第15話 ラボメンナンバー002 - 高坂穂乃果
───いつの日かの記憶だった。
『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえらは死ぬ』
その日、熊本県庁の柱の一つにそんなラクガキがされていた。
私と海未ちゃんとことりちゃん……私達が偶然そこを通りがかって、偶然、海未ちゃんがそのラクガキを見つけた。
『穂乃果ッ!!ことりッ!危ないッ!』
それが海未ちゃんの最後の言葉だった。
残酷な最後だった…………
─── 穂乃果視点 9月30日 - 熊本県庁
(中田敦彦死亡まで残り1時間)
「ハッ!」
そっか、私……タイムリープしたんだった。
ってことは、ここが9月30日?
……なんでまた思い出しちゃったんだろう。
海未ちゃんの最期。
時を遡ったから、時の記憶を見たのかな。
「ファイトだよ!私!」
タイムリープしたんだから、今はあっちゃんを救うことを考えなきゃ!
いつ、どこであっちゃんが死んじゃうのかも分からない。
油断は出来ない……急がなくちゃ!
って言っても、どこから探せばいいんだろう。
今、この時点であっちゃんがどこに居るかも分からないし……
分から…… ッ!?
「え……」
その時、私は見てしまった。
廊下の角を、今曲がった……その先の一室。
多分物置?みたいな、役割が特に決まってないあまり部屋なんだと思う。
そこに、真っ赤な血の絨毯に横たわる……宮崎さん。
「そんな……え、嘘っ!?」
死んでる……んだよね。
出血量……海未ちゃんが死んだ時と同じだよ。
ううん、もっと多い。
そんな……じゃあ、これってどういうことなの?
あっちゃんが死んじゃうより前に、宮崎さんは、既に『死んでいた』!?
じゃああっちゃんを殺すのは誰なの?
もうあっちゃんも死んじゃってるってことなの?
そこで、私は気づいちゃったんだ。
その宮崎さんの遺体が……まだ温かいことに。
それに、深く抉られた傷口からはまだ出血が続いている。
それって、犯行からまだ全然時間が経ってないってことじゃ………
「行かなきゃ。」
つまり───犯人が、まだ近くにいるってこと。
全身が震えてきちゃったよ。
ていうか、一人ってすっごい心細いんですけど!
鳥肌も立ってきちゃうし……でも、進まなきゃだよね。
「宮崎さん……」
私、宮崎さんの作品……好きだったんだけどな
なのに、誰も居ないところでこんな事になっちゃって……絶対、許せる訳無いよ。
もう誰も死なせないって決めたばっかりなのに。
───行こう!ファイトだよッ!
◇◇◇
───高坂穂乃果とはどんな人物ですか?
『ADHDですね。間違いありません』
───ADHD?とは一体なんですか?
『注意欠陥多動……まぁ要するに、注意散漫でよく動く人ってことですね』
───では貴女にもよく迷惑をかけたりするのでしょうか?
『そりゃあもう日常茶飯事ですよ。まったく……』
───ひょっとして彼女の尻拭いをする毎日でしたか?
『えぇ平たく言えばそうなりますね。』
───それは大変でしたね。
『その通りですよ。……ただ、それだけじゃないんですよ。穂乃果は。』
───と言いますと?
『確かに注意欠陥多動で迷惑することもありますが、自分の信念や仲間達の一番大切な事柄に怯まず真っ直ぐに向かって行く。それは穂乃果にしか無いものかもしれません。ADHDもあながち悪い部分だけってわけじゃないんですよ。』
───それが彼女と親友である理由ですか?
『はい。……ですが、だからといってやはり、いつ何をしでかすか分からない人です。こちらとしては気が抜けません。───だからまだ成仏できないんでしょうね、私は。フフフ…』
───やはりお辛いですよね。16歳で死んでしまうなんて。
『そうですね。やり残したことだらけです。………ですが、最期に穂乃果達を庇って死んだことは私の誇りでもあるのですよ。』
『穂乃果…… 秋葉原の街から熊本へ来るまで、少しの間でしたが穂乃果と同じ夢を見れた気がします。私としては、あなたのお陰で本当に楽しい毎日でした。……しかし、あなたのせいでまだ現世を離れることができません。だから、また見せてください。あなたの、暗闇の荒野を切り開く覚悟を!』
「え……?海未、ちゃん?」
ううん、居る筈ないよ。
幻覚……かな。
私も怖いんだ。
一本道。この廊下の先に、きっとまだ近くに犯人が居るんだ。
そいつと、あっちゃんの死が無関係なはずない。
そして、私は出会ってしまった。
廊下の先に見えた最初の一人に。
細身で長身の男の人。スーツを来ていて、それで、穂乃果が絶対に知ってる人だった。
「……あ、あの!」
震える手を握りしめながら声を振り絞る。
「……………。」
無言の背中に私は叫びかけた。
「小泉、純一郎!……さん?」
「……。そうだよ?」
「宮崎駿さんと、あっちゃん……ここら辺で見ませんでしたか?」
「うん?そりゃ妙な取り合わせだな。いや見てないよ。」
「………本当に?」
「………本当だよ?」
ニヤニヤしてる。
まるで、全部分かっていて私を試すみたいに。
「嘘だッ!!」
どうしよう、言っちゃった。
バカ!私のバカ!どうしてそんなこと言っちゃうのさ!
それじゃあ、本当に小泉純一郎さんが犯人だったなら、私、殺されちゃう!
「………よく、一人で私に辿り着いた。ファーストライブの時も、私は君の覚悟を称賛したが、孤独に耐えてよく頑張った。」
「───だから、」
「……え?」
その時、小泉純一郎さんの左眼球部分が『紅く』光った。
そして、そこから紅い閃光が迸って、それが……私の身体に………
「『死ね』。」
「……Yes. your highness」
なんだか、頭がぼんやりする。
私、何か言っているみたい……けど、なんて言ってるんだろう。
「穂乃果ちゃんッッッ!!!」
「ふぁっ!?」
ふいに身体が誰かに突き飛ばされる。
私……なにしてたんだっけ。
そうだ、小泉純一郎。全ての黒幕。あっちゃんを助けなきゃ……
「もう大丈夫だ。」
「……あ、あなたは?」
その人は……その私を咄嗟に突き飛ばしてくれた人は、金ピカの衣装に身を包んでサングラスをかけた男の人。
PERFECT HUMAN……?
自然にそんな言葉が出てきたよ。
「あ、あっちゃん!?」
一瞬分からなかった。
けど、それは間違いなく……中田敦彦!あっちゃんだった。
やっぱり、小泉純一郎はこれからあっちゃんを殺しに行く寸前だったんだ!
……けど、間に合ったんだね。
「もう大丈夫だ。私が、来た。」
時系列
9月1日 μ's一行、熊本到着
9月3日 麦下到十郎、熊本到着
9月3日 米津玄師のギアスの力で中田敦彦死亡
9月3日 園田海未、死亡
9月24日 南ことり、憤死
9月25日 μ'sファーストライブ
9月27日 米津玄師、笑死
9月30日 何者かにより中田敦彦『殺害』
9月30日 宮崎駿、死亡
10月1日 μ's一行が東京へ一旦帰る
10月1日 高坂穂乃果、タイムリープ
~
9月30日 中田敦彦、救われる