3話 出ました!ポンコツ王子‼
アスランが慰めてくれた次の日の朝、アスランの子供であるライナスがやってきた。
「やぁ姫さんおはよう。盛大に振られたんだってな!」
緋色の髪に青い瞳を持ち、いつも上機嫌な男。そして若手注目株の騎士。それが彼、ライナス・マーティンだ。
「何の用かしら?わたくしを慰めに来たようでは無いようだけど?」
「アッハッハッハ!姫さん慰めるのは親父の仕事‼俺はその後の担当!」
「その後?」
「そそ!んじゃこれ着て変装してデートしようぜ!」
ライナスに渡されたのは騎士の新兵が着る団服だった。
わたくしが憧れて止まない、黒い団服。
昇格していくと戦場で目立っても問題無く、むしろ目立つために団員は己を現す色に変更していく。
ちなみに、騎士団長のアスランはその緋色の髪と火属性の魔法を使うこと、団長であることから赤と金。
目の前のライナスは通常の騎士とは役割が異なるため、好んで黒を着ている。
ただし、新兵の服とは違い形を少々変えて差し色で白が入っている。
わたくしが騎士になったら、黒からいずれ純白にすると決めていた。
騎士になれると思っていたあの頃はずっと夢見ていたのだ。
わたくしは団服を持ったままじろりとライナスを睨んだ。
「わたくしに対する挑戦状と受け取ってよろしくて??」
「それもいいけどまた今度な!それよりも姫さんポンコツ王子に会ってみたいと思わねぇ?」
ニヤリと悪戯っ子の様な顔をするライナス。
ポンコツ王子は面会謝絶が通常運転。
騎士団のフリをして忍び込みに行こうというお誘いなのだろう。
「…………」
「ずっと悲しんでいても仕方がねぇしさぁ、ちょっと楽しいことして、新しい婚約者見て笑って、帰りに美味いもんでも食おうぜ!なんならそのまま俺と国外逃亡ってのもありだな!」
「この傲慢悪女と駆け落ちする気?わたくし貧しいのは嫌でしてよ」
「ハッ!問題無ぇな!俺と姫さんだったら傭兵やりゃぁかなり儲かる‼っだろ?」
おどけてライナスは肩をすくめた。
公爵令嬢で金がかかると分かっていながら、働かせる前提。それも傭兵。
彼はわたくしが強い剣士であることは分かっているが、それでもなぜかいつも姫と呼んでくれる。
この、女のわたくしも、剣士としてのわたくしも認めてくれるのがライナスの良いところだ。
もちろん、駆け落ちなんて冗談だと分かってはいるがつい嬉しくなってしまう。
あぁ、でもそういうことね。
父であるアスランが慰める担当でライナスは元気づける担当とでも言いたいのだろう。
「その遊びのって差し上げるわ、少し待っていなさいな」
「ん」
応接室から自室に戻り、侍女に着替えを手伝ってもらう。
サラシを巻いて黒い団服に袖を通すと、サイズはピッタリだった。
鏡を見るとそこには、黒い団服を着た純白の女が居る。
黒と白、正反対の色なのに不思議としっくりくる気がする。
「とてもお似合いです……ですが……」
「分かっているわ、今日はそうね、茶色に染めてちょうだい」
純白の艶やかな髪は目立つのだ。だからわたくしは変装をする時は毎回髪色を変えている。
侍女にお湯で洗い流せる染料で髪を茶色に染めてもらい、髪は高々と一つに結ぶ。
化粧で肌の色を少し日に焼けた様に茶色くして、そばかすを作る。
そして瞳の色を濁らせる目薬をつけて、野暮ったい眼鏡をかければ田舎あがりらしき新兵の誕生だ。
パッと見では女っぽいが、そこは団服が何とかしてくれる……と思う。
だって騎士は男しか居ないのだから。
再度応接室に顔を出すと、ライナスはなぜか渋い顔をして頭をガシガシ掻いた。
「あー、悪くねぇんだけど何かなぁ」
「なんだよ、僕の変装に文句でもあるのか?」
話し方ももちろん男風にする。
「いや、何つーか田舎臭すぎて逆に虐めたくなる」
「フフフ、強い奴が来てくれたら大歓迎だ。ギリギリまで打ちのめしてやろう」
「ハハ‼やっと調子出てきたな!傲慢悪女‼」
ライナスの言う通り、団服を着てからは気分が上がっていた。
ライナスが用意した馬に乗り、駆けていく。
