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崖の下からの麦下到十郎  作者: てるる
第一幕 序
5/28

第5話 世界偉人伝 ②(邂逅)

───2019年7月28日




 エクストリーム夏休みの到来。

 それを機会に、私(中田敦彦)は日本へ帰国、そして……とある一大プロジェクトを密かに押し進めることにした。

 プロジェクト、それは『エクストリームサイエンス・タイムマシン編』!


 こーれはね、ひっさびさにバズるよ?

 場所は秋葉原。

 私はラジオ会館の8階ホールにて、『彼』の来訪を密かに待っていた。



「えー、基本的なタイムマシンの構造は……配布した資料をご覧いただくとして……ここでは基礎的な理論のみ解説していくこととする。」


 さて、私の待っていた男……ドクター中鉢なかばちの会見がいよいよ始まった。 

 見た目はですね、小太りの小憎らしい男なんですねぇ………しかしこの男、”あなどらないでね”?

 これまであらゆる科学者がその仕組みと可能性を検討してきたんですよ。

 その『タイムマシン』の基礎原理を新たに組み直して、こうして会見に漕ぎ着けた。

 只者じゃないね。


「これまで世界中の科学者たちがタイムマシンについての……」


 私は中鉢の話を聞く傍ら、配布された資料に目を通した。

 私、帰国前からタイムマシンについての仮説や研究にはかなり勉強していたのでですね、資料に書いてあることだいたいは分かると思うんですが………んっ?むむむ?ぬぬぬぬ?


 しかし!私の中に、不意に沸々と沸き起こる感情があった。

 そして、それは資料の隅々に目を向ける程に高まった!

 憤怒、まさにこの感情。


 なんだ、なんなんだこれは……

 この資料に書いてある内容は……ッ!


「「ドクターッ!!!」」


 次の瞬間、私は資料を握り、勢いよく立ち上がった。

 私の叫喚に話しの腰を折られたドクター中鉢がこちらに視線を向ける。


「何だいきなり。」


 その表情は話を遮られた憤怒というより当惑に近かったが、しかし私は尚も続ける。


「「”何だ”ではない!あなたのタイムマシン理論はなんだ!カー・ブラックホール?世界線?どれも、”ジョンタイター”のパクリではないか!」」


 会見に集まった者達の前で、私は資料を叩きつけながら言ってやった。

 さぁどうだ、怯むか?

 その苦虫を噛み潰したような表情はなんだ?


「「”タイター”は自らをタイムトラベラーだと名乗り、2000年にはこの理論をネット上に発表しているんだぞ!知らぬとは言わせんッ!」」


 続けざまに私はそう言った。

 みるみるうちにドクター中鉢の顔にシワが寄る。


「無礼な!もちろん知っておる!あんなインチキ理論と一緒にするな!……『二人』で仲良く声を揃えて、一体なんだね?」


 遂に私に反論を示したドクター。

 ん、いや待て……『二人』?

 『二人で仲良く声を揃えて』と言ったか?

 そう。ドクター中鉢のその言い様は、まるで……私と”他の誰か”が同時に反論していたかのような……



 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…… 


 その時、私の視線の左端から、そんな擬音が見えた気がした。

 私は……私の席の丁度左隣を見やる。

 ハッ! そこには、私と全く同じ姿勢で、資料を片手にドクター中鉢を指差す……太った男の姿があった。


 ドクター中鉢のような小太りではなく、本当に太った、中年というよりは爺さんに近い男。

 この男……私と全く同じタイミングで、ドクター中鉢に全く同じ反論をしてみせた!

