最終話 新約:世界偉人伝
板垣退助
主な功績:憲政の三巨人として国会を創る
ベートーヴェン
主な功績:古典派音楽様式を極点にまで高める
フランツ・リスト
主な功績:卓越した演奏技巧に基づく作品でピアノ音楽に新しい境地をもたらす
西暦2022年12月31日(東京)───
「2022年12月31日、午前10時でございます。中田敦彦です。500万人登録者、突破するまで生配信ィィィイッンッ!!」
その男は現在チャンネル登録者496万人の芸人YouTuber『中田敦彦』。
熱気を帯びた中田敦彦はホールで叫喚するが、しかし巨大なホールは無人であった。
いや、数人のカメラマン・スタッフを除いて観客は0人といった方が正しいだろうか。
だが、無人で叫び上げるバカバカしさなど意に介さず、中田敦彦は実に12時間淀みなく喋りつづけ、その狂気の末、遂に悲願であったチャンネル登録者数500万人をその日の内に成し遂げたのであった。
時は遡り、2021年───
「本当にこの人はw 喋ってることは賢こげだけどもww 頭悪いなぁwwwってww 正直見てて思っちゃいましてwww」
生配信中のカメラに笑いながら話しかけるのは『岡田斗司夫』。
彼もまたYouTubeでの発信活動を行っていた。
たった今、彼が小馬鹿にした人物こそがあの中田敦彦である。
その後、1時間を超える生配信、更にはその後のメンバーシップ、プレミアム配信に至るまで岡田斗司夫はその調子で語り明かすのであった。
そんな彼と中田敦彦には面識はあるのだろうか……いや、別段そういうわけでは無いのだろう。
時は遡り、2005年(ハーバード大学)───
「ハングリーであれ、愚か者であれ。」
かのハーバード大学で仰々しく今年の卒業生に語りかけるその男の名は『スティーブ・ジョブズ』。
しかし、その実スティーブ・ジョブズは大学を卒業したことなど無いのであった。
だが、翌年。
彼は『iPhone』を発明し、世に変革を起こすのである
その後、膵臓ガンが発見されるも、手術を拒否し代わりにコーヒー浣腸による療法を試みるも2011年、56歳で死亡。
あの時の判断を死ぬ寸前になってようやく後悔した一生であった。
時は遡り、2019年───
「進次郎さんのご結婚おめでとうございます。」
「あー、ありがとう。」
「ご結婚について一言。」
「あー、良い人見つかったんね。」
記者の問いかけに短く答えるは小泉純一郎元総理である。
彼が世界の裏側でどこか闇の組織に属しているのか、それは誰にも知も由ない事である。
そこにはただ、息子の結婚を祝う父の姿があるばかりであった。
「初孫ということですがご心境はいかがですか?」
「はは、おじいちゃんだな。」───
時は遡り、2014年1月(深夜)───
『これが私、”高坂穂乃果”!高校2年!いま私の通う音ノ木坂学園が、大ピンチなのっ!』
その声はテレビ越しに部屋に反響した。
日本のどこかも分からない、家賃3.2万のボロアパートであった。
画面を見つめる男にも名はある……だが、誰しもが知る名ではなかった。
今日も働き疲れ、男はソファに横たわりニヤニヤしながらテレビを見つめる。
そのTVアニメの放送を、男は心待ちにしていた。
男は24分間テレビをニヤニヤ見つめ、そして次の日も男は変わらぬ日常を送った。
この世界は、きっとそんな人々が大半なのだろう。
少なくともこの日本では───
タイムマシンや暗黒の生物兵器など存在せず、ただ時が緩やかに流れる。
しかし、偶には画面越しにタイムマシンや闇の組織のある世界を覗くのも悪くはないし、そこから得たものも人知れずその人の人生に何かをもたらしているのだろう。
そして、時は遡り……2023年6月───
それは日本のどこかのマンションの廊下だった。
二人の男子高校生は学校帰りだろうか、少なくとも片方は制服を身に着けていた。
吹きさらしの廊下で互いにバカ話に花を咲かせ、いつしか……彼らはその場の即興で小説を創り始める。
互いに、一文ずつ言い合い、それらはやがて物語として形をなし……その様を二人で笑いあった。
そんな二人が居た。
崖の下からの麦下到十郎(完)




