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崖の下からの麦下到十郎  作者: てるる
終幕 求
22/28

第22話 最後の晩餐 

 熊本県庁(9月30日)



───『スタープラチナ・ザ・ワールド。』


───『領域展開、無量空処むりょうくうしょ


───『必殺マジシリーズ。マジ殴り。』



 もういい……言われんでも分かっているのだよ。

 そんなに悲鳴を上げられんでもね。分かっている。

 もう、自分の肉体がとっくに『限界』だってことはね。


 正中線166連撃……流石にあれはマズかった。

 ウルトラマンに変身していたことが幸いだが、肋骨や胸骨はもう再生しようがないだろうね。


「君がしてくれた事だよ。岡田斗司夫。」

「───。」


 返事は無かった。


「私はね、殺しはしないよ。」


 流れ星になって消えた君を探すのに、残された最後のエネルギーを使ってしまったね。

 だが、タイムマシンの秘密を聞き出す為に殺しは出来ないのだよ。

 中田敦彦、西村ひろゆき共に再起不能───

 高坂穂乃果が秘密を知っているとも思えんなぁ。




「───そうだね。最後に一人、君が残っていたんだったな。」


 私が血を吐きながら熊本県庁の廊下へ戻ると、同時にその男が現れた。



◇◇◇



「僕は自分もラボメンの一員だと思っている……あなた方の健闘に敬意を表する」


 廊下の片隅に横たわる中田さん、ひろゆきさん。

 それに穂乃果ちゃん。

 そして、小泉純一郎に引きずれているオカリンさん。

 みんな僕の大切な仲間だ。


「痛みに耐えて、よく…頑張った。……『感動した』。」


 僕は、あの日授かったラケットを、そしてたった二つの球を取り出した。


「麦下さん!ダメだよッ!あいつに見られたら、命令されて殺されちゃう!」

「……穂乃果ちゃん。良いんだ。目と目があって、それで死ぬなら僕の負けだ。」


 僕は寸分違わず、小泉純一郎の瞳だけを見つめた。

 それでなくっちゃあ勝てないんだ。僕みたいな人間はな。

 その時、既に奴の瞳が紅く煌めいていたとしても───



「小泉純一郎が命じる───ッ!」


 僕は、何度も目に焼き付けたあの『構え』を取った。

 たった一度たりとも打ち返せなかった習さんのスマッシュ。

 いま、使わせて頂きます。


「死n…」


 ───その時、麦下到十郎が身に纏ったのは……昔日せきじつの日に目に焼き付けた中国4000年の歴史であった。

 麦下到十郎は調べ上げた末に、遂に習近平国家主席の繰り出すスマッシュの謎を解明したのだ。


 『ヌンチャク』ッ!

 二本の木棒を鎖で繋ぎ止めたその武器は、振り回す遠心力を強大な破壊力に変えるッ!

 回す!回すッ!振り回すッ!!!

 それこそがスマッシュの真髄と知った麦下到十郎は、卓球のラケットを思い切りぶん回したッ!


「ほあた───っ!!!」


 漲る遠心力は怪力となり、二つの鉛玉は圧倒的スピードで小泉純一郎の眉間を撃ち抜いていた───ッ!!!



「んヌッ!?───ぐぶはァァァアアッッ!!!」


 小泉純一郎の身体は、例えるならば崩壊寸前のジェンガ!

 麦下到十郎の放った鉛玉はジェンガのたった一本を吹き飛ばす程度の威力でしかないが、ジェンガはッ!音を立てて崩れ去ったッ!!



 小泉純一郎 vs 麦下到十郎

 ───『決着』ッ!!!





「ぐぶっ、ぐはッ!……遂に、決着が着いたな。麦下到十郎……高坂穂乃果。」

「ああ。」

「ラボメン達の仇を……討ったな。」

「そうとも。」

「私の肉体は……今や内部が木っ端微塵ズタズタに引き裂かれ、立つこともままならん。認めよう、君達の勝利だよ。」


 小泉純一郎……あんたは、優秀なラボメン達をことごとく屠り去るほど強大な人だった。

 けどな。僕には、最後の最後で習さんという親友がついていてくれたのさ。


「もはや組織に帰る顔は無い、か。そうか、なら最後に言い残すことがある。」

「………なんだ?」

「私の、恐らく……たった一人の『孫娘』にな。」


 小泉純一郎は、真っ直ぐ穂乃果ちゃんを見つめながら……一体どういうことか、『孫娘』と言ったぞ!?