 そんな男と私が視線を交える。


「まさか、全く同じことを言う人が居るとはな。」

「あ、あなたは……?」

「僕は『岡田おかだ斗司夫としお』。君はなかなか面白そうな奴だ。こんな会見は出て、僕と話をしないか?」


 私はその男の提案を断れず、共に会見の場を後にした。

 ドクター中鉢の視線が去り行く私達の背中に痛いほど刺さったが、しかし!私もまた、この会見以上にこの男の誘いが魅力的に見えた。


「”タイター”かぁ……」

「そう言や、”ジョンタイター”の本にも似たようなこと書いてあったな」


 始まって数刻……だが、私達の提言により、会見の場は既に少しだけ冷めて来ていた───。



◇◇◇



 『岡田斗司夫』と名乗ったその男は生粋のSFオタクであった。

 デブだと自虐をしつつも、その脳内は教養や様々な蘊蓄うんちくに富み、そして何より……独自に”タイムマシンの開発”を行っているという言葉が私の心惹き付けた。


「入ってくれ。僕の『ラボ』だ。」


 そう言って案内されたのは、『ガジェット通信』と書かれたビルの更に奥まった一室だった。

 『ガジェット通信』のビルはラジオ会館から歩いて数分、地理的には末広町の路地裏に位置している。


 ガチャ! トントン……私は『ラボ』と紹介された部屋の扉を抜けた。

 タイムマシンの開発、というのだから大層な研究室を思い浮かべていたが、しかし実際は大したことはなかった。

 そこは、ただ雑居ビルの一室だった。


「おっ!おかえりオカリン。」

「あぁただいま。皆んな聞いてくれ、今日は面白い奴を連れてきた。」


 その部屋には我々の他に二人の……『ラボメン』と呼ばれる者たちが居た。

 そしてどうやら、この『ラボ』内では岡田さんは『オカリン』と呼ばれているようでもあった。


「紹介しよう。中田敦彦くんだ。」

「敦彦?なら『あっちゃん』で行きましょうか。」


 早速、私に『あっちゃん』とあだ名を付けたのは、岡田さん(以降オカリンとする)によれば、ラボメンナンバー001『ひろゆき』。

 このビル、『ガジェット通信』の取締役にしてラボ創設者だ。


「私、ヒゲオヤジと申します。」

「気軽に『ダルパティーニョ』と呼んでやってくれ。僕の頼れる右腕だ」


 そして、ヒゲも無いのに『ヒゲオヤジ』と名乗った男がラボメンナンバー003。

 オカリンから付け足された『ダルパティーニョ』というあだ名は本名のもじりだと言う。


「見てくれ、これが僕らの作っている”タイムマシン”さ。」


 先程、私はこのラボを『なんてことはない雑居ビルの一室』と言ったが、しかしその最奥には……何やら、得体のしれない物体が置かれていた。

 一見すれば電子レンジのようだが、そこはかとない妖気を感じる。


「理論上はタイムトラベルが可能な筈なんだ。」

「これは?」

「『電話レンジ(仮)』さ。さっき、ドクター中鉢の会見で僕は彼の理論を『ジョンタイターのパクリだ』って言ったけれど、タイターの理論自体に僕は否定的じゃない。このタイムマシンだってタイターの理論の延長線上のものだ。だからこそ、僕はタイターの模造でしかない中鉢の理論に怒ったんだけどね。」


 詳しい説明はここでは省くが、この”タイムマシン”(には見えないが)は電子レンジに携帯電話を接続することで……


【ここでは一部省略しディレクターズカット版をお送りいたします。】

 

 そうすることで人の魂を情報に還元し、幽体離脱のような状態で過去へ行くことが出来るというのだ。

 その隠された機能を発見したのはつい最近のことらしく、オカリン含めラボメン達はそれまで遠隔操作が出来る電子レンジとしてこれを重宝していたらしい。


 遠隔操作型の電子レンジ……それはそれで便利そうだ。


「この電話レンジ(仮)はもともと、今は居ない『ラボメンナンバー002』が粗大ゴミから拾って来た物でね。本当、こんな理論が組み込んであるとは思いもよらなかった。」


 聡明な読者なら既に気付いたかもしれません。

 そうなんです。

 オカリンは『独自にタイムマシンを開発』と言いながらも、偶然手にした『作りかけのタイムマシン』を整備しただけだったんです。


「内部理論は完璧だ。下階のブラウン管テレビが点灯している時間しかタイムマシンとして起動しないことも突き止めた。ブラウン管テレビの発する特殊な電磁波がカー・ブラックホールの働きをしていたんだ。………あと、他に何が足りないのか、あっちゃんの意見を聞きたい。」


 確かに、オカリンの説明する電話レンジ(仮)の理論は完璧だ。

 私程度のエアプにもはや言えることは無い……そう思えた。


「そう、ですか……」


 私はう~むと考えてみたがやはり答えは見つからない。

 が、しかしその時だった。


「フッ……フフフ、フハハハハハッ!」


 私の口から笑みがこぼれ出す。

 あぁそうだった。

 私の名は中田敦彦……『I'm PERFECT HUMAN』。

 私はその笑みを禁じ得なかった。

 

「な、なんだその笑いは!?」

「あーッハッハッッはっは!」

 

 そう、このタイムマシンのメインシステムは飽くまで『電子レンジ』。

 ということは、この『電話レンジ(仮)』による『タイムトラベル』は……『電気』によって引き起こされるということだ。


「……オカリン」

「な、何だ?」

「この電話レンジは……おっと失礼。この電話レンジ(仮)は、『なに繋ぎ』だ?」

「はッ!まさか……あっちゃん、君は……」


 小学生でも習うごくごく一般的な電気(電流)の基本。

 ───直列か、並列か。


「ダルパティーニョ!」


 私はオカリンの言葉を待たずして、先程『優秀な右腕』と紹介されたダルパティーニョの名を叫ぶ。


「この電話レンジ(仮)を、『直列繋ぎ』に繋げ直せ。」


 導き出された仮説はこうだ………タイムトラベルは非常に消費電力が高かった!

 並列回路ではその電力量を供給できない。

 直列繋ぎだと一瞬で全ての電力を使い切ってなんとか一度だけタイムトラベルができる!


「あっちゃん、直列に繋げ変えたぜ?」

「よくやった。」

「あっちゃん!君は最高だ!君をラボメンナンバー005として迎えたい!」


 ダルパティーニョ、並びにオカリンが私にそう告げると、私は……その手を電子レンジの起動スイッチへ延ばす。

 そして………その時、私の意識がどこか遥か遠くへ持ち去られる感覚が襲った───。



◇◇◇



 次に目を開いた時……

 結論から言おう。

 バッ! そこには、『明治の世』が広がっていた───。




つづく

ラボ構成員


ラボメンナンバー001

「ひろゆき(本名:西村博之)」


ラボメンナンバー002

「???」


ラボメンナンバー003

「ダルパティーニョ(本名:???)」


ラボメンナンバー004

「オカリン(本名:岡田斗司夫)」


ラボメンナンバー005

「あっちゃん(本名:中田敦彦)」

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