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崖の下からの麦下到十郎  作者: てるる
第一幕 序
3/28

第3話 CODE - NAME「ジンジャー」

※史実とは多少、時系列的に異なっています

─── 西暦2005年・六本木




 私の名はスティーブ・ジョブズ。

 私が『アスペルガー症候群』であることは既に周知されていることだろう。

 しかし、そのことは本稿に何ら関係は無い。


 今、私の気分は絶好調だ。この上ない。

 どれくらいの絶好調かと言えば……そうだな、『木星(Jupiter)』くらいかな。ハハハ!

 おっと、アメリカンジョークはジャパニーズには理解出来ないかな?


 何故そこまで(木星ほど)私の気分が良いのかと言えば、そう、私は世界の……歴史の分岐点をいち早く目にしたからだ。

 その名は、CODE - NAME『ジンジャー』───。

 それは正式な名称ではない。

 一般に公開もされていない。

 私を含む、世界的なIT界の著名人らだけに実物を見る特権が与えられた『極秘』の発明品である。


 正体不明の『ジンジャー』に対し、マスコミの期待は過熱し、こぞって『ジンジャー』の話題を伝えている。

 しかし、実際に実物を拝見した私から言わせて貰おう。

 その期待は決して裏切られはしないだろう。

 それに関しては、かの『ビル・ゲイツ』や『ジェフ・ベゾス』らも同意見だ。

 ま、私の『iPhone』ほどではないがね。



 私の想いはただ一つだ。

 未だ知られざる『ジンジャー』への感動を共有し合いたい。

 その想いから、私は今日、日本を訪れた。

 日本に居る、我が親友に会いに。

 彼の名は……そう、時の首相・『小泉純一郎』である。



◇◇◇



 待ち合わせ場所に指定したのはサイゼリア。

 壁にはかの有名なヴィーナスの誕生が飾られていた。

 本物でないとは言え、やはり美しいものだ。


「待ったかな……?」


 すると、待ちわびた小泉純一郎がテーブル席の向かいに腰掛ける。


「いや、私もいま来たところでね。」


 言いながら純一郎を見上げた私であったが、視線の先には親友・小泉純一郎と、そして何やら巨漢の男が控えていた。

 


「ミラノ風ドリアを3つに、マルガリータピザ、リブステーキを1つ……それと、イタリアンジェラートも1つ良いかな?それとドリンクバー3セット。」

「少し多くないか?」

「彼はよく食うんだ。ハハハッ。」


 純一郎は注文も早々に、早速ドリンクバーへ駆けた。

 テーブル越しに私と、その巨漢の男が見合った。

 一体彼は何者なのだろうか。


「………名前はなんと?」


 沈黙を破ったのは彼の方であった。


「あ、スティーブ・ジョブズです。」

「私は『貴乃花たかのはな光司こうじ』と言います。」


 そう言った彼は、私に右手を差し出した───。


 後で聞いた話だが、彼は大相撲で名を馳せた『大関 貴乃花』と呼ばれる力士であるらしい。

 そもそもだが、私は別に相撲に興味は無い。

 私からすれば、彼も”友達の友達”でしかないのだが、しかし、彼の生き様には尊敬に値するものがあった。


「良い名だ。」


 私は彼と同じく右手を差し出し、硬い握手を交わした。



◇◇◇



「こいつはね、絶対横綱になるね。私は信じて疑わないね。」


 話を聞くに、純一郎は相当、この貴乃花という力士に入れあげているようであった。

 さて、そろそろ本題を切り出す頃合いだろうか。


「それを言うなら『ジンジャー』だって負けてないと思うな。」

「ほほう、話を聞かせてもらおうか?」

「あれは、人間の移動形態を変える革命的な製品だ。」

「と言うと?電車や自動車は、翌年には産業廃棄物か?」

「過言じゃない。電車や自動車はiPhoneに駆逐された携帯電話のようなものだ。」


 私は言いながらも『そんな夢のような製品が本当にあるのか』と、現実を疑いたくなってくるが、あの時、私は確かにそれを拝見したのだ。

 いま私の話したことも勿論なのだが、『ジンジャー』の凄いのは、僅かな体重移動だけで動作するので環境的にもクリーンなのだ。

 この点も、次世代の移動手段として見過ごせないだろう。


「それで、私はその『ジンジャー』とやらは見せてもらえるのかな?」

「……あぁ。当然さ。」


 私はこの日の為に、純一郎と感動を分かち合う為に、わざわざ米国より秘密裏に『ジンジャー』を輸送して来たのだ。

 そして、『ジンジャー』は今まさに、私の宿泊先のホテルに鎮座ましましている。


「じゃ、行こうか。」

「あぁ……そろそろ行こうか。」


 純一郎の口元がふと、無邪気に笑った。

 つられて私もつい笑みを禁じえない。


「では、私も……」


 立ち上がった私達に続き、貴乃花も席から立ち上がったのだが……


「いや、君は関係無いだろう。」

「え…………」


 と、純一郎により一蹴されてしまった。

 しかし、『ジンジャー』とは現段階では極秘の製品。

 見ることが許されているのは世界的な著名人のみ。

 私としてもやはり、貴乃花に『ジンジャー』を先んじて見せる気にはなれなかった。



 そして、ホテルにて、CODE - NAME『ジンジャー』をその目に焼き付けた純一郎はこう言った。



「感動した!」───





 CODE - NAME『ジンジャー』は、そののち『セグウェイ』と名を新たにし、世界へと羽ばたいて行った。



❸ CODE - NAME「ジンジャー」(完)

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