第14話 時(せかい)の破壊者・序章
───西暦2019年 - 9月3日
(熊本到着より3日後)
事件概要は……『殺人』。
故意に女子高生を狙った計画的犯行であることが現場検証から分かっている。
被害者は園田海未 - 16歳。
───西暦2019年 - 9月24日
事件概要は……『憤死』
事情聴取によれば、被害者女性は仲間と激しい口論になった末に論破され、行き場の無い怒りを爆発させて死に至った。
被害者は南ことり - 16歳。
───西暦2019年 - 9月27日
事件概要は……『笑死』
真相は定かで無いものの、仏の死に顔は大層朗らかであったことから、死因が断定された。
奇妙な事であるが、仏の左眼球は紅く変色していたという。
死者は米津玄師 - 28歳
以上3名が、μ'sおよび麦下到十郎の熊本県来訪以来の総死者である。
また、米津玄師の左眼球の▓▓▓に関して、一般に報道されることは無かった。
◇◇◇(10月1日 - 穂乃果視点)
私、アイドルってもっとキラキラで輝いてるんだって勝手に思ってた。
だけど……そう、アイドルっていうのは例えるなら、自分で自分だけの輝きを放つ太陽みたいな存在じゃなくて、太陽様の光を受けてやっと片面だけ光ることが出来るお月さま。
あれから1ヶ月くらい経ったのかな。
μ'sには新しく麦下さんも加わって、夢だった熊本県公認アイドルにもなれた。
けど……にこちゃんが死んで、海未ちゃんもことりちゃんも死んだ。
それでやっとなれたお月さまに、意味なんてあるのかな。
「………あっちゃんが、殺された。」
その日、麦下さんがオカリンにそう言ったのを私は陰で聞いてしまった。
やっとアイドルになって、一旦東京へ帰って来たのに。
それなのにどうして、また死んじゃうの………?
「また、なのか……」
「また?どういうことだいオカリン。」
「……い、いや。アトラクタフィールドの収束とはこんなにも無慈悲なのか、とな。」
私は二人の会話をずっと物陰から聞いていた。
あとらくたふぃーるど?ってなんだろう。
「岡田さんの持っているタイムリープマシンなら、あっちゃんを救え……」
「同じだッ!……どうせ、また行っても同じだ。一体、僕らが熊本へ行ってからあっちゃんが何度死んだと思っているんだ。もう数え切れない程、僕はあっちゃんの死を見てきた。」
声を張り上げたオカリンの目には涙が浮かんでいた。
「その度に僕はこの電話レンジで過去へ飛び、あっちゃんを救ってきた。そして……その度に誰かが死んだ。それでもあっちゃんはまた死んでしまったんだ!もう何をしても同じだ。アトラクタフィールドの収束によってあっちゃんは死んでしまう………。全部、あの日、僕があっちゃんをラボに誘ってタイムマシンを完成させてしまったからなんだ。……もう、嫌だ。」
大粒の涙をこぼしながらオカリンは麦下さんにまくし立てていた。
「………いいかい、岡田さん。あっちゃんは、ただ死んだんじゃあないんだ。」
「だからそれもアトラクタフィールドの…」
「違うんだ。明確に殺されている。岡田さん、これはあっちゃんを狙った『殺人』だと言いたいんだよ。………僕は、これは何者かがオカリンをタイムリープさせようと企てているんだと思っている。」
「……それはどういうことだ?」
「狙いはきっと岡田さんの持つタイムリープマシンに違いない。熊本県公認アイドルになった僕らはこうして一旦は東京へ帰ってきた。その何者かからすると、それが気に入らない。僕らをいつでも始末することができる熊本に留めておく為に、僕らが東京へ飛ぶ以前の熊本時点であっちゃんを殺した。」
「そんな推論無茶苦茶だ!」
二人はそうして口論を続けている。
私は……我慢できず、その場を飛び出した。
パンッ!
