第18話 時(せかい)の破壊者 ②
─── 西暦2005年・六本木
我が心の親友スティーブ・ジョブズが伴って来たCODE - NAME『ジンジャー』。
それはまさに、世界の移動形態に変革をもたらす狂気の産物であった。
いや感動した。───
ところで、私達は興奮冷めやまぬ内に”マッチ棒”で一戦交えることとなった。
恥ずかしい話だがね。勝ったこと無いんだよ、私。
マッチ棒でね。
「最初はブリ!」
「ジャンケン、ブリブリ!」
「俺の方がうんこデカかったから勝ち!」
先行はスティーブ。
早速私の片手は2本指になってしまったよ。
うん?マッチ棒のルールが分からない?簡単さ。
まずは両手の人差し指を突き出す、すると先行の人がどちらかの手に触れてくる。
触れらた方の手が人差し指と中指、合計2本出さなくっちゃあいけないんだ。
それで5本になったらその手は死滅、両手共5本になったら負けさ。
おや、気づけば私の左手が3本、右手が2本。
スティーブの方は左手が1本、右手が4本……か。
そろそろ、奥の手を出す頃合いかな?
「なぁスティーブ。ローカルルールって知ってるかい?」
「私は日本人ではありませんからね。教えていただこう。」
「よかろう。日本ではな、こうすると……」
言いながら私は右手と左手を交わらせる。
簡単な計算さ……3+2=5
両手の本数を合わせて片手にするのはマッチ棒における技の一つだが、合計値が5になってしまってはそれは自爆も同じ………だからこその『ローカルルール』なのだよ。
「こうすることで、私は3ターン無敵!そして指の本数の分、攻撃力は最大の5ッ!」
「あんまりだ!そんなのって無茶苦茶だ!」
「フン!何を言うかッ!最終的に、勝てばよかろうなのだァァァァッ!!」
『郷に入れば郷に従え』……ンッン~名言だなこれは。
「ん?ム………いや待てよ?」
「どうした?降参するなら早くしてもらいたいね。」
すると、スティーブはさっき私がやってみせたのと同じ手の動きを真似たのだ。
スティーブの両手も、合算すれば……5。
持ち時間は同じく3ターン……つまり、先行の負け。
「これで私の勝ちでは?」
「…………負けたな。」
◇◇◇
いつ、いかなる時代においても……『最強』というものには代償があるものだ。
人は痛みがあるから強くなれる。
だからかっこいいのだよ、『最強』ってやつはね。
だから皆が憧れるが、皆が目指す訳じゃない。
それが『最強』なのだよ。
───まるで、あの日のローカルルールのようにね。
「水の呼吸 参の型……流流舞ッ!!」
私を覆う無量空処が解かれた時、既に私の首筋には凶刃が今にも切り裂かんと迫っていた。
しかし───
PERFECT HUMAN……いや中田敦彦。
お前はPERFECT HUMAN故に私をあと一歩のところまで追い詰めたが、PERFECT HUMAN故に、私に完全に『敗北』したのだよ
「ハッ!?」
きっと本人でも気付いてないだろうねえ。
『スタンド能力(スタープラチナ・ザ・ワールド)』で時を止め、私を廊下の最奥まで殴り飛ばして、『無量空処』を展開し、『立体機動装置』を装着して『流流舞』を放つ────この一連の動作が、たったの僅か『0.6秒間』の出来事だなんてね。
あの時、私のギアスの力はPERFECT HUMANに阻まれたかに思えた。
だが、私のギアスは確かにお前に『効いた』んだ。
いや……これから『効く』と言うべきかな?
───『小泉純一郎が命ずる……死ね』
「Yes. your……highness!」
流水を纏った渾身の一撃は私の首筋を微かに掠めたところで動きを止めた。
いや、止めたのではない。
渾身の一撃は渾身の一撃として、急激に方向を変え、真っ直ぐ、ただ一直線に自らの首へ向かって行ったのだ。
「皮肉なものよの。私を殺す筈の一撃で己の首をハネようなんてね。」
ジ・エンドだ中田敦彦。
「ダメッ!!」
「ン何ぃッ!?」
その時、中田敦彦の首に今にも触れかけた凶刃を何者かが取り押さえた。
───こ、高坂穂乃果ッ!
「どうしてみんなすぐに死んじゃおうとするのッ!」
バカな……高坂穂乃果の目にも未だ、私がギアスを使用してから2秒と経過していないはず!
なのに何故だッ!それなのに何故……私の眼の前に居る中田敦彦の剣戟を押さえつけているッ!?
ま、まさか───彼女は…
私がギアスを使用した後、中田敦彦が『流流舞』を自分の首に向けてから、私達の居る廊下の最奥まで(およそ20m)駆け抜け、そして……大人の男の渾身の一撃を受け止めるだけの『覚悟』を決める。
それらを……実に『1秒』以内に行ったと言うのか!?
まずい……ギアスの力は、対象がギアス使用から5秒以内に命令を遂行せねば効力が消えてしまうんだッ!
高坂穂乃果……あの女ッ!
あ奴の、まるで『暗闇の荒野に進むべき道を切り開く覚悟』!
それを……何故か、私はどこかで見たことがあるような気がする!
だが、だから何だというのか。
ギアスが無に帰したとて、こ奴らを始末する方法を私は数多携えている。
手始めに………私は伴って来たもう一つの『モンスターボール』に手をかけた。
「行けッ!ピカチy」
───「あのぉ、えっと、ちょっと何が起きてるのか分からないんですけどぉ……とりあえず、暴力に訴えかけるって大人として最も愚かで意味の無い行為だと思うんですよね。」
私はそこでモンスターボールを投げつける手を止めた。
───何と?今、私に何と言った?
振り向くと、そこには挑発的な視線を踊らす『西村ひろゆき』の姿があった。
❼ 時の破壊者(完)
次回 - ひろゆき vs 小泉純一郎 世紀の大舌戦