っていられない様子なので、スピーカーモードに切り替えたのでありますです」


『ああ、ありがとうアニムス。優秀なメイドだよ、本当に。流石、私が作っただけある』


「ワタシも、開発者様に作って頂けて幸せなのでありますです。それで、ご主人様が今から会いに行こうとしていた女性が詐欺師だったというのは、どういうことなのでありますですか?」


『いや、詐欺師だよ、という言葉以上のものはないんだけれど――まぁ、しいていうなら、彼女は純情な男をひっかけ、必要なだけ貢がせてから切り離すを繰り返しているヒドイ女性という話なんだよ。

切り離しの手際がまたひどくよくて、一度縁を切られると付き合っていた男側が尻尾を掴むことはなかなか出来ないらしい』


「それはまた……よかったでありますですね、ご主人様。開発者様が毒婦から救ってくれたでありますですよ?」


「ああそうだな、オレの心が使い古されて型崩れした帽子のようにべっこべこなのを除けば、本当によかったな……」


 膝をつき続ける気力も失われ床に突っ伏した銀磁は、完全に心が折れていた。

 せっかく美人と知り合って、いい感じでやりとりを続け、始めて会いに行こうと思っていたのに。

 まさか会いに行く直前に、上司から詐欺師だったと伝えられるとは。

『所長』の情報網は確実だ。間違いということはまずありえない。その程度の信頼は残念ながら築かれている。

 それがまた、銀磁の心を沈めさせた。

 そんな銀磁の心の沈み具合を察したように、電話先の所長は少しだけ申し訳なさそうな声を出した。


『ふむ……私も善意で素性を洗ったんだが……伝え方はもう少し考えた方がよかったかな。仕方ない。慰めてやってくれアニムス。私が許可する』


「わかったでありますです、開発者様。このワタシアニムスが、全身全霊をもってご主人様を慰めてから事務所にお連れするのでありますです」


 びし! とスマホに向かって敬礼するアニムス。

 所長とアニムスのそんなやりとりを見て、銀磁は顔をしかめながらゆっくりと立ち上がり、スマホに向かって叫んだ。


「お前らな……男心を弄ぶのもいい加減にしろ――!」


 心の底からの、銀磁の叫びに。

 電話口から、けらけらと子供のように笑う声が返ってくる。

 まるでここまで織り込み済みと言わんばかりの、楽しそうな笑い声に――銀磁はため息を吐きながらも、やはり不思議と毒気を抜かれるような気分になるのだった。



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