第23話 オーストラリア近海、その崖の下
僕の名前は麦下到十郎。
熊本県公認アイドルにして齢43。
いつからだが覚えていないけど……ずっと、夢を見る。
それは自分じゃない誰かの記憶のようでいて、けれども、誰でもない僕の記憶きでもあるような。
───そんな『夢』を見る。
いつからだか。
ずっと昔からのような気もするが、よく覚えていない。
何故なら、それは『夢』なのだから。
───時は遡り、西暦???年
それに確固とした名称は無く……
その存在を知る数少ない者はソレを、俗に『under lab(崖の下研究所)』と呼んだ。
それは一説によれば、第二次大戦中、日本の旧帝国軍が使用した基地であるといわれ、また違った解釈だと、旧ナチスの使用した機密軍事施設だともいう。
共通した認識は、それが『生物兵器の実験施設』であった、ということ。
それは現場を見た誰しもが納得した事実である。
座標はタスマニア付近の岩礁、水深約80m。
入り口(ゲート)は複数存在すると見られるが、現在その全てが発見されているわけではない。
付近の海域は、夜間に『コーラルレイン』と呼ばれる極めて稀であり局所的な自然現象が発生する。
サンゴが海流に乗り竜巻の如く突進する海域は潜水において極めて危険なのだ。
海域の岩々が作り出す入り組んだ構造に潮汐力が交わり、夜間に猛烈な海流を局所的に作り出す。
サンゴ礁は砕け散り、昼間にサンゴ礁を形作っていた物質が海流に乗って水中に激しい竜巻を発生させる。
そんな特殊な環境下に根付いたサンゴは海流が静まると同時に再び付近の岸壁に根を張る。
───そんな極めて特殊な生態系を発見したとある学者が、戦後、under labを初めて発見したのだった。
戦時中、生物兵器の開発に使われたその施設の実態は、現在においても変わらない。
戦後は、その処遇について各国の思惑が錯綜し、徐々にそれは単一の国籍に収まらなくなり、遂にはあらゆる国家において法・条約を越えた機密研究の温床と化した。
───故に、そこは地球科学力の最先端にあり続けた。
その一角に、とある『未確認ウィルス』の集中研究機関『0089ラボ』があった
そして、そこでの指揮を取っていたのは一人の日本人であった。
その名は───『麦下到十郎』。
◇◇◇
以下の出来事は、詳細な情報は愚かその概要さえも一般には公開されることはなく……
また、掘れば掘るほどに複雑難解である為、ここでは中でも中心となった一件のみを追うこととする。
0089ラボ、その研究目的は麦下博士の発見した特異的ウィルスを人間に扱えるカタチに改良し、”過去に干渉”することにあった。
その未確認ウィルスの特異な性質───それは、『時に寄生する』というものであった。
例えば、ある者にそのウィルスを寄生(媒介に)させたとする。
すると、ウィルスはその者の記録を遡り、先祖の肉体へアクセスし、その肉体を媒介に過去へ過去へとアクセスしていく。
ウィルスに寄生された過去の人間は、寄生された影響で過去での動向が変化───その結果として世界線が分岐するのだ。
すなわち、そのウィルスをコントロールする術さえ発見されたなら、人類は遂に意図的に時を操る術を発見したことになるのだ。
それが人類の身の丈にそぐわぬ代物であることは、誰しも察しが付くだろう。
西暦1985年のある日、0089ラボの研究主任・麦下到十郎が殺害される。
彼の死により、脅威の未確認ウィルスに端を発するいかなる事案をも迷宮入りすることとなった。
それが一抹の事件概要である。
が、当然……それで事件は終わらなかった。
麦下博士は、自分の死を予期し、死の寸前、自らにその未確認ウィルスを寄生させていたのだ。
未確認ウィルスに関連する人体実験はいまだかつて行われたことはなかった。
もし成功してしまえば、そこから過去へ遡ったウィルスが過去を無造作に改変するからだ。
その恐怖の引き金を最初に引いたのは、他でもない『麦下博士』であったのだ。
───時は遡り、西暦2019年
思い出した。
僕は僕(麦下到十郎)として今ここに存在しているが、同時に……『麦下博士』から遡った過去のあらゆる人物でもある。
それは時に、『ベートーヴェン』であり、『フランツ・リスト』であり、『板垣退助』であり、『スティーブ・ジョブズ』であり…………そして、この僕。『崖の下からの麦下到十郎』。
この世界は史実じゃあないんだ。
僕が……僕が変えてしまったもう一つの世界。
僕は人間じゃないッ!恐怖の、未確認ウィルス……それが僕の正体なのか。
───そしてッ!under labッ!
奴らは、僕を使って!利用して!自分達だけが時に干渉する術を独占する気だ!
奴らの狙いは、始めから僕だったッ!
死んだ……いや、殺された麦下博士の研究を根こそぎ奪い取るつもりだッ!!
under lab産の未来ガジェット
FG Mark.Ⅰ「麦下到十郎」
FG Mark.Ⅱ「ベーターカプセル」
FG Mark.Ⅲ「モンスターボール」
FG Mark.Ⅳ「怪獣ゴジラ」
FG Mark.Ⅴ「トトロ」
FG Mark.Ⅵ「古代DNA再生システム」
FG Mark.Ⅶ「ギアス」
FG Mark.Ⅷ「ウルトラマンの脊椎液」
etc...
under lab
第二次大戦以降、最先端の科学技術を以て世界の裏で秘密裏に『生物兵器』を開発する暗黒の組織。
未確認ウィルスが麦下博士の先祖に寄生したことで世界線は分岐した。
変動後の世界には0089ラボ、そして麦下博士は存在しない。
だが、under labの最高責任者である▓▓▓は世界線を隔てても記憶が維持する脅威の異能『リーディング・シュタイナー』を持っていた。
変動後の世界における、麦下到十郎を巡る全ての策略は▓▓▓の指揮のもと行われており、小泉純一郎は飽くまで麦下到十郎の応用『イマヌエル・カント計画』の一責任者に他ならない。




