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崖の下からの麦下到十郎  作者: てるる
終幕 求
16/28

第16話 under lab(イマヌエル・カント計画)

─── 時刻・所在地 - 不明



 その部屋は、地中およそ3000mに位置し、関係者ですら近寄らない長い長い廊下の先にあった。

 外部からは隔絶され、青黒いコンクリートの殺風景な内装はまさに核シェルターの様相である。

 日光が入り込む余地は無く、そこを照らす明かりは中央に扇形に現れた数名のホログラムのみであった。

 それらのホログラムが、この場におけるいわば『出席者』である。


「皆様もご存知の通り、21世紀の世界情勢そして科学技術の躍進は刻一刻目まぐるしく変化するものであります。そのような世界を現在の個別の政治が入り乱れるいわば資本主義に則った有りようで制御するなど、到底無理であると。20世紀の幻影に囚われていては、迫りくる『世界の終焉』に対処のしようがありません。」


 扇状のホログラムに正対した、紺青こんじょう色のスーツを身にまとった男が口を開く。

 室内では、その白髪の男のみがホログラムを介さず生身の人間であった。


「叡智あるものこそが最も愚かであることは歴史からも読み取れる。人間は人間自身の叡智によって滅びる運命であると。これは私が日本国において総理を歴任した経験論でもありますが、権力はいずれ腐敗する。……普遍的な平和とは、権力者同士の固い握手ではなく絶対的な『神』の存在によって確約されるものであります。───それに対し、特定の国籍を持たない我ら”組織”が、人間の叡智を集約させ『神』の存在を具現化させる、それが、新たにかの偉大なる哲学者の名を冠した『イマヌエル・カント計画』の概要であります。」


 その男の言葉を受け、静寂を帯びていたホログラムは各々、彼へ質疑を投げかけた。


『神、か。随分な物言いだな。小泉君、いつから我々は闇の組織か怪しげな秘密結社に成り下がったのかな。』

『君は劇場型の総理として持てはやされていたそうじゃないか。しかし、観衆に囚われない我が組織でそれを披露する必要は無いのだよ。』


 ホログラムは口々に小泉と呼ばれた男の仰々しい語り口を批判した。

 しかし、当の本人は僅かに口元をニヤつかせていた。


「仰ることは結構ですが、私からすれば、怪しげな新興宗教へ成り下がることこそが、我が組織に欠けた要素であると考えます。」

『では、説明していただこうか。』

「はい……では、進捗率の報告を兼ねて解説いたしましょう。」


 小泉はホログラムの一つにうやうやしく頭を垂れるが、どこか慇懃無礼であった。


「”麦下博士”の研究成果であるその新型ウィルスは、特異すぎる性状故、人体への影響は無害と断定できます。……そこで、その存在を通じて『神』を形作るには『感染者』という名の『信者』が必要になるわけですが……」

『なるほど、それで新興宗教を表向きの母体とした訳か。』

「その通りでございます。アジア圏では主に”旧統一教会”。その宗教内での高額な献金と称して▓▓▓のDNAを販売する。そうすれば誰も咎める者はいません。」

『信者達は知らず知らずの内に”神”に自身を売り渡すことになるわけだな。』

「左様。それは彼らからしても本望といえるでしょう。農産業を始めとして現在のDNAの加工技術は十分に実用段階に到達している。それも皆様方の尽力の賜物でしょう。」



◇◇◇



「では次に、組織の解析班が報告した『アトラクタフィールドの乱れ』についてですが。」


 小泉がそう言うと、室内に設置された巨大なスクリーンが映像を映し出す。

 それは一部分が小さく乱れた幾何学模様であった。


「それは紛れもなく、何者かが『過去に干渉した』痕跡であります。そう、我々以外に。」

『何かの間違い、ということはないのかね。』

「現状はなんとも言えません。しかし、事が事である以上、調査の必要はあります。」

『”乱れ”の発生地点は……日本か。日本の東京。』

『考え難いが、我ら以外に時に干渉する技術を持った者が居るのなら、慎重な手はずが必要になるな。』

「しかし、ご心配は要りません。既に私自ら手はずを整えている段階であります。この案件に関しては、私が日本国内……いえ、熊本県内で十分な観察と必要に応じて処分を敢行いたしましょう。」


 時に干渉する技術は彼の語った『イマヌエル・カント計画』の根幹をなす技術でもある。

 その技術を組織が独占していることで成り立つ計画だが、小泉の瞳に焦りの色は無かった。


『なぜ迅速な処分を行わない?』

「もしも、何者かがタイムマシンを開発したのなら、我々としてもそれを利用しない手はないからです。」

 

 東京で発生したアトラクタフィールドの乱れ。

 何者かがタイムマシンを開発した為なのか……いずれにせよ、小泉の中で既にそれに対する手はずは整っているのだろう。




 そう、『ギアス』を始めとして組織が開発した数多あまたの技術を小泉は携えているのだ。

 ───そして今、その猛牙が中田敦彦を刺し貫かんとしていた。

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