「風が気持ちいい……」
「あぁ、こっからはちょっと静かにな。お前を先に入れるからその後で俺と合流だ。俺は正面から入る」
ゆっくりとした風を楽しむ時間が過ぎ、ライナスは王宮の塀の一角に馬をつけた。
馬を近場に結び、塀を背にして両手を前に組んで足場にしてくれる。
わたくしは勢いよくライナスの両手に足をかけ、一気に塀の反対へ飛ばされた。
降りてみると、そこは王宮の忘れられた庭園だった。
王宮の敷地は広大で、中には気まぐれで作ってそのまま放置される様な庭も存在する。
しばらく待っているとライナスが迎えに来てくれて、王宮奥深くの一室に入れてくれた。
途中文官らしき人とすれ違ったが、団服のおかげで特に怪しまれなかった。
「ここ?誰も居ないけど……」
「違ぇよこの上だ」
窓から顔を出すと、壁の装飾が突き出ていて確かに登れそうだった。
わたくしが先に上り、その後をライナスが続く。
ポンコツ殿下の部屋の窓は空いており、そっと中を覗いて見ると人影は無いがベッドの上でもぞもぞと動く布団に丸まった物体はあった。
もしや……アレかしら?
「やべぇ、思ったより面白ぇな!中入ってみようぜ‼」
いつの間にか隣にきて窓を覗いていたライナスが窓枠に足をかけた。
「ちょ、ちょっと何言っているの‼見つかったらただじゃ済まなくてよ‼」
慌てて小声で制しながらライナスの団服を掴むが、彼は逆にわたくしの襟を掴んでひょいと肩に担ぎ上げた。
「だーいじょうぶだって‼見つかっても所詮ポンコツ殿下だ、何とかなるって‼」
「ふざけないで頂戴な‼降ろしなさい‼」
わたくしが小声、ライナスは普通の声量で話して丸まった殿下に近づくが、殿下は全く気がつく気配が無い。そして盛大に独り言を言いながら泣いていた。
ライナスが降ろしてくれても、その様子にわたくしは呆れ過ぎて動けなかった。
「うぇ!うぅっ、グスッ‼……僕が何で悪女なんかの婚約者に……エグッ!」
「……これが、わたくしの……新しい婚約者……」
無能の極みとは聞いていた。
でもここまでとは……。
「プッ!ククッ‼姫さん顔ヤベェーぞ‼」
「……お黙りなさいな」
「グス!……?そこに誰かいるのか?」
殿下の声にハッとして踵を返そうとすると、ライナスに手を掴まれる。
「お初にお目にかかります。私は騎士のライナス・マーティンと申します。
本日護衛の変更がありましてそのご挨拶に伺いました。ノックはしたのですがお返事が無かったため不躾ではございますが御身の確認のためにも入室させていただいた次第にございます」
さらっと嘘を吐くわね。
ただ、このまま丸く収まれば一番良いので黙っておく。
殿下は布団に包まったまま、もぞもぞと顔を出す。
出てきたのは、黒い髪に紫色の瞳、そして褐色肌の青年だった。
布団から出てきた姿にわたくしもライナスも目を疑ってしまった。
「瞳が……紫???」
王家の血を引く者は総じて目が碧い。
このポンコツ王子の母は確か異国の血を引く人だったから肌や髪色は良いとして、王家の証である碧い瞳を持たないのはおかしい。
思わず口にしてしまったわたくしをジロッと殿下は睨み、次の瞬間その紫色の瞳をこれでもかと見開いた。
「お‼おま」
あら、わたくしとどこかで会ったことあるのね。
どうしようかしら。
いくら変装しようとも、元の顔立ち自体は変えられない。
顔を見られるまでは逃げればなんとかと思っていたが、顔を見られてしまっては仕方がない。
焦らなければいけないのだが、呑気にかまえているとすかさずライナスが殿下の口をふさぎ、そのままベッドに押し付けた。
「殿下、ちょおっと静かにしていてもらってもいいでしょうか?訳は説明しますので」
にっこりとライナスは告げるがその手には小さいナイフが握られている。
ライナスやりすぎよ。
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次回1時間後に更新します。
本日5話まで投稿し、また書きたまったら投稿します。