「……え、穂乃果?」

「私には二人の息子がいた。一人は俳優として立派に巣立ち、もう一人は……『進次郎しんじろう』は、頭のおかしい奴だった。……」




─── 小泉純一郎視点




「傷自体に問題はありません。つばでも貼っときゃ治るでしょう。しかし……」


 十数年前のある日だった……私は、ひょんなことから我が妻・小泉真理子と口喧嘩の罵り合いになり、遂に平手打ちを頬に喰らってしまった。

 それがあんまり痛かったんで、主治医の内藤に診てもらっていたんだ。


 内藤の顔つきは険しかった。

 これではまるで余命宣告でもされるようだ。

 私はただならぬ緊張感と共に内藤の次の一言を待った。


「小泉さん。……小泉純一郎さん。」

「な、なんだね?」

「───『ADHD』です。」



 突如、衝撃の告白を受けた……ような気がした。

 だが、む?はて、聞き慣れない病名に私はしばし当惑した。


「私が……ですか?」


 聞き返した私に、担当医は口を耳元にそっと寄せ、小声で……そう、まるで身内のキ◯ガイの話でもするように声をひそめて言ったのだ。


「あなた様の奥様がですよ。」



 どうりで、納得がいった。

 我が妻は『ADHD』という欠陥を抱えていたのだ。

 しかしだからと言って、私はそれを悪いこととは思わん。

 人は誰しもどこかしら普通じゃない。

 それにあえて『ADHD』と名前を付けただけのこと───そう思っていた。


 悲劇はそこからだった。



『気候変動のような大規模な問題に取り組む際には、それはきっと楽しくクールで”セクシー”でしょう』


『小泉さんは国政では水と油かもしれないが、水と油も混ぜれば”ドレッシング”になる』


『約束は守るためにありますから約束を守るために全力を尽くします』



 我が息子・進次郎は───『ADHD』だった。

 遺伝していたのだ。

 だが、狂言を吐きつつも進次郎の瞳はいつだって力強かった。


 ある日、些細なことから言い合いになり、罵り合った私と進次郎はそれ以来であった。

 組織に身を置くようになり、いっそう疎遠になるばかり。

 孫が出来たと知らせを受けたが、私は既に『イマヌエル・カント計画』の責任者であった。



「間違いない。君のお父さんは……私の息子、進次郎ではないかな?」

「え、え……知らないよ。」

「知らない?知らないなんてことはないだろう。」

「捨てられたの。穂乃果、要らない子だから。」


 どうかそんなに悲しそうな顔をしないで欲しい。

 『ADHD』が要らないなんて……『ADHD』は素晴らしいんだ。

 私が、結婚したくらいなのだからな。

 それに、小泉真理子は……家系図的に、あの『フランツ・リスト』と繋がっているのだから。


「いいや間違いないッ!何故なら、進次郎の結婚相手ッ!その姓こそが『高坂』なのだからな!」

「………おじいちゃん、なの?」

「そうだ。おじいちゃんだよ、孫娘!」


 私達は抱き合った。共に一時の涙を流した。

 この小泉純一郎、最後まで組織に身を捧げるが、今だけは高坂穂乃果のおじいちゃんだ。



「……言い残すことは、終わりかい。小泉さん。」

「なんだ、まだ老躯ろうくを痛めつける気か?」

「ごめん穂乃果ちゃん。だが、この男、最後の力で何をしでかすか分からない。」



 ブン!ブンッ!ヴンッ!!


 麦下到十郎はラケットを疾風の如く振り回し、残り一つの鉛玉を構えた。



「最後の力……か。」


 ならば、今ここで。

 その力で、君達に一矢報いてやるのも……悪くない。



「小泉純一郎が命じる────ッ!」

「ッ!?穂乃果ちゃん、逃げろ!!」


 私の左眼球が不気味に煌めき、麦下到十郎は咄嗟に穂乃果ちゃんを庇ったが───もう遅い。

 今の今まで抱き合っていた穂乃果……彼女とは、ずっと目が合っているのだよ。






「───生きろ。」



 紅き閃光を高坂穂乃果を寸分違わず貫いていた。

 『ギアス』……一つの対象に一度きりの絶対遵守の異能。


「え……?」

「今の私は穂乃果ちゃんのおじいちゃんだからな。───そして、麦下到十郎、君にもだ。」


 私は次に麦下到十郎の瞳に照準をあわせる。

 彼は、もう逃げはせず、私の目を合わせた。



「小泉純一郎が命じる───ッ」


 彼には『生きろ』などと命令はせん。

 もっと肝心な、何より大切なことを教えねばならん。


「お前は決して知らない!自分自身の『正体』についてッ!『麦下博士の研究成果』、『麦下博士が君に残した世紀の大発見』ッ!『我が組織最大のトップシークレット』ッ!全ては、君の中にあるッ!君にだけは知る権利がある───ッッッ!!!」



 私が今、お前の”記憶の蓋”をこじ開けようッ!

次回 - 遂に物語の真相へ・・・

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