アトリエとある期待
サリバはとても驚いた。てっきりこのスイート支局で錬金術士と言う確固たる地位が用意されていると思っていただけに、少しガッカリした。
でも驚いただけ。しっかりやらないと、という気持ちが大きくなったのだった。
ちょっとした騒動になったサリバの勤務1日目。そのアトリエには今局長とモミジだけが残っていた。
モミジはサリバの作った中和剤を手に持って軽く振りながら、のんびりした口調で話し始めた。
「彼女に託しているんですか?」
「そうだ」
局長の口調は硬い。強ばっていると言ってもいい。
モミジと目を合わせようとしていない。
「君も錬金術士なんだろう。彼女は、錬金術士サリバは出来るだろうか。あの迷宮を攻略し、この街を復活出来るだろうか」
「素質はあると思いますよ。荒削りな錬金術ですが何よりも楽しそうに錬金術をする子だった」
二人の間には重い沈黙が落ちる。
この国の行く末は局長の様子から察しれる通り芳しいものでは無い。
黒く塗りつぶされた半紙のような未来だ。
サリバはその黒を白く塗りつぶせる唯一の可能性。
局長のその考えはモミジは痛いほど理解出来た。故にモミジはサリバに対して敢えて評価を明言しなかった。
局長はアトリエを出る際に一言、モミジに言った。
「何は他もあれ君が協力的で良かった」
そう言ってモミジを残して退出して行った。
モミジはその背中を見て呟いた。
「時間はそんなに無いかもしれませんけどね」
不穏なつぶやきは懺悔をするかのように重々しいものだった。




