常和
私はレステ。4歳。孤児だ。
私にはもう一つ記憶がある。名前は綾部常和。女。独身。日本で生きて、30代も後半に差し掛かったあたりで死んだ。死因は多分アレルギー。死亡診断書にはどう書かれてるかはわからないけど、原因はアレルギー反応からくる何か。
会社の習慣で、年末の最終出社日は午後から掃除して納会という流れなんだけど、私はどうしても予定の合わなかったお客様に午後からご挨拶に向かうことになっていた。ご挨拶して、年明け以降の打ち合わせの予定も確認して、結局帰社したのが夕方。最終出社日なんて、早い人は有給取って休暇に入っているし、出社しても納会の乾杯が終われば、定時前に帰ってもOKになっている。
先方を出る時点で電話で簡易的には報告を済ませてはいたので、帰社して荷物を片づけたらおしまいになるはずだった。それが電車の遅延で遅れ、到着したころには早い人は帰宅している。まだ残っていた上司を探して納会会場に行き、残っていた人にご挨拶していたら、気を使ってくれた上司が折り詰めをくれた。電車遅延で帰社が遅れると分かった時点で、総務の女性に頼んで、少し取りおいてもらったそうだ。
思いがけず、そんなことを伝えられて、恐縮しつつお礼を言って、すごく良い気分で荷物を片づけて返ってきたんだ。そこまではよかった。明日からは買い物と掃除と、なんて年末年始の予定を考えながら帰宅して、頂いた折り詰めで一人納会なんて思ってたんだ。
誰かが取り分けてくれたオードブル。つまりは、自分で作ったわけでもなく、アレルギー原因物質の表示のついていない料理。善意で用意してくれた美味しそうな料理と、休み前の軽い高揚感。で、普通に食べちゃったんだよなぁ、多分カニが入ったキッシュ。
カニのアレルギーで入院までしたことがあって、それ以降、カニ玉とか、カニクリームコロッケなんて食べないように気を付けていた。でも、料理名に”カニ”って入っていたり、外観で明らかに”カニ”だったりして、卵や小麦がダメな人に比べて除去はそんなに難しくはなかった。いくらカニの気配がないキッシュだからと言って、除去に失敗したのは自分。直ぐに薬が使えない状態だったのも、どう考えても自己責任です。
きっとアレルギーを起こして、薬が間に合わなくて、意識不明から死亡に至るってとこだろう。で、休みに入ったのに連絡が取れなくて、連絡を受けたアパートの管理会社に発見された、とかだろうか。
関係各所には、忙しい時期に申し訳ないことをしました。