気付いた時、私はオカリンの頬に平手を打っていた。
「”覚悟とはッ!!暗闇の荒野に!!進むべき道を切り開くことッ!”」
「ほ、穂乃果……」
それは死ぬ直前ににこちゃんから託された言葉。
私が、お母さんから教わった言葉。
───私を捨てた、お母さんの言葉。
─── オカリン視点
「”覚悟とはッ!!暗闇の荒野に!!進むべき道を切り開くことッ!”」
「ほ、穂乃果……」
その言葉が僕の心を目覚めさせた。
どうして僕はこんなにもウジウジとしていたのだろうか。
「ねぇオカリン、オカリンはどうして……あっちゃんの為に海未ちゃんやことりちゃんを殺す選択をしたの?」
「……ごめん、穂乃果。仕方がなかったんだ。あっちゃんが死ねば、必ず第三次世界大戦が勃発してしまうんだ。」
その選択は僕だって辛かったさ。
最愛の娘の親友をどうして殺さなくちゃいけないんだ。
けど、あっちゃんが死ぬのを防ぐと、確実に代わりの誰かが死んでしまう。
それも運命なんだ。僕にはどうしようもなかった。
「良いんだよ。……もう、いいの。」
だが、穂乃果はそれ以上僕を責めるようなことは言わず、そして、決意を秘めた瞳を向けた。
「だから、私が行く。私がタイムリープしてあっちゃんを救うよ!」
「ダメだッ!どうして穂乃果がそんなことをする必要があるんだ!」
「岡田さんッ!僕は行かせるべきだと思う。見ろ、16歳の少女にできる顔じゃあない。」
「ハッ!」
穂乃果……その瞳に浮かぶ覚悟を、僕も麦下さんも持ってはいなかった。
それはまさに、暗闇の荒野を照らす光が如き覚悟だった。
僕は、熊本県公認アイドルの座を賭けたμ'sファーストライブを思い出す。
───残酷だった。
長谷田公民館で行わるファーストライブの為に僕らは必死に集客を試みた。
チラシ配りからYouTubeでの宣伝まで……けれど、結果は『無人』。
審査員達の苦笑が僕らの心を貫いた。
その上、あっちゃんが証明を直列繋ぎにした為に、電力が保たず会場は暗転。
僕がタイムリープを試みようとしたその時だった……
『だって~可能性感じたんだ~そうだ、進め~』
穂乃果が歌い出したのだ。
審査員以外無人の長谷田公民館に彼女の美声がこだました。
穂乃果以外のメンバーが揃って怖気づいたのにだ。
そして───
『孤独に耐えてよく頑張った!感動したッ!!』
審査員・小泉純一郎の言葉により僕らは見事に熊本県公認アイドルの座を手にしたのだ。
……その時の穂乃果の覚悟を、今の彼女の瞳に見た。
もはや、僕らでは敵わない。
「……分かったよ。」
僕は肩に掛けていたショルダーバッグ型に改良した電話レンジを穂乃果に手渡す。
「麦下さん……あなたはあっちゃんの死は明確な『殺人』だと言った。」
「あぁそうさ。」
「だとすれば、僕には一つ、心当たりがある。───『宮さん』だよ。」
「宮さん?」
「宮崎駿。熊本県の宣伝隊長にして、アイドル選考の審査員の一人。……そんな彼が、あっちゃんに声を掛けているところを僕は目撃している。」
そして、それ以降、僕は東京に到着するまであっちゃんの姿を見ていない。
更に、宮さんがあっちゃんに声を掛けた時間帯であれば、僕らに気づかれず殺害することが可能だ。
「わかったよ。過去に着いたら、まずは宮崎さんを探してみる!」
「そうだな。それがいい。」
「うん。じゃあ……行くね。」
穂乃果は電話レンジをセットし、タイムリープ開始のボタンに手をかけた。
「もう、誰も死なせない。」
「あぁ。」
「───ねぇ、オカリン。それに麦下さん。」
穂乃果は最後に僕らに言った。
「二人は何のアニメが好き?」
「……アニメ?そうだな、僕は『あぁ女神さまっ』だ!」
「それなら、僕は『ダ・カーポⅡ』!」
「うん!私はね、『シュタインズゲートゼロ』!」
時系列
9月1日 μ's一行、熊本到着
9月3日 麦下到十郎、熊本到着
9月3日 米津玄師のギアスの力で中田敦彦死亡
9月3日 園田海未、死亡
9月24日 南ことり、憤死
9月25日 μ'sファーストライブ
9月27日 米津玄師、笑死
9月30日 何者かにより中田敦彦『殺害』
10月1日 μ's一行が東京へ一旦帰る
10月1日 高坂穂乃果、タイムリープ