第1話『スマートフォンの落下にはご注意を』
わたしは『あの人』を好きだった『あなた』が好きだったから——
その日、安芸宮紅太はスマホのメッセージの通知音で目を覚ました。
春休み最終日。
寝ぼけたまま、枕元に置かれたスマホを充電器のケーブルから外した紅太は、眩しいほどのスマホの画面が見えるように自分の顔の上まで持ち上げた。
「……」
ぼやけた視界の中でメッセージの送り主の名前を目にした紅太は、その人物の名前に目を見張った。
それと同時に、手に握られたスマホ本体が手のひらから離れてしまい、紅太の顔面をめがけて盛大に落下し始めた。
寝起きである紅太の脳では、落下するスマホを避けようと言う判断をするのは当然不可能に近しい。そのため、スマホは無慈悲にも紅太の顔面へとダイレクトに直撃してしまう。
「痛え……」
予期せぬ鈍痛はじわじわと紅太の顔面を支配した。そのおかげですこしは目が覚めた紅太は落としたスマホを回収しながら、むくりと身体を起こすとベットの淵に腰かけてスマホの画面に向き直った。
そこで、紅太は再びメッセージの送り主の名前を確認する。
『ちはる』
それが送り主の名前。
紅太にとってその名前は懐かしさを覚えるものだった。
『ちはる』は、その相手の名前。
フルネームは、千燈千春。
それは、遡ること約四年前。
紅太がまだ中学生のとき、彼女側の親の仕事の都合により、彼女たちが引っ越してしまい離ればなれになってしまった、紅太と同じ年の幼馴染。
それが、彼女——千春だ。
そんな幼馴染からの突然の連絡。
紅太は慌ててスマホのロックを解除すると、メッセージアプリに、千春とのトーク画面へと手慣れた操作で移る。
そしてその内容に、紅太はまたも目を見張ることとなった。
——久しぶりの連絡になってごめんね
その文章が、始まり。それに続く形で、
——紅太は元気にしてたかな?
実はね、先日こっちに帰ってきました。
だから今日の十二時半に海野駅前の広場で待ち合わせはどう?
紅太はどうせ、わたしに会いたいだろうからね
返事待ってます
と、昔となにも変わらない調子で綴られたその文章に、紅太は戸惑うと同時にさらに懐かしさを覚えた。
再度、メッセージを最初から読んだ紅太は、そのあと、
「相変わらずだな、千春は……」
と、呆れ交じりの笑みが自然にもれた。
千春からのメッセージに対し、紅太は返信を入力する前に現在時刻を確認しようとスマホの画面を上から下にスライドさせた。
ロック画面の中央上に大きめに表示された現在の時刻は、十一時三十六分。
千春のメッセージに記入された、指定の時間まではあと一時間ほど。
紅太はベットから立ち上がり、千春とのトーク画面へ戻ると返信を打ち込み、それを送信した。
『わかった』、とだけを。
この日、安芸宮紅太は、数年ほど疎遠だった幼馴染と再会する。
この作品は短編ですが、数話に分割して投稿していきます。
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