はじまり
一番古い記憶は、私がこの孤児院に連れてこられた日。
行きなさい、というように背中を押され、振り向いたところで頭を撫でられた。大きな男の人の手だということはわかるけど、それが誰だったかとか、どんな顔をしていたのかまでは覚えていない、とても断片的な記憶。
あとから聞いた話では、私は国境沿いの貧しい村から来た孤児らしい。両親が事故で亡くなったが、村には子供を引き取れるだけの余裕も、近しい親類もいなかった。それならばと、行商人が残された家財道具と引き換えに私を孤児院まで送り届けてくれた。
その行商人は、最後に父が母に贈ったものだという木彫りのペンダントを残してくれて、私は孤児院の住人となった。
そう、それが一番古い記憶だ。
”この世界では”とか、”この体では”という但し書きが付くが...
孤児院に預けられて直ぐの冬、性質の悪い風邪がはやり、小さい子供が何人も死んだ。
私も高熱を出した。体が痛くて、熱いのか寒いのかわからなくなって、目を開けるのさえ億劫になってという状態で、私は私になった。
私は、綾部常和。一度生きて、死んだ記憶がある。
そして、今の私は幼女の体で生きている。